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特集:New Leaders2024

駒澤大学・柳野友哉新主将 大阪桐蔭時代も副将、打って勝つ「シン・駒大野球」を牽引

駒澤大の柳野主将は、香田新監督とともに戦い抜く(撮影・小川誠志)

東都大学野球リーグの名門・駒澤大学だが、この2年間は苦戦を強いられてきた。2022年秋、2023年春と連続で最下位に沈み、2023年春は入れ替え戦にも敗れて屈辱の2部降格。秋の2部リーグを制し、入れ替え戦に勝って1シーズンでの1部復帰を果たした。駒大苫小牧を率いて2004、05年夏の甲子園連覇を達成した香田誉士史氏を新監督に迎え、新体制で今春の1部リーグに臨む。右打ちの強打者・柳野友哉(4年、大阪桐蔭)が主将としてチームを引っ張る。

【新主将特集】 New Leaders2024

中3の秋、U-15侍ジャパンの4番を打った

昨年11月の入れ替え戦を終えた後、春から最上級生になる世代による投票の結果、柳野が新主将に選ばれた。柳野にとって所属チームで主将を務めるのは神戸北リトル6年生のとき以来だが、神戸中央シニア、大阪桐蔭高では最終学年時に副主将を務めていた。「ずっと何かしらの役職についていたので、主将をやることに戸惑いはありません」ときっぱり言う。

小1のときに学童野球チームに入部して野球を始め、小3から神戸北リトルで硬球を握るようになった。中学時代は神戸中央シニアに所属し、中3の秋には侍ジャパンU-15日本代表の一員としてU-15アジアチャレンジマッチ2017に出場。チームメートには仲三河優太や山村崇嘉(ともに現・埼玉西武ライオンズ)、度会隆輝(現・横浜DeNAベイスターズ)がいる中で4番打者を任され、優勝に貢献した。

昨秋の入れ替え戦で1部復帰を果たし、選手は喜びを爆発させた(撮影・駒大スポーツ新聞編集部)

入学当時、大阪桐蔭には2学年上に根尾昂(現・中日ドラゴンズ)、藤原恭大(現・千葉ロッテマリーンズ)、1学年上には中田唯斗(現・オリックス・バファローズ)、中野波来(現・ホンダ鈴鹿)、同学年には仲三河らがいた。「U-15日本代表の4番打者」の看板を引っ提げ大阪桐蔭へ進学した柳野だが、1年生のときは初めての寮生活に慣れることに精いっぱいだったという。

「最初の数カ月で体重も10kgぐらい落ちて、出遅れてしまって。2年生の終わりぐらいから、そういったことを含めてしっかりできるようになりました」

コロナ禍で春夏の甲子園を奪われて

2年夏を終えた新チームからベンチ入り。秋の大会はレギュラーを取りきれなかったが、冬場に食トレとトレーニングで体を作り、春に向けて手応えを感じるようになっていた。チームは秋の近畿大会で準優勝しており、翌春に控えた選抜高校野球大会への出場権を手にしていた。

ところが、コロナ禍で3月上旬から部活動が制限され、選抜大会も中止となった。「これからというときに、全部止まってしまったんです。それでも夏に向けて頑張ろうと自主練習に取り組んでいたんですけれど、5月になって、夏も中止になってしまいました。甲子園のためにずーっとずっと頑張ってきたので、気持ちの糸がプツッと切れたような感覚で。正直、気持ちを切り替えるのに時間がかかりました」

1部復帰を果たした東洋大との入れ替え戦は、サヨナラで幕切れ(撮影・駒大スポーツ新聞編集部)

甲子園で春夏連覇を果たした2学年上の先輩たちをアルプススタンドから応援し、「自分もここでプレーしたい」と強い気持ちを持って練習に取り組んでいた。しかし、コロナ禍でその機会が失われてしまったのだ。

「今年も後輩たちが選抜に出場していますし、もちろん応援はしています。でも、今でもテレビで甲子園、やってるのを見るとつらくなるというか……。気持ちよくは見られないというか……。交流試合で最後、甲子園に立てたのはうれしかったんですけど、でもやっぱり観客とかブラスバンドの演奏があっての甲子園だと僕らは思っていたので」

甲子園について話したとき、柳野の口調は重かった。コロナ禍によって大事な目標を奪われた記憶は、今でも心に大きな傷となって残っている。

駒大では3年間で3度の入れ替え戦を経験

大学ではレベルの高いところで野球を続けたいと考え、東都の名門・駒澤大に進んだ。2年秋の第3週、ZOZOマリンスタジアムで行われた國學院大學との2回戦に代打でリーグ戦デビュー。八回、打席に入った柳野は、武内夏暉(現・埼玉西武ライオンズ)の変化球をとらえ、リーグ戦初安打となる左中間への二塁打を放った。

東都のデビュー戦は、代打で登場し二塁打を放った(撮影・駒大スポーツ新聞編集部)

過去27度の1部優勝(リーグ2位タイ)、11度の大学日本一(大学選手権6度、神宮大会5度優勝)を誇る東都の名門・駒澤大だが、今永昇太(現・カブス)らを擁した2014年の秋以降、優勝から遠ざかっている。上位と下位の実力差がない「戦国東都」では、優勝チームが次のシーズンに下位をさまよい、入れ替え戦に回るケースも少なくない。1部リーグ所属チームは大学野球の聖地・神宮球場でプレーできるが、2部リーグ以下は関東近郊の球場で公式戦を戦わなければならない。

「東都がこんなにハードなリーグだとは、知らずに入ってきました」

柳野はそう言って苦笑いする。戦国東都の象徴とも言われる入れ替え戦でこの3シーズン、1部残留、2部降格、1部復帰を経験してきた。「高校野球みたいに負けたら終わりの戦い。厳しいですけれど、そこが東都の面白さでもあると自分は思います」と柳野。戦国の厳しさを楽しむメンタルの強さも柳野の強みだ。

もちろん、戦う前から入れ替え戦を覚悟しているわけではない。チームの目標は12度目の大学日本一だ。「目の前の試合、一戦一戦を戦って、結果、優勝、日本一が近づいてきたらいいなと思います」と意気込む。

伝統の「駒大野球」に打力を上乗せ

今季のチームは東田健臣(4年、西脇工)、髙井駿丞(4年、広島商)の左腕2人が投手陣の軸になる。昨秋の2部リーグでは東田が3勝、髙井が4勝を挙げ、1部復帰の原動力になった。150キロ超えの力強い速球が魅力の右腕・山川大輝(4年、広陵)も中継ぎで存在感を発揮。昨秋調子を落としていた右腕の松村青(4年、向上)、エーアン・リン(4年、向上)が復調すれば、投手陣はさらに強力になるだろう。

野手陣はレギュラーだった選手の半分以上が卒業し、大きく顔ぶれが変わる。主将を務める柳野、勝負強さとパンチ力が魅力の原尚輝(3年、中京大中京高)、巧みなバットコントロールが光る渡邉旭(3年、仙台育英)らが打線を引っ張る。昨秋、侍ジャパン高校日本代表の一員としてU-18ワールドカップで活躍した知花慎之助(1年、沖縄尚学)をはじめ、有力な新入生も加わった。春のオープン戦では各ポジションで熾烈(しれつ)なレギュラー争いが繰り広げられている。主将であってもレギュラーを確約されたわけではない。

主将として、「打って勝つ駒大」を目指す(撮影・小川誠志)

2017年春から7年間チームを率いた大倉孝一監督が昨秋を最後に退任した。バッテリーを中心とした堅い守りで失点を抑え、機動力を絡めた攻撃でたとえ安打が出なくても1点をもぎ取る。それが伝統の「駒大野球」だ。香田新監督も駒大野球を継承しながら、さらに打って勝つ意識を高め、春の練習ではバッティングに力を入れてきた。

「バッティングでのパンチ力が自分の強み。5、6番あたりを打って、たまったランナーをかえして、勝利に貢献したいです。今年は『打って勝つ駒大』の野球に注目してください!」と柳野。打って勝つ「シン・駒大野球」を引っ張る。

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