筑波大学・中野真太郎 「ブライトンの奇跡」から努力を重ね、筑波100代目の主将に
東京師範学校時代に創部され100周年を迎える今季、大学日本一を目標に掲げている筑波大学ラグビー部。一昨季は大学選手権準決勝に進出し、昨季もベスト8に輝いた。「ツクバブルー」のジャージーでおなじみの「国立の雄」で、100代目のキャプテンに就いたのがWTB中野真太郎(4年、福岡)だ。
逆境でも声を出す熱いチーム作る
昨年、筑波大は関東大学対抗戦で慶應義塾大学に勝つなどして4位となり、大学選手権に進んだ。大学選手権の3回戦では、関東リーグ戦2位で同じ茨城のライバル・流通経済大学とのクロスゲームを33-27でものにしたが、続く準々決勝で対抗戦の強豪・明治大学に7-45で敗れ、シーズンを終えた。
新チームとなった今年1月、同期の4年生でどういうチームを作りたいかと話し合ったとき、「目標は日本一。帝京、明治、早稲田と対抗戦の上位校を倒して、一昨季のチームみたいに国立で戦いたい」「熱量があって熱いチームを作りたい」という話が出た。
「声を出し、身体を張るプレーに自信がある」という中野は、そのとき内心で「チームを引っ張っていきたい。キャプテンになりたい」と強く思った。小中学校のスクール時代、そして高校で副将を務めていた経験もある。同期で納得するまで話し合い、推薦してもらって、中野は100代目のキャプテンに就いた。昨季主将のNO8谷山隼大(現・埼玉ワイルドナイツ)に続き、福岡高校出身者となった。
嶋崎達也監督は「試合をリードするのはSO/CTB楢本幹志朗(3年、東福岡)などですが、中野は身体を張って、ラグビーで一番大事な部分を示してくれる。キャプテンになってより責任感あるプレーをしてくれています」と信頼を置いている。
さらに4年生で話し合い、「どのチームより熱くて、良いときだけでなく、どれだけ逆境でも声を出し高め合って盛り上げるチームにして日本一を目指したい」(中野)という思いを込めて、「よっしゃあ」を今季のスローガンに定めた。
主力不在の春季大会も善戦
筑波大は春季大会ではBリーグで戦った。日本大学に競り負けたが慶應義塾大に勝利し、定期戦でも天理大学に勝利するなど、今季も力のあるところを見せた。春季大会は、U20日本代表として活躍したLO磯部俊太朗(國學院久我山)、WTB飯岡建人(流通経済大柏)、WTB増山将(東海大大阪仰星)の2年生や、教育実習に参加した選手らが抜けていたが、秋の対抗戦には戻ってくる。
中野主将は「今季、バックスには良いランナーがいてタレントがそろっているので(他チームの)脅威になる。フォワードも、試合経験は少ないかもしれないが泥臭い選手がたくさんいる。身長の高い選手も多いので強みのラインアウトを生かして戦っていきたい」と意気込んでいる。
南ア戦でリーチと入場、「奇跡」を現地で目撃
中野は、福岡市博多区出身で、クラブチームでラグビーをしていた父の影響で、小学校1年からぎんなんリトルラガーズで競技を始めた。早稲田大学のHO/FL安恒直人(4年、福岡)とはスクール時代からの幼なじみだ。中学校時代は部活では陸上部に所属したが、スクールでラグビーを続けた。
実は、中野は中学校1年時の2015年ラグビーワールドカップイングランド大会で、日本代表が南アフリカ代表を下した「ブライトンの奇跡」を、スタジアムで目の当たりにしている。ランドローバー・マスコットキッズに応募し、見事に当選。日本代表のリーチマイケルキャプテンとともにスタジアムに入場した。
日本代表の劇的な勝利を生で見て、「2015年ワールドカップ前まで日本代表はあまり強くなかったので、番狂わせを見て『すごい!』と感じました。『自分も日本代表になってワールドカップの舞台でプレーしたい!』と強く思いました」。
高校は、憧れの元日本代表WTB福岡堅樹さんも在籍した福岡高校に進学。中学校まではFB、SO、CTBといったポジションでプレーしていたが、高校2年からは、身長が170cmほどだったこともあり、「将来はプロ選手になりたい」という思いからSHに挑戦した。3年時の花園予選では、東福岡と対戦する前に準決勝で筑紫に15-17で逆転負けし、ベスト4敗退だった。
「仲間のために走るのがラグビーだ」
大学は、福岡さんの進学先でもあり、福岡高校の1学年上の先輩が7人も在籍していたことから、筑波大学を志望した。一般受験の実技では、ラグビーと、野球が好きだったのでソフトボールを選択して、体育学群に見事合格した。中野は早稲田大に落ちて筑波大に合格したが、幼なじみの安恒は逆の結果となったという。
大学2年時からはポジションをSHからWTBに変え、今年からはアウトサイドCTBでもプレーしている。筑波大に入った当初はプロを目指していたものの、「筑波大学でやって、(有望選手と)自分とのレベル差を感じた。ディフェンスに自信はありますが、アタックはセンスがある選手がたくさんいる。だから、大学でやり切って終わろうかなと思った」と話す。卒業後は、父が税理士で開業していることから、家業を継ぐために専門学校に進学予定だ。
趣味はドライブやキャンプだ。大学では野外運動研究室に所属している。好きな言葉は、高校の先輩で元日本代表の森重隆さん(前・日本ラグビー協会会長)が話してくれたという、「仲間のために走るのがラグビーだ」である。中野は「僕もチームが勝つために走って、身体を張って自己犠牲の精神でやりたい」と自分に言い聞かせるように言った。
武器はタックル 強豪にも正面から
中野は中学時代からタックルが得意だったが、高校でより磨かれたという。「フィジカルを武器としている帝京大、明治大に正面からぶつかっていきたい。また、キャプテンなので、誰よりも先頭に立って、激しいプレーを見せていきたい」と力強く話した。
トップレベルでのラグビーは大学で引退することを決めている中野。先輩から受け継いだヘッドキャップを頭にかぶり、スピードランナーがそろう筑波大バックス陣にいいボールを供給し、勝利に寄与するために、タックルで泥臭く刺さり続ける。