陸上・駅伝

特集:2024日本学生個人選手権大会

広島経済大・東秀太が男子1500mで優勝 尾方剛監督のもと、中距離と駅伝を両立

広島経済大の東は中距離と駅伝を両立している(すべて撮影・井上翔太)

2024日本学生陸上競技個人選手権大会 男子1500m決勝

6月14日@レモンガススタジアム平塚(神奈川)

優勝 東秀太(広島経済大3年)3分49秒40
2位 岩下和史(早稲田大2年)3分49秒51
3位 加世堂懸(明治大2年)3分49秒68
4位 中村晃斗(志學館大2年)3分49秒90
5位 大塚直哉(立教大3年)3分50秒56
6位 高嶋荘太(環太平洋大3年)3分52秒24
7位 小河原陽琉(青山学院大1年)3分56秒13
8位 金樹(札幌学院大4年)3分57秒69

6月14日にあった2024日本学生陸上競技個人選手権の男子1500mで、広島経済大学の東秀太(あずま・しゅうた、3年、三田松聖)が優勝。「二冠」をめざして臨んだ2日後の男子800m決勝では3位に入った。2008年の北京オリンピック男子マラソン日本代表など、多くの世界の舞台に挑み続けた尾方剛監督のもと、中距離と駅伝の両立を図っている。

招集所で心に誓った「自分が1着に」

1500mは、今年5月の関東学生陸上競技対校選手権(関東インカレ)男子1部を制した日本体育大学の高村比呂飛(4年、敦賀気比)や同2部優勝の立教大学・青木龍翔(2年、大牟田)、2部2位の青山学院大学・宇田川瞬矢(3年、東農大三)らが欠場する中、決勝のみの1レースが行われた。「アップしている段階で欠場者は聞いていたんですけど、高村さんがいないとは思っていなくて。招集所でいないと分かってからは、自分が1着になることしか考えてなかったです」と東は言う。

レース中の位置取りやラストスパートのタイミングなど、長距離種目以上に他の選手との駆け引き要素が強く「トラックの格闘技」とも呼ばれる中距離種目。最も内側からのスタートとなった東は、「ハイペースもスローペースも想定して、前の方にいたらどっちでも対応できる」と考え、1周目で縦1列となった集団の4番手につけた。

青山学院大の小河原(右端)がレースを引っ張り、東は4番手につけた

青山学院大のルーキー・小河原陽琉(1年、八千代松陰)が先頭で引っ張り、最初の1周は60秒。志學館大学の中村晃斗(2年、出水中央)、札幌学院大学の金樹(こん・いつき、3年、仙台大明成)、東と続いた。

800mを過ぎて早稲田大学の岩下和史(2年、神奈川大付属)や環太平洋大学の高嶋荘太(3年、中京大中京)、明治大学の加世堂懸(2年、仙台育英)が一気にペースアップする中、東は残り200mからスパート。最後の直線勝負となり、東がわずかに岩下をかわしてトップでゴールした。3分49秒40。自己ベスト(3分45秒17)更新とはならなかったが、「流れに乗れました。ハイペースになったらタイムも狙おうと思ったんですけど、1周目の後にペースが落ちたので優勝だけに切り替えました」と充実した表情でレースを振り返った。

岩下(左)らとのラスト勝負に勝ち、トップでゴール

ラストの位置取りを悔やんだ800m

翌日以降の800mに向けては、とにかく寝て疲労を抜くことに注力したという。「1500mが終わった夜も、次の日も、体が火照っていてあまり眠れなかったんですけど、一切目を開けずに、頑張って我慢して、寝られるまで待機していました。大谷翔平選手(現・ドジャース)もいっぱい寝ると言っていたんで、自分もしっかり寝ようと」。目を閉じたのは両日とも夜9時ぐらい。実際に何時間眠れたのかは分からないが、朝は6時に起床した。

翌日の男子800m予選を順当に通過し、「二冠」がかかった決勝。「意識しすぎたら良くないと思ったので、とにかくこのレースに勝つことだけに集中していました」

最も外側の8レーンから最初の100mをセパレートで走った後、オープンレーンに。この時点で東は、筑波大学の木佐亮太(4年、出雲)に続く2番手だった。最初の1周を54秒で通過。バックストレートで予選トップのタイムをマークした鹿屋体育大学の岡村颯太(2年、致遠館)や前回王者の環太平洋大学・前田陽向(3年、洛南)が前へ。木佐が下がり、残り200mで東は3番手になった。この場面を東は悔いる。

「ラスト(の直線)は風が強かったので『前にいた者勝ち』と思っていました。600mのところで2人が前に行ったんですけど、あそこで前か、2人の間に入れていたら行けたと思います。対応がワンテンポ遅れて、そのまま逃げ切られてしまいました。ミスではないんですけど、あそこで勝敗が決まったと思います」

800m決勝では岡村(右端)と前田(右から2番目)に続く3位だった

思い通りにいかないとき、尾方監督がかけてくれた言葉

広島経済大には3学年上の先輩で、東と同じ兵庫出身の山﨑優希(現・KAGOTANI)に憧れてやって来た。「兵庫選手権で見たときに、すごくフォームがきれいで。『自分が理想とする人だな』と思いました」。1500mと800mともに大学記録(3分41秒47、1分47秒13)は山﨑が持っている。東は今大会の800m決勝で1分48秒27をマークし、山﨑がそれまで持っていた大会記録(1分48秒77)を更新したが、「ベストを抜かないと、まだ勝ったとは言えないです」と悔しさをにじませた。

尾方監督からのアドバイスは、東にとって欠かせないものとなっている。2年目の昨シーズンは9月の日本インカレ800mで3位、1500mで9位と好成績を収めたものの、今シーズンになると「できて当然」と自分自身にプレッシャーをかけてしまい、5月の静岡国際では思い通りのレースを展開できず、もどかしさを感じてしまった。そんなとき「監督が『試合も練習だと思って走ったらいいよ』と言ってくださったんです」。肩の力が抜け、今大会の好走につながったと本人は分析している。

中距離専門だが、駅伝に向けても意識は高い。現段階では9月末の「Yogibo Athletics Challenge Cup 2024」で800mに出場した後、2週間後の出雲駅伝に向けて仕上げることを想定している。トラックと駅伝の両立方法について尋ねると、「夏に入るまで、試合のない週は朝練でしっかりとジョグを踏んで、疲れた状態でポイント練習をすることによって、練習の強度も自然と上がっています」と話した。

自分にプレッシャーをかけていたとき、尾方監督のアドバイスで肩の力が抜けた

ロードでも実力を発揮するためには、尾方監督との緊密なコミュニケーションも不可欠で「自分のノウハウと監督のノウハウを合体させていきたいです」と東。今後はトラックのみならず、駅伝でもその名を全国に広めたい。

in Additionあわせて読みたい