陸上・駅伝

箱根駅伝、シューズの戦いも熱い! 國學院大・前田康弘監督、選び方も「実力のうち」

選手たちのシューズにも注目が集まる箱根駅伝(撮影・朝日新聞社)

箱根駅伝では選手の着用シューズも注目を集める。あの選手は何を履いているのか、これもファンにとっては楽しみの1つになっているようだ。では、箱根を走る大学の指導者は、シューズについてどう考えているのか。今シーズン、出雲駅伝4位、全日本大学駅伝3位と好調を維持する國學院大學の前田康弘監督に話を聞いた。

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かつての常識は薄底で軽量だった

前田監督は高校陸上の強豪・市立船橋(千葉)で競技を始め、駒澤大学4年次は主将として箱根駅伝で大学史上初の総合優勝を果たした。2007年に國學院大のコーチに就任し、09年から監督を務めている。現在45歳の前田監督が選手だった時代は、シューズの選択肢が少なかったという。

「メーカーもほぼ、国産のミズノさんかアシックスさんの2択で、シューズの色も白と決まってました。もちろん薄底です。競技者は薄底しか履いてなかったですね」

当時のシューズを選ぶポイントは、とにかく軽いこと。軽ければ軽いほど、走る時にスムーズに足が上がる、と考えていたという。「ソールやアッパーについて深く考えることもなかったです」

シューズで個性を出しにくい時代でもあったが、市立船橋高校ではラインが学校のカラーである緑に。メーカーはアシックスだった。「学校オリジナルという感じがしてうれしかったですね」。全国大会に出場すると、学校名の刺しゅうが入った。「高校時代はこのシューズを履くのが、一種のステータスでした」

駒澤大学時代、レースの時はミズノのカスタムオーダーを使って、自分の足型に合ったオリジナルのシューズを履くようになった。練習の時はアシックスの「ターサー」を使っていた。「年間、練習用が5~6足、レース用は2~3足が必要ですね。当時はまだ1足が10,000~15,000円くらいで買えましたが」

國學院大は21年にアディダスとパートナーシップを結び、シューズやウェアなどのサポートを受けている。最新機能が搭載されたシューズでレースに挑める環境だ。11月にお披露目された、アディダス初の駅伝シリーズ「ADIZERO EKIDEN COLLECTION(アディゼロ エキデン コレクション)」は、シューズのラインナップが豊富で、自分の走りや好みに合ったシューズが選べる。

「いまはいい時代だと思いますね」。前田監督はじみじみと口にした。

ちなみに駒大時代は、大八木弘明前監督(現・総監督)からシューズに関する指導を受けたことはなかったという。「靴ひもをきちんと締めなさい、と言われたくらいですね」。前田監督もそこにはこだわっていて、靴ひもを結んだ後、ほどけないように、余ったひもをクロスさせたところに入れていた。

箱根駅伝で3位以内を目標に掲げた國學院大の前田康弘監督(撮影・井上翔太)

厚底による変化にどう対応するか

競技者は薄底で軽量のシューズを履くのが常識ーー。陸上を始めた頃からそう刷り込まれていた前田監督にとって衝撃的だったのが、17年にナイキから登場した“厚底”シューズ「ナイキズームヴェイパーフライ4%」だ。ソールは約3センチだった。

「はじめはこんな厚底で走れるのかな? と思いました。これまでの常識とは真逆の発想ですし……。足は引き上げるものであり、それには軽いシューズのほうがマッチするんですが、地面からの反発をもらう(推進力にする)わけですからね。本当に驚きました」

実際はどうなのかと、前田監督も試し履きをして、軽く走ってもみたが、「接地感がなく、フワフワとした感じでしたね」

だが次第に、厚底を履くようになった選手たちから、「足が残る(疲労が軽減される)」「余裕度が増えた」という声が届くようになった。18年の箱根駅伝では、浦野雄平(当時2年、現・富士通)や、土方英和(当時2年、現・旭化成)ら4人がナイキの厚底で走った。

「浦野と土方はいち早く厚底のメリットに気が付いてました。実業団でも陸上を続けるレベルの選手は、そういう感度にも優れている気がしますね」

厚底を履いた選手たちは、推進力という助力を得ることで、タイムが飛躍的に伸びた。むろん、これは國學院大に限った話ではない。一気に広まった厚底の着用は、ロードレース全体の高速化につながっている。

それは前田監督もひしひしと感じているようだ。

「タイム的に同じなら、シューズ次第で結果が変わる。そういう時代になってます」

シューズが厚底になることで変わったのはタイムだけではない。故障箇所の傾向も変わった。薄底ではひざ下周りのケガが多かったが、衝撃がダイレクトにかかる仙骨や大腿(だいたい)骨の周りを故障する選手が増えたという。

「こうした故障を減らすにも、厚底を履きこなすためのトレーニングは不可欠です。具体的にはハムストリングスも含めた大腿部や尻周りの強化ですね。ここが強くないと、上に跳ねるだけになって、シューズの推進力を生かせないからです。それと体幹の強化も必須だと思います」

2023年の全日本大学駅伝のスタート。レース高速化の一因にシューズの進化がある(撮影・朝日新聞社)

自分の走りの特性を把握する

シューズが進化しているからこそ、選手はいままで以上に自分に合ったシューズを選ぶことが求められている。前田監督は「それも実力のうちだと思います」と言うと、次のように続けた。

「自分に合ったシューズを選ぶにはまず、フォームを動画で撮影してもらって、自分の走りの特徴を客観的に把握する必要があります。自分の個性や特性を理解しないで、みんなが履いているから、といった短絡的な理由で選ぶと、それが故障の原因にもなります。そして、その上でシューズの特徴をよく知ることが大切です。同じシューズでも選手によって接地面が異なりますし、接地感の好みもありますからね」

國學院大の選手たちは、こうしたことを踏まえてシューズを選んでいる。例えば、副主将の平林清澄(3年、美方)は厚底を履いていない。今年の全日本大学駅伝7区で区間賞を獲得した平林がレースで着用していたのは、厚底よりソールが薄い中厚底の「ADIZERO TAKUMI SEN」のシリーズだ。

「このシューズなら、僕が大事にしている(厚底では得られにくい)接地した時の感覚を得られます。それと、反発に頼り過ぎずに、自分のスタイルである足の力で走ることができるんです」

他方、前回の箱根で1年生ながら7区を走った上原琉翔(北山)は、厚底の「ADIZERO ADIOS PRO 3」を着用している。これは厚底が自分の走りに合っているのと、接地した時の柔らかさを重視しているからだ。ただし、トレーニングでは「柔らかい厚底で練習すると脚力が落ちてしまう」ことから、ソールが硬めのシューズ(ADIZERO SL)を履くようにしているという。

2023年出雲駅伝アンカー、國學院大の平林清澄はアディダスの「TAKUMI SEN 9」を使用している(撮影・朝日新聞社)

正月の一大風物詩である箱根駅伝は、メーカーにとって格好のプロモーションの場だ。各メーカーとも選手により良いシューズを届けようと、さらなる軽量性と反発性を追求した新製品を開発している。

しかしながら、これまで履いていたモデルが機能的にアップデートされると、選手は着用感が微妙に変わり、走りに影響を及ぼすこともあるという。前田監督は「こればかりは仕方がないことですが、同じモデルの旧製品は合っていたが、新しくなった途端に合わなくなった、という話は聞きます」と話す。

進化の一途をたどっているロードレース用のランニングシューズ。武器となるギアはシューズだけという選手たちにとって、シューズの重要性はますます高くなりそうだ。

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