和歌山大学・島龍成 高校時代に埋もれていても2度目の全国舞台 戦友と最後の秋へ
第73回全日本大学野球選手権大会に2年ぶり4回目の出場を果たした和歌山大学は、今回の出場大学の中で唯一の国立大だ。1回戦の広島経済大学戦を逆転で勝ち上がったが、翌日の2回戦は息をのむような投手戦の末、最終的に4強まで勝ち上がった東日本国際大学に、0-1で惜敗した。この連戦にいずれも先発したのは島龍成(4年、履正社)。高校時代に表舞台に立てず、野球を大学で続けるか悩んだ末に決めた進学先で、「戦友」とともに二度目の全国舞台にたどり着いた。
打球が直撃後もピンチ切り抜ける
島が「熱い男」ぶりを見せたのは、2回戦の東日本国際大学戦。六回裏1死一、二塁。五回までを2安打無失点と抑えていた島が、初の長打を許し、次の打者に四球を与えた場面だった。
島の足を、痛烈な打球が直撃した。
島はマウンドを駆け下り、一塁方向に転がったボールを拾って一塁に投げ打者走者をアウトにすると、その場に転がり込んだ。東日本国際大一塁コーチからの冷却スプレーの申し出は断ったが、やはり痛むのか、マウンドに戻らずに審判に治療を申し入れ、トレーナーとともにベンチに下がった。
前日も先発し67球。この日もすでに77球を投げており、このまま降板も十分考えられる場面だったが、治療を終えると島はグラウンドに姿を現した。迎えた捕手・松田遼太(4年、履正社)と言葉を交わし、何事もなかったようにマウンドに戻った。
「僕が出したランナーなんで、(自分で)ゼロに抑えて、次のピッチャーや次の攻撃につなげたいなという意識で(マウンドに)立ちました」
次の4番打者をライトフライに打ち取ると、ほえた。マウンドを降りると、今度は左拳を握りしめながら、もう一度ほえた。
しかし次の回、「抜けてしまった」というストレートを適時打とされて失点。島の「次のピッチャーにゼロでつなげたい」という思いはかなわなかった。この試合唯一の失点となり、和歌山大は敗退した。
履正社で出番に恵まれず、「戦友」と和歌山大へ
島は大阪の強豪・履正社高校出身だが、高校時代は公式戦ではほぼ出番がなかったという。岩崎峻典(現・東洋大)ら同期の投手陣の中で埋もれてしまっていた。
大学で野球を続けるか迷っていたとき、野球部の同期でやはり出場機会に恵まれぬ控え捕手だった松田と話し合い、和歌山大への進学を決めたという。
「(和歌山大が)全国に出られる(力がある)チームだというのは知ってたんで、合格をもらって入学届を出す前にも、『全国(大会)めざして一緒にがんばろう』と話していました」
そして2年次には春季リーグを制して全日本大学選手権の舞台に立ち、入学時の2人の誓いを果たした。そして最終学年となった今春もリーグを制覇し、再び全国の舞台に戻った。2人は1、2回戦ともバッテリーを組んで先発。松田はたびたびマウンドへ足を運び島に声を掛けた。高校時代にともに出番に恵まれぬ3年間を過ごしながらも、大学では2度も全国舞台に立った2人。島はそんな関係を、「戦友」と表現する。
1回戦で救ってくれた後輩と抱擁
島にはもう1人、頼りになる相棒がいる。1学年下の後輩・田中輝映(てりえ、3年、向陽)だ。
島は、前日の1回戦、広島経済大戦も先発したが、早々に2失点。「チームを勝たすぞ、というイメージが強すぎて。力が入って(ボールが)高めに浮いてしまって、それを長打にされてしまった」。さらに四回は1死満塁のピンチを迎え、大原弘監督に降板を告げられた。
このピンチに登板し、後続を三振、外野フライと無失点で抑えたのが、田中だ。続投した田中は試合終了まで5回3分の2を2安打無失点。逆転勝利を呼び込んだ。
試合終了のあいさつを終えると、島は笑顔で田中に歩み寄り、抱擁した。「次につなげてくれてありがとう、という言葉を伝えました。後ろを任していける、信頼のあつい後輩です」
島は左腕、田中は右腕。島は頻繁にほえる熱い男だが、田中はひょうひょうと投げ、ピンチを抑えても軽く右手を握りしめるくらい。対照的な2人だが、仲がいいのだという。「ずっと面倒見てるんで。プライベートでもよく会ってます」と島。
田中も勝利後の取材で、「エースを中心に」と繰り返し、島への強い信頼感を表した。早い回での登板について問われると、「目標が日本一なんで、もしこういう展開になったら、明日もエース(島)が投げられるように、自分が(長い回を)投げて、次、次、次の試合へつないでいくぞ、という気持ちでマウンドに上がりました」。次戦への意気込みについても、「ロースコアのゲームになると思うんで、エースを中心に、ゼロに抑えて勝っていきたい」と話した。
「まだ見ぬ秋の明治神宮へ」ラストチャレンジ
今大会について、「2年前と一緒で、チームを勝たせられなかったことがとても悔しいです」と振り返る島。「僕は2回(東京ドームに)来られたけど、(秋の明治神宮大会は)もう東京ドームはないんで。(田中には)『来年も来て、勝ってほしい。東京ドーム、任したぞ』って言いました」
高校卒業時に続けるかどうか迷い、「戦友」松田と続けた大学野球。島は「(野球続行の)選択は、正解でした」とここまでを振り返る。残るは今秋シーズンのみだが、秋の明治神宮野球大会は、秋季リーグで優勝した上で、関西5連盟の優勝チーム同士の戦いで2位以内に入らなければならぬ狭き門。所属する近畿学生野球連盟からは阪南大学が1度出ただけで、和歌山大はまだ出場したことがない。
しかし大原監督は、島と松田ら今年の4年生への期待を込める。
「まだ見たことのない秋の明治神宮の景色へ、この4回生中心のチームで、もう1回チャレンジします」
島の思いも同じだ。
「監督を日本一の男にしたいっていうのが今年の僕の目標なので、秋の目標である明治神宮大会に向けて、あと3カ月取り組みたいと思います」
大原監督と戦友とともに、秋の明治神宮の景色を見られるか。