悔しさを胸に刻んだ決勝の光景 福岡大大濠・渡辺伶音が誓う成長
昨年12月に東京体育館を主会場に開催されたバスケットボールの第76回全国高校選手権(ソフトバンク ウインターカップ2023)は4年ぶりに声出し応援が可能となり、有料入場者が過去最多6万1554人を記録した。男子は、前年2位の福岡第一が、63-53で福岡大大濠を破り、4年ぶり5度目の優勝。決勝では大会史上2度目の両校による「福岡対決」を制した。日本一をかけた男女全118試合の中から、担当記者の心に残ったシーンを届ける。
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男子決勝の第4クオーター残り28秒、福岡大大濠は、福岡第一に12点のリードを許していた。すでに勝負は決していた。
ここで福岡大大濠の渡辺伶音(れおん)(2年)は、交代を告げられた。プレー時間は計37分59秒。ベンチに戻ると、片峯聡太監督に握手を求められる。「よく頑張った」――。かけられたのはねぎらいの言葉だった。
決勝に進むまで、相手の外国人留学生と互角に渡り合った渡辺の働きは大きかった。
206センチの「ビッグマン」はインサイドでは泥臭く体を張り、アウトサイドでは大柄な選手としては抜きんでた俊敏さとシュート力で相手を翻弄(ほんろう)した。特に、終盤まで競った準々決勝と準決勝ではいずれも20点超を挙げ、チームの勝利をたぐり寄せた。
だが互いをよく知る同県のライバル対決では輝けなかった。大会最少の11得点。相手の守備は素晴らしかった。それでも、渡辺は自身の至らなさに目を向けた。「最後の大一番でシュートを決め切れない。大事なシュートをギリギリのところで落としてしまう。責任感が弱いし、エースとしての自覚が足りなかった」
冒頭の交代シーンには、続きがある。渡辺は、横でスコアボードを指さす片峯監督から、こう伝えられた。「あれが1位と2位の差だ。ちゃんと目に焼き付けて、来年やり返すぞ」
大差がついても、渡辺はコートに立ち続けることができた。「先生がぎりぎりまで残してくれたのは『自分がいなきゃいけない(選手)』という意味」。そう受け止め、成長を誓う。「自分が本当にエースだという自覚を持って、練習中からこの決勝の緊張感を意識してがんばりたい」。経験を糧に、悔しさをバネに。さらにたくましくなった姿を、次の冬には見せてくれるはずだ。
(松本龍三郎)=朝日新聞デジタル2024年01月11日掲載