陸上・駅伝

特集:New Leaders2024

創価大・吉田凌主将「箱根駅伝優勝をめざせるチームに」高3時の驚きを超えるためにも

高3時の期待と不安。吉田凌は今年度主将としてチームを率いるまでに成長した(撮影・浅野有美)

大学入学を控えた高校3年の正月。赤と青の一大旋風に心が震えた。初の往路優勝を飾り、復路も10区の終盤までは首位を独走。ラスト2kmで駒澤大学に逆転を許したが、過去最高順位を大きく更新する2位でフィニッシュしたのだ。第97回箱根駅伝を思い返すと、当時の記憶が鮮明によみがえってくる。2024年度、創価大学の主将を務める吉田凌(4年、学法石川)は、懐かしそうに振り返る。

「想像をはるかに超える結果だったので、驚きました。感動しながらも不安になったことを覚えています。僕はこんな強いチームに入って、本当にやっていけるのかなって」

【新主将特集】New Leaders2024

すべてを1人で抱え込まないようにしたい

ただ、同時に創価大の潜在能力に大きな可能性を感じ、思い描いたこともあった。卒業するまでには、箱根駅伝の総合優勝を目指せるチームをつくりたい――。あれから3年。胸に秘めていた思いを実現するために、昨冬、同期12人が集まったミーティングでキャプテンに立候補した。話し合いの中で一人ひとりが率直な意見を出し合い、最終的には満場一致で選ばれた。改めて入学時から心に誓っていたことを口にする。

「キャプテンとして、自分が引っ張って箱根の総合優勝に導きたいと思っています。出雲駅伝、全日本大学駅伝は3位以内を目指し、責任を持って、最後まで仕事をまっとうしたいです。もちろん、自分一人の力では勝てるチームはつくれません。副キャプテンの小暮栄輝(4年、樹徳)、安坂光瑠(4年、佐久長聖)、主務の榎木真央(4年、宮崎日大)らにも協力してもらっています。同期の絆はとても強いので。信頼できる仲間たちからは『一緒に頑張っていこう』と言われています。すべてを抱え込まないようにしたいです」

すべてを抱え込まないように仲間と協力しながらチームをまとめる(撮影・杉園昌之)

箱根路の後、自信を取り戻した丸亀ハーフ

2年時に学年主任を務めたときは1人で気負い過ぎて、苦しんだという。ルーキーイヤーは箱根で8区を走ったものの、2年目は出走することもできなかった。そのため、3年時には役職につかず、競技に集中した。すると昨年度は主力の一角となり、チームに大きく貢献。出雲駅伝(のちに創価大の記録は取り消し)、全日本大学駅伝ではいずれもアンカーを務め、区間1桁でまとめた。しかし、大きな期待を寄せられた箱根駅伝では気負い過ぎて空回り。裏のエース区間とも呼ばれる9区では本来の力を出し切れなかった。横浜駅前近くの給水地点で今春卒業したいとこの吉田悠良からボトルを受け取ったシーンを思い返すと、苦々しい表情になった。

3年時の全日本大学駅伝。チームは6位でフィニッシュ(撮影・内田光)

「4年間を通して走れなかった悠良さんの分まで、『自分が走るんだ』と覚悟を持って臨んでいたので……。最もきつかった地点で『まだいける』と声を掛けられて、そこで力は出ましたが、結果はついてきませんでした」

順位を押し上げることはできず、悔しさがあふれる区間15位。チーム全体も目標の3位以内からは遠く、8位でフィニッシュした。5大会連続でシード権を確保したことは前向きに捉えているものの、吉田の心は満たされなかった。最終学年は個人でも、チームでも、総合優勝を飾った青山学院大学や2位の駒澤大学にも負けない。すぐに次なるステージへの決意を胸に近い、箱根後、初戦のレースとなった丸亀国際ハーフマラソンでは自己ベストを大きく更新し、1時間1分58秒をマークした。

「あれは自信になりました。本調子ではなかったのですが、新体制での最初のレースだったので、キャプテンとして気合が入っていたんです。『絶対に自己ベストを出す』という気持ちでスタートラインに立っていました」

それでも、納得はできなかった。リザルトを見ると、箱根駅伝の2区で区間賞を獲得した青山学院大の黒田朝日(3年、玉野光南)ら学生トップランナーたちに先着を許し、あらためて力不足を痛感した。

「学生のトップを狙えるくらいにならないと、箱根の総合優勝も見えてきません。僕自身、レース後半にペースが落ちる課題が浮き彫りになったので、そこを改善していきたいです。61分台を出しましたけど、もっといけると思っています」

今年の箱根駅伝では悔しい思いをした(撮影・佐伯航平)

試合で波をつくらないことを意識

新たに取り組んでいることは多岐にわたる。筋持久力をつける体幹トレーニングに精を出し、スタミナを強化。春に幕を開けたトラックシーズンでは、スピードの向上にも力を入れている。もうワンランク上で戦うために自らを追い込む。トラックでの目標は、はっきりと数字で示している。5000mは13分30秒台、10000mは28分1桁台。チャンスがあれば、27分台も視野に入れる。7月のホクレンディスタンスチャレンジまでには、クリアするつもりで練習に励んでいる。

「タイムを出したいではなく、出さないと本当に戦えないと思っています」

3年時に東海大学から編入してきた同期の吉田響(4年、東海大翔洋)の存在も良い刺激になっている。練習から切磋琢磨(せっさたくま)し、よりストイックに陸上に向き合う姿勢は見習うところばかりだという。「響がいるから、今の自分があると思っています。僕の陸上人生を変えてくれましたから」

4年目の駅伝シーズンに向け、一つひとつの練習では、試合で波をつくらないことを意識している。重要視しているのは安定感。けが予防のための体のケア、食事、睡眠には気を配っており、故障とは無縁だ。陸上人生で大きなけがは、これまで一度もない。「足が痛くなったこともないんです」と冗談まじりに笑うが、これは最大の持ち味と言ってもいい。

試合での安定感は日々のケアから生まれている(撮影・杉園昌之)

「けがで休んで調子の波をつくってしまうと、チームにも影響を及ぼしますから。年間を通して、キャプテン自身が先頭に立って、練習に取り組んでいきたいです」

ラストイヤーで大きな花を咲かせるために

10歳の頃から憧れてきた箱根にかける思いは強い。小学生の頃に先生と一緒に走る校内の朝マラソンでランニングが好きになり、ずっと目指してきた。名門の学法石川高校時代は実力が足りず、女子部員の引っ張り役を担ったこともある。それでも、箱根路への夢を諦めたことはなかった。小学校時代に走るきっかけを与えてくれた先生の言葉は、いまも大事にしている。

「苦しいときにも土台をつくっていれば、いつか花が咲く」

すでに箱根路は2度経験しているが、花はまだ咲いていないという。2024年度の創価大が掲げるスローガンは『真価(しんか)の創花(そうか)~Next Stage~』。キャプテンの吉田がチームの牽引(けんいん)車となり、最後に大きな花を咲かせるつもりだ。

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