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特集:第75回全日本大学バスケ選手権

白鷗大学・脇真大 インカレ優勝の立役者、貫いた「いい顔をしてバスケットをやれ」

インカレで得点王とMVPに輝いた白鷗大の脇(すべて撮影・青木美帆)

第75回全日本大学バスケットボール選手権大会 男子決勝

12月17日@オープンハウスアリーナ太田(群馬)
白鷗大学 71-68 東海大学

初優勝を果たした一昨年も、連覇を逃した昨年も、白鷗大学の脇真大(4年、岡山商科大学附属)は決勝戦終了後のコートで泣いていた。しかし今年は笑った。

東海大学の選手たちとのシェークハンドに向かう直前、ほんの一瞬だけ表情がゆがんだようにも見えたが、本人はその瞬間を覚えていないという。「俺、今日泣いてました?」「ちょっと涙、出たっすかね?」と逆に報道陣に尋ねた。

【特集】第75回全日本大学バスケットボール選手権

チームを勝たせる思い強く「寝られない日も」

71-68。最後の最後まで勝敗の見えない激闘を終えた瞬間、その心を占めていたのは安堵(あんど)感だった。

「インカレが始まってから2週間、ずーっとチームを勝たせたいという気持ちが大きかったので。後輩たち、もうほんとにいい子たちばっかで、自分が2年前に見せてもらった光景をどんな形でもいいから、自分が、自分たちの代で見せてあげさせたくて、この2週間は寝られない日もありました。ブザーが鳴って、誰かが来てくれて、そこでやっと『ああ、優勝したわ』って思いました」

自分「が」やる。自分「が」勝たせる。脇のプレーや話しぶりにはいつも強い「自己」を感じさせられる。

2年ぶりの優勝を決めると、胸の内には安堵感が広がった

3年連続同カードとなったこの一戦、白鷗大は東海大の巧みな守備により序盤から乗り切れずにいた。2点ビハインドで迎えた第3クオーターは開始早々に4連続得点を献上し、クオーター終了時に点差は7点まで広がった。

しかし白鷗大は屈さない。第4クオーターは1年を通して磨いてきたディフェンスから走る展開を作り出し、ポーグ健(3年、延岡学園)の3ポイント、佐藤涼成(2年、福岡第一)のペイントアタック、シソコ・ドラマネ(4年、高山西)のポストプレーと様々なバリエーションで加点。脇も速攻に走る、ゴールに飛び込む、パスを出すなど、多くのプレーで起点となった。

「(第4クオーターは)『俺が勝たせてやる』という気持ちもありましたし、自分がやらないとゲームは始まらない、点差を変えられないと思ったので。うちにはいいシューターがいっぱいいるし、ドラ(シソコ)もずっと体を張って頑張ってくれたので、自分起点でどんどんパスを出しました」

自ら矢印を強く出して仲間を生かした脇は、人々の心を引きつけた。この決勝戦でいずれもチーム最多となる17得点4アシストを挙げたエースは、大会得点王とMVPに輝いた。

東海大との決勝は多くのプレーで起点となった

悔しいことのほうが多かった4年間

193cmの上背と強いアタック力を武器に1年時から主力を務め、2度の日本一を経験した脇。しかし、大学4年間は悔しいことのほうが多かったという。

すべての始まりは大学2年時、「FIBA U19ワールドカップ」日本代表からの落選だった。

「自信があったし、覚悟を決めて臨んでいたけれど、思ったようにはいかなくて。そこで『白鷗で結果を出さなければ、この先何があっても代表には選ばれない』と危機感を持てたし、『選ばれたやつらはいい選手だけど、本当は自分のほうが上だぞ』っていうのを見せてやりたいという思いがモチベーションになりました」

そして、高みを見据えるがゆえの脇の強い思いは、ネガティブな形で表れることも少なくなかった。

「プレー中に感情が出るたびに、網野さん(網野友雄監督)から指摘されていました。2年生のときにガツンと言われたときは、ちょっと反抗してしまったこともありましたね。ただ、感情を態度に出していたら組織が壊れてしまうし、そういう態度の選手はプロに行ってもすぐにチームから切られると思う。そういうことを今のうちに気づかせてくれた網野さんには本当に感謝しています」

高みを目指すが故に、かつては感情が態度に出てしまうこともあった

率先してハドルを組み、好プレーをねぎらう

2017年に白鷗大監督に就任して以来、数々の曲者たちと向き合ってきた網野監督は、「僕が白鷗大に来て一番怒ったのは多分脇だと思います」と笑った。

「脇はずっとチームの中心選手としてキャリアを歩んできた選手。そこで得た自信やプライドはもちろん大事ですが、チームの1つのピースとして、周りの選手の活躍やサポートも表現できる選手になっていってほしいと思っていました」

3年前のウインターカップ。高校ラストゲームを終えた直後の脇に話を聞いた。引退を迎えたチームメートたちが涙する横で、脇は一人さっぱりとした顔で今後に向けた話を雄弁に語った。改めて当時のインタビューの文字起こしを振り返ってみると、仲間たちの話はあまり出てこなかった。

しかし大学のラストゲーム、脇は率先してハドルを組み、好プレーをねぎらい、取材でも仲間たちの話をたくさん口にした。

佐藤(右)をねぎらう脇。決勝では仲間への思いがコート上でもあふれていた

「(第3クオーターで3ファウルしたことについて問われ)前だったら気にしちゃってたと思うんですけど、今は他の選手たちがやってくれますし。そのときプレーしていた(佐伯)崚介(2年、土浦日大)、涼成、(嘉数)啓希(4年、豊見城)、ドラに『4つになるときついからリバウンド助けて』って言って『ファウル混んでるからね。了解』みたいなことを言われた時に、『あ、このチーム勝てるわ』って思ったんですよね。誰かが何を言ったらみんなで聞いて、それを絶対に体現しようとする。そこが今年のチームで勝てた要因かなと思います」

自身の考えるエース像は「ずっとついてきてくれた後輩たちに自分の背中を見せたかった」と話し始めた。「これまでも杉山(裕介、現・神戸ストークス)とか(関屋)心さん(現・岩手ビッグブルズ)とか(松下)裕汰(現・レバンガ北海道)とか、色々な選手が自分を支えて、プッシュしてくれたから今の自分がいるので、そういう支えがあるからこそ『自分で決めてこよう』と思えるんだと思います」

網野監督が脇を指導する上で、特にしつこく言い続けた言葉がある。

「いい顔をしてバスケットをやれ」

決勝で撮影した写真を見返してみると、脇はとてもいい顔で大学ラストゲームを戦っていた。

近い将来、B1王者の新しい武器に

インカレが閉幕して3日後の12月20日、前年度B1王者の琉球ゴールデンキングスが脇の加入を発表した。安永淳一ゼネラルマネージャーは一筆目に「脇選手の闘志に惚(ほ)れました」とつづり、桶谷大ヘッドコーチは「ハンドラー(ピック&ロールの使い手)としてペイントアタックができる力が、近い将来キングスの新しい武器になることを期待します」とコメントしている。

決勝戦を見る限り、ハンドラーとしてはまだ課題が多く、このポジションに必須な3ポイントシュートは自身も課題だと話す。しかし、元来備えているポジティブなエゴとプライド、そして大学で学んだ「チームのために自分がいる」というマインドを常に携えていれば、さらなる輝きを手に入れられるはずだ。

大学での経験を次の舞台にもつなげる

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