アメフト

2度目の「クリスマスイブボウル」 4年生はラストにかけ、1年生は刺激もらった

Red Nose Reindeersの入場パフォーマンス(すべて撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生2~4部リーグのオールスター戦「第2回クリスマスイブボウル」が12月23日、大阪府吹田市のMKタクシーフィールドエキスポで開催された。元立命館大学監督の古橋由一郎さん率いる「Red Nose Reindeers」(R、ユニフォームはホワイト)と、追手門学院大学ヘッドコーチの高橋睦巳さんが監督の「Eve Jets」(E、カラー)が対戦し、最終盤の逆転でRが勝った。

このボウルゲームは昨年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの試合が中止となり、悔しい思いをしてきた選手やスタッフたちの「最後にみんなで盛り上がりたい」という要望を受けて始まった。成り立ちからして厳密な「オールスター戦」ではなく、チームによっては希望者を送り出しているところもある。今回は両チームとも直前の3日間集まって練習し、試合に臨んだ。

試合残り17秒での逆転に喜び合うRed Nose Reindeersの選手たち

最終盤に待っていたドラマ

第1クオーター(Q)4分過ぎ、Rのキッカー栗秋秀⽃(大阪産業大学3年)が43ydの FG(フィールドゴール)を蹴り込んで3-0と先制。Eは第1Q10分すぎにQB⽯崎拓海(大阪体育大学4年)からWR平船新⼤(たいらぶね・あらた、同志社大学4年)へTD(タッチダウン)パスを決めて3-7と逆転した。さらにEは第2Qに入ってすぐ、再びQB石崎がWR⾼⽥諒⽣(京都産業大学3年)へTDパスを通して3-14とリードを広げた。するとRは第2Q10分すぎ、QB⽊村道正(桃⼭学院大学4年)がチームメイトのWR洞⼝⼤弥(ほらぐち・ひろや、4年)に36ydのTDパスを決める。10-14と追い上げてハーフタイムに入った。後半に入るとともに得点できずに時間が過ぎていったが、最後にドラマが待っていた。

4点を負うRは残り時間1分9秒からの相手パスをLB上内颯馬(うえうち、和歌山大学4年)が敵陣40yd付近でインターセプト。チームではFB(フルバック)も兼ねる上内がゴール前19ydまでリターンした。起死回生のパス奪取で、一気にRのサイドラインが活気づく。RのQBのローテーションは百戦錬磨の仕事人、篠原呂偉人(大阪公立大学4年)の番だ。まずはチームのキャプテンであるRB宮井誠之助(桃山学院大4年)のラン。第2ダウン残り6ydで左へ開いたRB天野絢治朗(大阪経済大学3年)へパス。天野は左のサイドライン際を縦に上がってフレッシュ。ゴール前6ydまできた。

残りは28秒。QB篠原が左へ単騎で出たWR洞口へスラントのパスを投げたが、リードボールにならず、EのDB泉勇太朗(同志社大4年)にカットされた。残り22秒。同じフォーメーションから同じパスで勝負した。今度は洞口が泉のマークを外してエンドゾーンに入った瞬間、QB篠原から鋭いリードボールが飛んできてTD。フィールド内のRの選手たちだけでなく、サイドラインの選手とスタッフも喜びを爆発させた。17-14と逆転し、残り17秒を守りきった。試合後の表彰式で、敢闘賞には二つのTDパスを含め、パスがさえたEのQB石崎が選ばれた。MVPにはRから2TDパスキャッチのWR洞口が選出された。

パスがさえて敢闘賞を受けたEve JetsのQB石崎拓海

桃山学院大WR洞口大弥「この試合があってよかった」

洞口は先輩にもらったというUCLAのスカルラップを巻いて試合に臨んでいた。「最後のシリーズは『ここしかない。自分が決める』と思って入りました」と明かした。大阪市住吉区にある浪速高校では野球部だった。アメフト部もある高校だったが、当時はとくに憧れもなく、2020年春に桃山学院大学に進んだ。コロナ禍で新歓もなかったから、洞口はただバイトをする日々を過ごしていた。バイト先の先輩に高校時代アメフトをやっていた人がいて、「向いてるんちゃう?」と洞口に入部を勧めてくれた。それに中学の先輩が桃山でアメフトをしていた。大学1年の12月ごろ、洞口はようやくアメフト部に入った。

WR洞口大弥は2部のライバルだった大公大のQB篠原呂偉人からの逆転TDパスを捕った

3年生からWRの1本目として常時試合に出られるようになった。今シーズンは2部で大阪大学と同率優勝し、入れ替え戦で龍谷大学との熱戦を制して1部復帰を決めた。それでも洞口には不完全燃焼の感があった。「自分が決めて勝った試合がなかった。納得いってなかった」。だからお祭り色が強いボウルゲームであっても、学生ラストゲームにかけていた。第2Qには入部以来3年間ずっとパスを受けてきた木村からのショートパスを捕り、エンドゾーンまで25ydを駆け抜けてTD。そして「自分が決める」とフィールドに入っていった最後のシリーズでも決めきった。「この試合があってくれてよかった。自分が大学でやってきたことを見せられました」。洞口大弥は最後の最後に輝けた。

和歌山大LB上内颯馬「執念で、体で捕りにいきました」

そもそもこの男のビッグプレーがなければ、Rの逆転劇もなかったかもしれない。値千金のインターセプトを決めた和歌山大のLB上内だ。「残り時間も少なかったので、いいポジションでオフェンスに託したかった。パスかな、と思ったら自分のとこに飛んできて、『きた!!』と思って。キャッチは苦手だから、もう執念で、体で捕りにいきました。みんなのおかげです」と笑いっぱなしだった。「もしかしたら」とMVP選出を思い描いていたが、名前は呼ばれず。それでもチームのディフェンスMVPに選ばれ、古橋監督から記念のTシャツをもらった。

LB上内颯真はチームのディフェンスMVPに選ばれ、もらったTシャツを防具の上から着けた

上内は大阪府茨木市にある関西大倉高校に入学したとき、「関倉(かんくら)でしかできないことをやろう」とアメフト部に入った。最初は楽しくなかったが、自分たちがチームを引っ張る立場になって面白さに気づいた。和歌山大に進んで3部にいたチームでアメフトを続けた。2年生のシーズンで2部昇格を決めたが、1シーズンで3部に戻ってしまった。今年は2部復帰を掲げて取り組んだ1年だったが、かなわず。リーグ最終戦も負けて終わっていた。「4年間、うまくいかないことも多かったけど、最後にこういう機会をもらえて、勝って終われたのがよかった。しかも自分自身のラストプレーがインターセプトで、いい思い出になりました」。競技を続けるつもりはないそうで、7年間のフットボール人生を笑顔で締めくくった。

鳥取大CB宇賀逸哲「2部の選手と練習したかった」

このボウルゲームで一番気になったのが、EのCB(コーナーバック)で出場した黒いユニフォームの選手だった。小さくて動きもぎこちない。ただ、やられても、やられても、下を向いたりはしない。メンバー表を見ると、3部の鳥取大学の1年生で名前を宇賀逸哲(いってつ)という。身長は160cmだ。「チームで参加希望をとったら僕だけだったから、来ました」。かすれた声で宇賀が話し始めた。

「2部に上がることを考えるなら、2部の選手と一緒に練習した方がいいと思って」。前向きな姿勢が素晴らしい。7月に参加したクリニックで2部の選手とやったマンツーマン勝負が楽しかったのも、手を挙げる決め手になった。鳥取から出てきて友だちの家に2泊させてもらって3日間の練習に参加、試合前夜だけは吹田市内のビジネスホテルに泊まった。

CB宇賀逸哲(81番)は自ら立候補して鳥取からクリスマスイブボウルにやってきた

神奈川県鎌倉市にある鎌倉学園高校の出身。野球部では外野の控えで、主に代走で試合に出た。中学のころから背は年に1cmずつしか伸びず、クラスで背の順で並ぶと常に前の方。そして高3で身長の伸びも止まった。「僕には成長期が来なかったですね」と笑う。1浪して鳥取大の医学部生命科学科に入った。アメフトを始めると手首を骨折したり、筋トレでギックリ腰になったり。

それでも宇賀にとってはアメフトの練習自体が楽しかった。今年のチームは選手が27人。関西での試合にはバスを借りたり、先輩の車に分乗したりして鳥取からやってくる。中四国リーグに参加する手もあるが、鳥取大レイカーズではレベルの高い関西リーグで戦っていきたいという思いが受け継がれてきたという。

今回のボウルゲームでいいプレーはできなかったが、多くの収穫があった。「関西の2部のレシーバーの動きを見られたし、同志社のコーナーバックの泉さんと一緒に練習できたのが大きい。それと夏のクリニックで『うまいなあ』と思ってた神戸学院1年の大沢君といろんな話ができてよかった。練習の動画も共有してもらってるし、ほんとに来てよかったです」。宇賀が笑った。来春からは米子キャンパスでの授業が増え、練習には週に1、2回しか参加できなくなる。「それでも自分なりに工夫して、うまくなれるようにしたいです」

宇賀のまっすぐな挑戦は続く。

試合後のハドルで、宇賀は最前列で指導者らの話を聞いていた

in Additionあわせて読みたい