アメフト

立教大学が開催するQBクリニックの裏に、マーケチームの存在あり ワンチーム体現へ

立教大学ラッシャーズのマーケティングを主幹で進める鈴木(左)櫻井(中)今井(右、すべて撮影・北川直樹)

3月10日、立教大学ラッシャーズが、NFLのインディアナポリス・コルツで活躍したQBアンドリュー・ラック氏を招いて、QBクリニック(実技指導の体験と実演)を開催する。立教は、昨年もタンパベイ・バッカニアーズのWRコーチ、ブラッド・イジック氏(現・カロライナ・パンサーズ攻撃コーディネーター)を招いてチーム内でクリニックを実施していた。今回は学外向けにもイベントを開放し、日本の学生フットボール界の発展に加え、観客に対しても一流選手の指導を間近で見られる機会の提供を目指す。このイベントの事前準備と運営面を主体的に行っているのが、ラッシャーズのマネージャー陣で組織されているマーケティングチームだ。今回は、チームの中心メンバーを務める鈴木晴(4年、香蘭女学校)、櫻井杏(3年、香蘭女学校)、今井夏子(3年、実践女子)に、取り組みについて話を聞いた。

イベント当日にピークを持ってくる情報発信

近年、専属のマーケティングメンバーを配置して、SNS運用やクリエーティブコンテンツの製作を行うチームが増えている。ラッシャーズでは、マーケティングチームという役職を3年前に設置し、SNS運用や試合、イベントでの集客企画、グッズ作成などの役割を分担して行ってきた。しかし、専属のマーケティングメンバーは置かず、マネージャーのスタッフ約10人を兼任という形でそれらの役職に振り分け、実務を担っている。

そのため、日頃は日々の練習運営を中心に活動し、シーズンに向けてマーケティングの各業務スケジュールを管理しながら進める。今回のクリニックは、チームとして初めて行う大規模イベントということで、実施に至る一連の準備をコーチ陣と連携して行ってきたという。

昨季からシニアアドバイザーに就任した有澤玄コーチは言う。「ラッシャーズのアドバイザーとしてサポートしてくれている、スタンフォード大学コーチの河田剛(かわた・つよし)の紹介で、昨年と今回のクリニックが企画されています。イジックもラックもスタンフォード出身で、彼と同じチームでプレーしていた選手なんです」

クリニックのタネとなる企画の背景はこれだ。そこから3月10日に実施するまでのプロモーションについては、マーケティングチームが主に担っている。リーダーを務める鈴木は言う。

「会場となる富士通スタジアム川崎はキャパシティーが4000人弱です。有料で観客を呼ぶのは当部にとって前例がなく、その領域の専門的な人もいないので、探り探りでやっているのが実情です。先日参加者の募集をリリースし、かなり多くの反響を得ています。SNSのインプレッション数(表示回数)もこれまでには無い大きさで、驚きとともにやりがいを感じています」

最上級生としてマネージャーとマーケティングチームの両方で中心的な役割を果たす鈴木

鈴木と櫻井が主にSNS周りの運用をしていて、2人はイベント当日までに適切なピークを持ってくるように工夫もしているという。「一番まずいのは、最初に情報を出しすぎて飽きられてしまうことだと思うんです。なので、発信する情報の粒度と頻度をしっかりと管理して、イベント実施時にしっかりとピークを作れるように考えています」と櫻井。

主にグッズ企画を担当している今井は、「今回のイベントに合わせて新しいグッズ製作の予定があります。まだ具体的にはお話しできないですが、クリニックに来てくださった方にもっと楽しんでもらえるように考えて準備しています」と話す。

マーケティングチームでは、どの程度集客すれば運営上の損益が出るかの予算目標も持っている。おのおのが設定した目標を把握し、ミーティングを通して現状の課題を理解する。その上でどのようなアクションをとるべきかを考えながらチームを運営している。彼女らの目には、しっかりとした意思と力が据わっていた。

マーケティングチームによるミーティングの様子(提供・立教大学ラッシャーズ)

「役職を超えた一体感」を強みに

ラッシャーズのマーケティングチームは、マネージャーが職務を兼任しているため、練習時はドリンクの用意やタイムキーパーをはじめ、ビデオ撮影といったマネージャー業務も行う。一方で法政大学や東京大学などは、独立してマーケティングチームを組織しており、こういったチームとは運営のやり方や特性が異なる。マーケティングの仕事だけに集中できない点で、苦労や悩みはないのか。鈴木は言う。

「もちろん組織力の強さなどに課題はあると思いますが、マネージャーとマーケティングを両立することの良い面もすごくあると考えています」

普段マネージャーの目線でチーム練習や選手たちのコンディションなどを見ていると、例えば最近活躍している選手や、伸びている新入生などに対して思い入れが出てくるのだという。「こういう感情が、マーケティングの根底にあるやりがいにもつながってくると思っていて。“ワンチーム”をマーケティングチームのミッションにしているので、役職を超えた一体感はとても大事だなと考えています」

練習中はSNSで活用するための素材撮影も

SNSで発信する画像や動画などのクリエーティブ(製作物)についても、各メンバーが主体的に学んでスキルを身につけてきた。

「最初は何もわからない状態でAdobe(写真や動画の編集ソフト)の使い方を勉強しました。NFLチームやXリーグチームのSNSを見てまねしたことも。最近は部内だけではなくチーム外からも『すごいね!』と言ってもらえることが増えてきました」

もっと期待に応えられるように、クオリティーを高められるよう頑張りたいと、櫻井は言う。

選手が練習中に見せる様々な表情を逃さず写真に収める

試行錯誤しながら、成功の形を模索

昨年、東京ドームで開催された明治大学戦では、部の89周年にかけて890人の集客を目標に立てた。事前のSNS広報、グッズのアピールなど様々な施策を打ち、約1000人の動員に成功した。

このときを振り返り、「“スタンドを(チームカラーの)紫に!”ということで、キャップやタオルなど様々なグッズを企画し製作しました」と今井は言う。

グッズ企画、販売を主導する今井は「クリニックでの企画も楽しみにしてほしい」と話す

「ラッシャーズでは、立教小学校のフラッグフットボールの授業に大学生が教えに行ったり、立教新座の高校ラッシャーズと練習したり、ラッシャーズファミリーとしての取り組みを日頃から大事にしているんです。そういった縦の連携に加えて、一般学生にも広くアピールすることで、飛躍的に動員数を伸ばせたのかなと思います」と櫻井は手応えを口にする。

インスタグラムでは部員たちの素顔やカジュアルなコンテンツを増やすことで、親近感が出るような訴求をした。アメフトのプレー動画といった、ともすれば一般の人が心理的なハードルを感じやすいハードな内容だけに縛られず、部員の柔和な一面が見られるようなユーモアあふれる動画も盛り込み、工夫を凝らしている様子が目を引く。

「みんな経験も浅いですし、その分野(マーケティング)に秀でた人がいるわけではないんですけど、試行錯誤しながら成功の形を模索しています。コーチ陣も『責任は取るからやってみな』というスタンスでいてくれるので、私たちも気兼ねなくチャレンジできる環境があります」と鈴木は言う。

「自分たちが欲しいモノを作り上げている感覚があるからこそ、成長できてるんじゃないかな」。3人は口々にそう話した。

チームグッズのデザインも、マーケティングチームのメンバーで行っている(提供・立教大学ラッシャーズ)

中期的な戦力に大きく影響する新歓

春の新歓活動でもマーケティングの観点から、人材獲得に注力している。多くの新入生に入部してもらうことは、実戦練習を2面で行えるようになるなど、中期的な戦力に大きく影響する。立教には部が合否に関与できるスポーツ推薦がないので、一般入学の部員を獲得するために綿密なプランを立てているという。新歓活動を行えるのは1週間と学内でルールが決まっており、この間はフィールドでの練習を休みにして新歓に集中する。

昨年は選手とスタッフでそれぞれにリーダーを立て、その下にSNS運用や資料作成班など、カテゴリーに分けたチームをつくり、責任者を置いて全員が関わるような設計にした。「入部を迷っている人がいたら、しっかりと連絡を取り続けることで、意思決定をサポートする『クロージング班』という班をつくりました。それがすごく効果的だったなと思います」と櫻井は話す。

経験がないことも、話し合いを重ねて試行錯誤しチャレンジしている

これは入部を迷っている人に、継続的にラッシャーズの魅力をアピールして次のアクションにつなげ、ゴールとしての入部を目指すもの。同時に、履修登録のフォローや、新生活の悩みなどを親身にサポートすることも大事にしたという。この取り組みで、選手とスタッフをあわせて42人の部員が入ってくれた。地道な取り組みは、着実に身を結んでいる。

ロイヤルティーを高め、リクルーティングにつなげる

今回のクリニックの目的には、ラッシャーズの取り組みをアピールした上で中長期的なブランディング形成にアプローチし、ロイヤルティー(チーム内部の忠誠心、外部からの愛着)を向上させるだけでなく、それをリクルーティング(部員獲得)につなげたい考えもあるという。

「チーム内向けに(クリニックを)してもらった上で、翌日に公開形式で実施します。ラッシャーズとしてメンバーのモチベーションを高めた上で、学外に対してもしっかりアピールすることができる。参加者は大学生に限らず、小学生から高校生まで幅広い年代の学生に参加してもらいます。将来的に、ラッシャーズでアメフトをすることに対して、魅力を感じてもらえたらうれしいです」と鈴木。

昨年関東TOP8の2位に躍進したラッシャーズは、今年創立90周年を迎えた。そこには、各自が主体的に動き日々前進する、はつらつとしたマーケティングメンバーの、ひたむきな取り組みがある。

【申込期限は3月3日】アンドリュー・ラックQBクリニック
笑顔が絶えない仲の良さも、ラッシャーズの特徴だ

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