陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

箱根駅伝で優勝を狙う中央大学 出雲7位の後、問われた本気度「必要な経験だった」

中央大の中心、左から4年生の吉居大和(撮影・吉田耕一郎)、中野翔太(撮影・藤井みさ)、湯浅仁(撮影・佐伯航平)

今年1月の箱根駅伝で2位と躍進した中央大学。Wエースに頼れる主将など、経験者が多く残っている今季も、チーム力は高い。来たる第100回大会では、中大が持つ最多優勝記録(14回)を更新し、次の100年へ新たな歴史を刻む。

【特集】第100回箱根駅伝

実力、自覚ともに十分な吉居大和・中野翔太

狙うは1996年以来となる28年ぶりの総合優勝――。藤原正和・駅伝監督は、きっぱりと決意を表明した。

中大は大学駅伝の伝統校だ。箱根駅伝の出場回数は今回が97回目。6連覇(1959年から64年)を含む総合優勝は14回を数え、いずれも大会最多記録だ。近年は2017年に連続出場が87で途切れるなど、やや低迷していたが、前々回の箱根で10年ぶりにシード権を獲得(6位)。前回は2位に浮上し、名門復活を印象づけた。

記者会見で総合優勝を狙うと表明した藤原監督(撮影・上原伸一)

戦力は整っている。学年ごとのバランスも取れている中、チームを牽引(けんいん)しているのが、吉居大和(4年、仙台育英)、中野翔太(4年、世羅)のWエースと主将の湯浅仁(4年、宮崎日大)の3人だ。

前々回大会で1区の区間新記録(1時間00分40秒)を樹立した吉居大和は、前回大会でエース区間の2区を任されて区間賞。駒澤大学の田澤廉(当時4年、現・トヨタ自動車)と、青山学院大学の近藤幸太郎(当時4年、現・SGホールディングス)に競り勝ったのは大きな自信になっている。

「思い通りのレースができました。苦手意識がある上りが多く苦しかったが、チームのために粘り強く走れました」

だが、今季の駅伝では期待に応える結果を残せていない。出雲駅伝はコンディションが万全ではなく欠場。全日本大学駅伝は3区で区間11位だった。それでも、その後の八王子ロングディスタンス(10000m)では28分01秒02の自己新をマーク。しっかりと修正し、ファンの心配も一掃した。

最後の箱根に向けて状態も万全のようだ。絶対的エースは高らかに宣言した。「2区を走りたいです。今度は区間新記録を狙います」

もう一人のエースである中野は前回、3区で区間賞を取った。ただ、今季の駅伝では出雲、全日本でいずれも2区を担うも、6位に。「エースらしい走りができなかった」と振り返る。それでも中野への信頼は揺らいでいない。藤原監督は「1、2年時はケガが多かったが、よく乗り越えて、成長してくれた」と話す。今回の箱根でも往路の重要区間に配置されそうだ。

中野は1区を希望も、2区への思いものぞかせる。エースである自覚が強い証しだ。「エースとして、チームに勢いをもたらすつもりです」

今季の全日本では中野(左)から吉居大和に襷が渡った(撮影・吉田耕一郎)

コツコツと積み重ね、開花した主将・湯浅仁

主将の湯浅は、今季の最終6区を走った出雲と7区を任された全日本で、いずれも区間2位。MARCH対抗戦10000mでは自己ベストを22秒74も縮める28分12秒17を記録した。好調な走りと、練習に取り組む姿勢の両方で引っ張っている。

入学当初は、高校時代から世代トップクラスだった吉居大和や中野との差を感じていた。差を埋めるには練習しかないと、しゃにむにトレーニングを積み重ねたが、藤原監督には、真面目過ぎるように映った。

「もう少し肩の力を抜いたらどうか」と藤原監督から言われた湯浅は、余裕を持つ大切さに気付く。そのことで、より考えながら練習をするようになった。すると、トレーニングの成果も高まり、2年時に箱根初出走を果たした。9区で区間3位と好走し、10年ぶりのシード権獲得に貢献した。

箱根路では2年連続で9区を任されている主将の湯浅(撮影・井上翔太)

藤原監督は湯浅を高く評価している。

「吉居と中野はもともとあったポテンシャルを大学で伸ばしたのに対し、湯浅はコツコツと積み上げて開花した。中大は卒業後の競技者人生を見据えたトレーニングを重視してますが、彼は漠然とこなすのではなく、『自分の体はこうで、これは何のために』と人一倍考えながら、トレーニングに向き合ってきた。だから、パフォーマンスの向上につながったのでしょう。湯浅の姿は下級生の良き手本にもなっています」

3年生にもレースの行方を左右しそうな選手がいる。2年連続で5区の山登りを担った阿部陽樹(県立西京)だ。前回大会は区間3位と健闘した。阿部は「5区に特別な思い入れはない」としながらも、前回トップで往路のゴールへと向かう駒澤大学の山川拓馬(2年、上伊奈農業)の背中をとらえたが、抜けなかった悔しさを忘れてはいない。「どの区間を任されても前回の悔しさを生かしたいですし、任されたところで区間賞を狙います」と言葉に力を込める。

藤原監督は5区に阿部以外の選手を起用することも考えており、阿部が平地区間を走る可能性もある。

前回の箱根で往路のフィニッシュテープを切った阿部(撮影・浅野有美)

吉居兄弟の襷リレー、実現なるか

2年生には吉居大和の弟である吉居駿恭(仙台育英)がいる。前回は4区を走り区間5位と、上々の箱根デビューを飾った。吉居駿恭は今年の出雲では直前のトラックレースの影響もあって、3区11位とブレーキになったが、全日本では1区3位と好走。総合4位につける大きな力になった。

藤原監督は「好不調の波はあるが、世界に羽ばたいてほしい」と、素質は兄に引けを取らないと見ている。

12月11日に行われた「箱根駅伝トークバトル」では、藤原監督が兄・大和と弟・駿恭が襷(たすき)をつなぐ可能性もあると言及した。吉居兄弟のリレーは過去に1度だけあり、2019年の「第55回東北高等学校男子駅伝競走大会」で、1区の兄から2区の弟へと襷が渡された。

吉居大和は「兄弟リレーはできればしたいが、チームがいい結果を出せる区間配置を優先してもらうことが一番。隣の区間になったらうれしいが、まずは自分の力を出し切ることに集中したい」と、あくまでチームが第一であると強調。吉居駿恭も「兄弟リレーをしたい気持ちはある」と述べつつも、「優勝を狙う上で、自分が任された区間を走ることが一番大切」と、自分がするべきことが優先という意思を示した。

今回は吉居大和(右)と弟の駿恭がそろう最後の箱根駅伝となる(撮影・上原伸一)

中間層の底上げも進んでいる

核となる選手が確立されている一方で、藤原監督が強化ポイントにしてきた中間層の底上げもなされている。全日本では4区の溜池一太(2年、洛南)が区間3位、5区の本間颯(1年、埼玉栄)が同5位、6区の吉中祐太(2年、豊浦)同4位と好順位につけ、総合4位を後押しした。

今年、藤原監督は「第100回大会での総合優勝」を目標に掲げ、意識的に「優勝」の2文字を口にしてきたという。選手たちからも「優勝」という言葉がたびたび飛び交うようになり、3大駅伝「三冠」も見据えていた中、出雲は7位に終わった。直後のミーティングで藤原監督が「本気度」を問うと、選手たちは即答できなかったという。

「優勝する、と言うのは簡単ですが、本気で優勝を目指すのは難しい。出雲は不本意でしたが、あの結果はそれを選手たちに教えてくれました。箱根で優勝するための過程において、必要な経験だったと思います」

2016年4月に駅伝監督に就任した藤原監督は「伝統校ではあるが、新しい中大を作りたい」という思いを持ってチームを作ってきた。機は熟した。第100回という記念すべき大会で、15回目の総合優勝をつかみ取る。

4年生は入学時から注目された世代。最後に結実なるか(撮影・上原伸一)

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