アメフト

21日「ドリームジャパンボウル」 全日本選抜の大学生6人、社会人に受けた刺激胸に

「2列になりましょうか」と伝えると、最長身の太田が座り、関西勢5人が後ろを固めた(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの国際親善試合「ドリームジャパンボウル2024」が1月21日、東京・国立競技場でキックオフを迎える。第一次選抜で残った選手たちが1月6~8日の合同練習を経て60人になり、全日本選抜チームが結成された。アメリカ北東部のハーバードやプリンストン、エールといった名門私立大8校からなる「アイビーリーグ」の選抜チームと対戦する。第1回の昨年に20-24で敗れたリベンジを期す全日本選抜には、大学生が6人選ばれた。彼らの意気込みを紹介します。ポジションの前の数字はゲーム当日につける番号です。

ビッグプレーを起こして、鬼ほえる

57 DL泉恭輔(立命館大4年、箕面自由学園高)

パンサーズのディフェンスを支えてきた泉は身長180cm、体重134kg。体格ではXリーグの選手にもひけをとらないが、全日本選抜チームの練習では打ちのめされた。「ほんまに強いしファンダメンタルあるし、むっちゃおもろかったっすけど、当たんのは嫌やった。いつもはなかなか自分より上のヤツとやる機会ないんで、いろいろ試したり、頭空っぽでスタートだけ集中したりとか、そういうのは久しぶりやったっすね。マジでペーペーやった。スピードが一番違う。速いし手の使い方もうまくて」

最も衝撃を受けたのはノジマ相模原ライズのDL小宮洋平(帝京大学出身)だそうだ。「シンプル強すぎて、かなわんなと思ったっす」。練習後、小宮が「泉、腕相撲しよーぜ」と声をかけてきた。泉のタイミングで始めていいことになったが、力を入れても小宮の腕は微動だにしない。完敗の泉は「もう手が強い人の手で。分厚かった」と感心していた。

そんな人たちと一緒に最終メンバーに選ばれた。「ほんまにアカンと思ってたんで、大喜びやったですね。発表の日はちょうど西宮の実家に家族、友だちといたんで、みんなに祝ってもらってうれしかった。(フットボールを続けていくにあたって)このレベルで通用したいという気持ちがめっちゃ強くなりました。試合に出られたらビッグプレー起こしたいっすね。それで鬼ほえたい。国立競技場やったら、バリ響くっすね(笑)」

アメリカ人を奥に倒したい

25 DB中野遼司(関西学院大3年、関西学院高)

史上初の甲子園ボウル6連覇を飾った関学からは2人のDBが選ばれた。その一人、中野は昨秋の関西学生リーグ1部の7試合で7インターセプト。とくに立命館大戦で2インターセプトと1ファンブルリカバー、敗れた関西大学戦でもインターセプトを決め、勝負強さが光った。「試合に出られたらアメリカ人を奥に倒したいです。向こうは僕らをナメてくるって聞いてるんで、当たり負けんようにしたいです」と力強く話す。

練習でいいプレーができず、最終メンバーに残れるとは思わなかったという。ただ、関学の選手やコーチから「中野は練習では目立たないし普通の選手だけど、試合になったら変わる」と何度も聞かされてきた。中野は「今シーズンの感じでいきたいっすね」と笑った。

1月14日までの5回の練習で社会人の選手たちから刺激を受けたことについては、意識の面を挙げた。「これがアメフトを真剣にやってる人の考えなんやなというのが分かりました。僕らはやっぱりまだ学生レベルなんやなと。関学ではコーチから『ちょっと前の立命のDB(の映像)をずっと見とけ』って言われるんですけど、奥田(凌大)さん(立命館大~富士通)はまさにその時代の人で、直接いろいろ教えてもらえたのは大きかった」

試合前はいつもスマートフォンを含め、細かい文字を見ないようにするという独特のルーティンを持つ。ドリームジャパンボウルでもその目を光らせ、ビッグプレーを狙う。

やられても食らいつく

37 DB東田隆太郎(関西学院大2年、関西学院高)

身長185cm、体重88kgの大型DBとしてルーキーイヤーから活躍してきた東田は、昨秋のリーグ戦終盤からLB、時にはDLとしてプレーするようになった。今回はDBとしての第一次選抜通過だったため、戸惑った部分も多かったという。「どうしても前にいく癖がついてしまってたし、DBとしての技術が全然ダメで。マンツーマンも久々だったし、アサイメントも間違えてたんで、(最終メンバーに)選ばれるとは思ってなかったです」と話す。

1月14日の練習では社会人のDBの選手から「東田いけ、東田」との声が何度も飛んでいた。「名字を東田じゃなくて東出と勘違いされてて、それをきっかけにイジってもらえるようになりました。うれしかったし気持ちが楽になって緊張感がなくなりました」と笑う。

日本最高峰の選手たちと過ごす中で、初心に戻った。「学生では自分は体が大きい分、本気を出す相手が少なかったというか、それは言い過ぎかもしれないですけど、コイツに勝ちたいみたいな選手がいなくて。その感じで来てしまったから、今回の練習で自分のレベルの低さというか、そんなこと思ってた自分が恥ずかしいと実感しました。いろんな社会人の方から『これをやったらまだまだ成長できる』って言ってもらえて、ウェートもして、技術も高めてフットボールIQも高めたらどんな選手になれるんやろと思ったら、ワクワクしてきました」

さあ、アメリカに挑戦だ。「ケンカになってもいいから、プレーに関係なくても思くそぶつかりにいきたい。やられてもやり返す気持ちで、けがのことなんか考えずに最後まで相手に食らいついて頑張りたいです」

貴重な経験かみしめ、自分らしさで勝負

11 QB須田啓太(関西大3年、関大一高)

2023年シーズンのチャック・ミルズ杯(年間最優秀選手)に輝いた須田だが、当初は第一次選抜で落ちていた。法政大学のQB谷口雄仁(3年、法政二)が甲子園ボウルで負傷し、候補を辞退したことで須田が入れ替わった。さらにエースの期待を受けていた富士通の高木翼(慶應義塾大学出身)がけがで辞退したこともあって、学生のQBで初めて最終メンバーに残った。「全然自分らしさが出せなかったから落ちたなと思いつつ、心のどこかで『残っててくれ』と祈ってたっす。でも最終メンバーに選ばれてからの2日間の練習もダメでしたね。ボールが手につかない場面が何回もあったりして、ほんとに申し訳ない気持ちでいっぱいで」。苦笑いで言った。

練習ではレシーバーとの間でパスのタイミングが合わないケースが何度も見られた。「レシーバーとのコミュニケーションが足りないのかなと。これでいけるんかな、ぐらいの気持ちでプレーしてることが多かったんで。そのへんを詰める機会をいただけることになったので、ちゃんとこの1週間準備したいと思います」

OC(オフェンスコーディネーター)を務める荒木延祥アシスタントヘッドコーチ(パナソニック)からは、試合でやりたいプレーを尋ねられ、伝えた。「出番があったら、ちゃんと自分らしいプレーをやろうと思ってます。本来はここにいる選手じゃないのは、僕が一番分かってるんで。縁とか運とか、サポートしてくださる方々に感謝しながら、貴重な経験をかみしめながら、自分らしさで勝負したいと思います」

須田にとってはこのゲームが学生ラストイヤーの始まりでもある。「早いっすね。今年はチャック・ミルズも関西のベストイレブン(2023年は京都大学のQB泉岳斗が選出)もとって、日本代表も『須田やろ』って任せてもらえるような大きな選手になりたいです」。その第一歩を国立競技場で力強く踏み出したいところだ。

誰にも負けないレシーバーになる

35 WR大野光貴(立命館大3年、立命館守山高)

高1、高2とインターナショナルボウルの日本選抜チームに入り、海を渡った逸材だ。(高3時は中止)。今回の練習でも序盤からナイスキャッチを披露して存在感が高まっていた。最終メンバーに残ると、練習に高校時代の「JAPAN」のヘルメットを持ってきた。

影響を受けたのはパナソニックのブレナン翼(早稲田大学出身)をはじめ、海外でのプレー経験があるレシーバーたちの意識だという。「ミスしても次、次って結構ポジティブな感じで、反省は終わってからでいいと。どんどん前を向いてやっていこうという感じでした」。大学の先輩である33歳の宜本潤平(ノジマ相模原)はことあるごとにレシーバーとしての技術や心の持ち方を教えてくれた。「リーダーシップもすごいあって、こないだも焼き肉につれていってもらって、別の日には補食のチョコレートとかプロテインのジュースとかくれて、めちゃくちゃ優しくしてもらいました。お兄ちゃん的な存在です。めっちゃ髪形もいかついんで、こわい系の人かと思ってたんですけど、印象がだいぶ変わりました(笑)」

同学年のQB須田とは今回の練習で初めてしゃべった。「めちゃくちゃフットボールに対してアツい選手やというのは知ってたんですけど、その印象が強くなりました。須田のボールは捕りやすいし、ロールしたときのプレーがうまい。めっちゃ根性もあるなと思います」

大野は1年秋の関西学院大戦でデビューし、ロングパスを次々にキャッチ。捕ってからの巧みな走りでも大きなインパクトを残した。そこからの2年間は、あの鮮烈なデビューを飾った自分を超える闘いに苦戦してきた感がある。「今回の全日本選抜に入れたのをきっかけにもっとレベルアップして、絶対誰にも負けないレシーバーになります。1年のときのインパクトを超えます」。大野はそう言いきった。

兄が教えてくれた「合格」

86 TE太田明宏(東京大2年、大阪星光学院高)

関西学生リーグ1部の「3強」以外のチームから唯一、東大の太田が学生の最終メンバーに残った。身長187cm、体重98kgの堂々たるサイズながらキャッチもよく、練習では「太田いいねー」「おー、ウォリアーズ」との声が飛んでいた。太田は「この練習があって成人式は行けませんでしたけど、試合で活躍して地元の友だちにもアメフトを頑張ってるのを知ってもらえたらうれしいです」と言って笑った。

大阪市北区で生まれ育った。高校まではサッカーをしていたが、父が関西大、兄が同志社大でアメフト部だったこともあり、現役で入った東大で転向した。フレックスボーンからのオプションに取り組む東大にあって、TEは主にブロッカー。昨秋のリーグ戦は3キャッチ68ydの記録が残る。代表への応募は森清之ヘッドコーチがやったそうだ。「脈絡もなく身長とか体重とか聞かれて、候補に入ったから行ってこい、って」と太田。

選考段階の練習で太田の存在感を一気に高めたプレーがあった。富士通のDB井本健一朗(慶應義塾大出身)とのマンツーマン。縦に抜き去り、飛んできたボールを柔らかくキャッチした。「うれしかったし、あれで注目してもらえたと思います」。最終メンバーの発表時間にXリーグのホームページで確認しようとしていると、兄から電話があって「合格」を知った。フットボール経験者の兄にとっても自慢の弟なのだろう。森ヘッドコーチに報告すると、太田が知る森さん史上最高の笑顔で喜んでくれたそうだ。「とにかく思い切ってヒットしろ」。そう言われた。

自信を持っていたストークのブロックが社会人相手に通じなかったのには驚いたという。「僕の自信なんか簡単にへし折られました。ヒットしてからの処理とか押し込む速さがケタ違いで、そこに圧倒されました」。まだまだ強くなれる。

「チーム最年少ですけど、出られたらそんなの関係なく力強いプレーを見せたいと思います」。フットボール2年目のタイトエンドが初の晴れ舞台に心を躍らせている。

日本代表LB菅野洋佑 米国名門大学で積んだ経験を国内へ、ドリームボウルで活躍誓う

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