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連載: プロが語る4years.

駒澤大4年目にけがで苦しむも「かっこいい先輩でいたい」 横浜DeNA・今永昇太2

今年の春季キャンプでキャッチボールをする今永(撮影・山田佳毅)

今回の「プロが語る4years.」は、プロ野球・横浜DeNAベイスターズのエース左腕、今永昇太投手(28)です。東都大学野球リーグの駒澤大学から、2015年秋のドラフト1位で、ベイスターズに入団。19、20年と2年連続で開幕投手を務めるなど、チームのエースとして活躍しています。後編では、現役の学生アスリートに向けたメッセージももらいました。

ターニングポイントとなった駒澤大1年目春の鮮烈デビュー 横浜DeNA・今永昇太1

周りのレベルの高さが刺激に

1年生の時から神宮のマウンドに立ち、鮮烈なデビューを飾った今永は、2年生からリーグの第1戦を任されるようになった。140km台中盤でスピンのきいた速球を大きな武器に、春は8試合に登板して、リーグトップの6勝。防御率は亜細亜大学の山﨑康晃(現・横浜DeNAベイスターズ)に次ぐ2位の1.70をマークした。

当時の東都大学野球リーグで活躍した投手は山﨑の他、杉浦稔大(國學院大學→東京ヤクルトスワローズ→北海道日本ハムファイターズ)、九里亜蓮(亜細亜大学→広島東洋カープ)といった、今なおプロで活躍する投手が居並ぶ。レベルの高い投手陣がそろう中、今永は自身初となるベストナインにも選出された。

活躍の要因を本人に尋ねると、投手も打者も「大学トップレベルの選手が周りにいたこと」を挙げた。その経験はプロ野球の世界に飛び込んだ後も生きているようだ。

「例えば吉田正尚選手(青山学院大学→オリックス・バファローズ)とか、他のチームでもレベルの高い選手を間近で見てきたので、『こういう選手がプロに行くんだな』と体感できました。杉本裕太郎選手(青山学院大学→JR西日本→オリックス・バファローズ)もすごかった。自分の100%が必ずしも通用する場所ではなかった」

東都大学野球リーグでは、現在プロで活躍する選手とも多く対戦した(撮影・坂名信行)

余談だが、私は16年にスポーツ記者としてオリックス・バファローズを担当した。当時ドラフト1位ルーキーだった吉田正尚に、「大学時代に一番速いと感じた投手は?」と尋ねたことがある。即答だった。「今永さんですね」

このやりとりを今回のインタビューで今永に伝えてみた。少しは誇らしげな表情を見せるかと思いきや、「そんなことはないと思いますけど」と苦笑いしながら、とあるエピソードを教えてくれた。

「ライト方向は(左打者の吉田正尚にとって)逆風だったのに、スタンドインされたことを今でも覚えています。普通の風だったら、神宮球場の最上段まで飛ばされていたと思います。自分の株を上げるために、僕の名前を挙げたのかもしれませんね(笑)」。確かに今永が3年生の秋季リーグを迎えた時、吉田に本塁打を浴びた記録が残っていた。

けがは精神的、フィジカル的に成長のチャンス

3年生の春は開幕から3試合連続で完封勝利を飾り、防御率はリーグトップの0.87。同年秋は7勝を挙げて、リーグの最高殊勲選手や最優秀投手にも選ばれた。誰もが認めるエースとして、チームを26季ぶりの東都1部リーグの優勝に導き、明治神宮大会も制した。

たが4年生になると、左肩を痛めた影響で春はマウンドに上がることができなかった。この間、どのようにしてモチベーションを保っていたのか。

「自分がけがをした瞬間、『これは絶対治る』とか『これはちょっと時間がかかる』とかが分かります。結局その後の日々の練習で、小さなことにモチベーションを持って高めればいい話なんです。けがをした時、落ち込むことはないです」

けがをした時でも、前向きな姿勢で取り組んできた

振り返れば、21年の春季キャンプで似たようなことを語っていた。前年のシーズン途中に離脱し、左肩を手術。リハビリ終盤の過程で、報道陣の取材に応じた。

「リハビリというと、何とか元に戻そうということを考える選手が多い。肩をけがすると、肩ばかりを強化しがちだけど、股関節とかもっと違うところに原因がある場合もある。どこが弱いのか、強いのかを見極めながら、投球フォームを見直しています」

けがをする前の状態に戻すのではなく、「治った時に、数段上の自分でなければ意味がない」。けがは不利な状況に追い込まれるのではなく、「精神的にも、フィジカル的にも成長できるチャンス」と捉えている。

左肩を痛めた4年生の春はベンチから声をからし、試合中にブルペンへ向かう姿も見られた。秋は0勝3敗と不本意な成績ながら、東洋大学との入れ替え戦初戦で完封勝利を挙げ、意地を見せた。そこには今永なりの哲学があった。「後輩から見られている立場なので、適当なことをしていると、後輩から後ろ指をさされるような先輩になってしまう。そういう先輩にはなりたくないと思って過ごしていました」

その姿は、ベイスターズで「エース」と称される今にもつながる。「今の自分の立ち位置とも共通しますね」。例えば、後輩の坂本裕哉(立命館大学→横浜DeNAベイスターズ)がひもをほどかずに靴を脱いだ時、「ひもを緩めてから、丁寧に脱ごう。足元を大切にしないと」と指摘した。「常にかっこいい先輩でいたい、と思ってます」

プロ2年目では日本シリーズでも登板。ここからエースに成長した(撮影・長沢幹城)

避けた方が楽と思ったら、あえて近寄る

ベイスターズに入団後は、1年目から先発ローテーションに入り、2年目の17年に初の2桁勝利を挙げた。同年は日本シリーズでも好投を見せた他、侍ジャパンのメンバーにも選ばれた。一方で20年にはけがにも悩まされた。

大学でもプロでも浮き沈みを味わった今永に、学生アスリートに向けてメッセージをもらった。

「これは僕がそういう風にしているだけなので、絶対に正解ということではない」と前置きした上で、「何か壁にぶつかった時に、あえて難しい道を選択する」と説く。

「例えば嫌いな上司とかあんまり仲が良くない同期がいたとして、自分は『避けた方が楽だな』と思ったらあえて近寄るんです。自分がどんな人間かを知ってもらうというか。それは自分が変わろうとしている証拠なので。相手のことは自分でコントロールできないですし、その方が僕の中では面白いなと思う」

相手のことを中心に考えるならば、いっそその主導権を自分の元へ引っ張ってきてしまえばいい。そんな思いのように聞こえた。「いったん全て、自分の方に矢印を向けてみたら、意外と面白いことが起こるということを伝えたいですね。その方が相手のことを考えなくて済むし、僕はその生き方の方が楽しいです。もちろん、それが合わなかったらすぐにやめてもらっていいですけど、1度はやって損はないかなと」

春に社会人15年目を迎える私も、実践しようと思う。

プロが語る4years.

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