陸上・駅伝

特集:第100回箱根駅伝

順天堂大復活のカギは三浦龍司・浅井皓貴・吉岡大翔で作る流れ 今井正人の助言も胸に

順大復活のカギを握る左から三浦、浅井(いずれも撮影・佐伯航平)と吉岡(撮影・浅野有美)

出雲駅伝では10位に沈み、全日本大学駅伝は11位とシード権まで失った。不調にあえいできた順天堂大学だが、大先輩である「元祖・山の神」の助言をきっかけに、チームのパワーはすでに一新されている。箱根駅伝での浮上のポイントは、いかに流れを作るかだ。目標とする前回以上「総合5位以内」は譲らない。

【特集】第100回箱根駅伝

全日本の後、リポートに並んだ厳しい言葉

今季の低迷の原因はどこにあったのか?

「出雲も全日本も、流れに乗れませんでした。駅伝の経験者が少なかった、というのもあるでしょう。昨年の4年生のように流れをつかむこともできませんでした」

長門俊介監督は振り返る。前回の箱根でも軸になった「令和のクインテット」こと、西澤侑真(現・トヨタ紡織)ら5人の試合巧者が卒業したのは大きかった。

昨季のチームを引っ張り、前回の箱根でアンカーを務めた西澤(撮影・藤井みさ)

選手たちにも強い危機感があった。今年の全日本が終わってすぐ、長門監督に提出した各自のリポートには「次の走者のために走る駅伝の基本が薄れている」「4年生に甘さがあるのでは」といった厳しい言葉もつづられていた。トラックに注力して駅伝を忘れがちな選手や、普段の練習を引っ張る上級生への指摘だった。

ミーティングで改めて、こうした仲間からの批判を伝えられた選手たちは、自分自身の問題として真摯(しんし)に受け止めた。「そこからですね。箱根に向けて、みんなで変えていこう、という雰囲気になったのは」(長門監督)

一方で、長門監督は「順天堂大の原点」に立ち返ろうと、心に決めた。

「順天堂大はかつて、全日本の後は記録会などの試合には出ず、箱根だけを見据えて調整をしていました。僕が選手の時もそうでした。『調整の順大』と呼ばれていたこともあり、そこで積み上げたものが、復路での粘り強さにもつながっていました。そこで、温故知新と言いますか、これまでの歴史から学び、箱根までの2カ月弱はそこだけに集中していこう、と」

今井正人の助言「人は今日から変われる」

こうしたなか、チームが大きく変わるきっかけになったのが、恒例の伊豆大島での合宿だった。

「人は今日から変われる」

全日本の数日後にあったこの2泊3日で、大先輩である今井正人(現・トヨタ自動車九州)がくれたアドバイスが、チームにずしんと響いた。「元祖・山の神」の異名をとる今井は、箱根5区で3年連続区間賞に輝いた伝説の人である。長門監督と今井は順天堂大で同期。4年時の箱根では、ともに総合優勝に貢献した。

元祖・山の神とも呼ばれる順天堂大OB今井正人(撮影・堀川貴弘)

今井を合宿に招いたのは「選手の目線から助言をしてくれたら、と思ったから」。11年に実業団選手を引退し、現役から遠ざかった長門監督には近年、自身が「選手目線」になれていないという不安があった。「今井は同学年ですが、途中棄権になったものの、今年はMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)にも出場した現役ですからね」

長門監督もリスペクトする現役の一流アスリートが紡ぐ数々の言葉は、選手たちの心に届いた。変わろうと思えば、すぐに変われる。箱根までに変わるのではなく、今日から変わる。

「伊豆大島合宿を機に、選手たちの意識は明らかに変わりましたね」

浅井は三浦が走った「2区」を希望

では、チームは箱根でどんな「変わった」姿を見せるのか? それは、出雲と全日本ではできなかった「流れ」を作ることである。

混戦が予想される往路で、流れを作る選手としてカギを握りそうな選手が3人いる。

まず、長門監督が大きな期待を寄せているのが、今年の世界陸上男子3000m障害で日本勢としては初の6位入賞を果たした三浦龍司(4年、洛南)だ。

「三浦は世界で通用する3000m障害の選手に成長してくれました。最終学年はトラックで活躍する一方で、藤原優希(4年、水島工)と一緒に共同主将になり、人間的にも一皮むけました。三浦は今井のような、みんなから応援される一流アスリートになれると思っています。だからこそ、最後の箱根では4年間の集大成の走りを見せてほしいです」

今夏の世界陸上・男子3000m障害決勝で6位に輝いた三浦龍司(中央、撮影・内田光)

三浦と共に安定した走りで流れを呼び込みそうなのが、浅井皓貴(3年、豊川)だ。前回の箱根で7区3位と快走した浅井は、チームが苦しむ中でも、出雲、全日本の両方でチーム内ではトップの区間6位を収めている。さらなる成長を、と出場した12月の熊本甲佐10マイル公認ロードレースでは、約16.09kmを46分05の日本人学生新記録で1位に。自信を深めた。

「僕の持ち味は、安定感と後半の粘りです。半面、入りから積極的にいけなかったんですが、甲佐ではその課題に挑み、クリアすることができました」

箱根での区間希望は、前回まで2大会連続で三浦が走った「花の2区」だ。「タイムとしての目標は67分前半で、次の区間につなげる走りをしたいです」とすでに自分が2区を走る姿をイメージしている。

全日本大学駅伝でフィニッシュテープを切る浅井(撮影・内田光)

そしてもう一人の軸が、吉岡大翔(1年、佐久長聖)だ。高校3年時に男子5000mの高校記録(13分22秒99)を樹立するなど、実績がある期待の新人でもある。

出雲では流れを作るべく1区を託されたが、区間11位。長門監督は「1年生、しかも初めての大学駅伝で、負荷をかけてしまいました。高校時代は順風満帆だっただけに、ショックは大きかったと思います」と話す。

全日本も区間14位と高校時代の輝きを取り戻せなかったが、ルーキーは箱根に向けて復調の兆しを見せている。長門監督の信頼も揺らいでいない。「もともと何が原因か、自己分析ができる選手ですし、全日本の後は浅井と変わらない練習量をこなしています」

吉岡は「過去の自分と比較するのではなく、新しい吉岡になる」ときっぱりと誓った。力強い宣言は、2度のつまずきを乗り越えた証しでもあり、高校時代を振り返ることなく成長していく覚悟の表れである。

「自分はあと3回走るチャンスがありますが、今のチームでは最後の箱根。笑顔で終わりたいです」

「復路の順大」と言われたしぶとい走りを

復路で流れを作る力になるのは主将の藤原を筆頭に、年間通して駅伝のための練習に取り組んできた選手たちだ。藤原は主将と選手の両立がうまくできなかったこともあり、出雲と全日本では出走できず、悔しい思いを味わった。

「出雲では1年生の吉岡に重荷を背負わせてしまった、と責任を感じていました。走れない自分が歯がゆかったです。全日本も走れず、悩んでいた吉岡と話をしても、同じ走者として寄り添うことができない自分がいました」

ようやく主将と選手のバランスが取れるようになったのは全日本が終わってから。その頃には、三浦との共同主将のスタイルもしっかりと機能するようになった。

「共同主将という立場ですが、チームの象徴は三浦です」と控えめに話す藤原。だが、個人の10000mの記録を伸ばすことよりも、駅伝を優先して練習を重ねてきたメンバーの象徴は、間違いなく藤原だろう。

藤原(右)は悔しい結果となった箱根9区での雪辱に燃える(撮影・井上翔太)

箱根初出走になった前回は、2区同様の最長区間である9区を走るも16位。本来の粘り強さを見せられなかった。最後の箱根での希望区間は前回と同じ9区。「復路の順大」と言われていた時代のようなしぶとい走りで、流れをもたらすつもりだ。

苦しんだ末に変わった順天堂大。箱根ではおのおのの思いを乗せた走りで流れを作る。

in Additionあわせて読みたい