サッカー

早稲田大・駒沢直哉 横浜FC内定のストライカー、早慶クラシコで快勝に導きMVP

後半開始からキャプテンマークをつけて登場。45分間で1ゴール1アシストと文句なしのMVPに(集合写真以外はすべて撮影・西田哲)

蒸し暑さが残る東京の夜も、この日だけは不快ではなかった。2024年の8月25日は忘れられない日になる――。第75回を迎えた伝統の早慶サッカー定期戦は、11年ぶりに国立競技場で開催。1万人以上の観客が詰めかけ、大きな会場には吹奏楽の応援がこだましていた。後半からキャプテンマークを巻いて出場した早稲田大の駒沢直哉(4年、ツエーゲン金沢U-18/金沢桜丘高校)は、覚悟を胸にピッチに入った。

大学のプライドと同期の無念を背負い

「学生最後の早慶戦。特別な思いで臨みました。リーグ戦とはまた違う大事な1試合。早稲田のプライドをぶつけるゲームです。僕は大学サッカーの晴れ舞台だと思っています」

定期戦への思い入れは強い。大学での初得点も早慶戦だったのだ。1年時に味の素フィールド西が丘で挙げたゴールは、いまでもはっきりと覚えている。「ここから僕の大学サッカーが始まりました」としみじみ話す。

投入後早々にゴールを挙げ、クリスティアノ・ロナルドのゴールパフォーマンスを決めた

この日は、誇りを懸けたステージに立てなかった選手たちの思いも背負っていた。4年間、寮の同部屋だった主将の伊勢航(4年、ガンバ大阪ユース/向陽台)は、7月に今季絶望のケガを負って無念の欠場。試合前に「本当はこの舞台でサッカーがしたかった」という同期の声を思い出しながら、左腕に腕章を巻いた。気合が入らないわけがない。モチベーションは最高潮に高まっていた。ただ、この日はベンチスタート。コンディションが悪かったわけではない。すでにJ2の横浜FCに内定しているストライカーは、複雑な胸中を明かした。

「いろいろあって……。チームとぶつかるところもありました。でも、自分の感情をむき出しにするのも大事。駒沢直哉という選手として譲れないものがあるので。(先発で)使われないことに対し、口で言い返すのではなく、結果で示すのがサッカー選手なのかな、と」

1G1AでMVPにも「もっとできたはず」

そして、1-0で迎えた53分。狙っていたカウンターアタックで見せ場をつくる。右サイドからのアーリークロスを左足できっちり合わせ、ネットを揺らす。ポルトガル代表のFWクリスティアノ・ロナルド(アル・ナスル=サウジアラビア)をまねた派手なゴールパフォーマンスでも存在をアピール。得点を振り返る表情は、自信にあふれていた。

「ワンチャンスを決めるのが自分の仕事」

チーム4点目となる林のゴールをアシストした

84分には力強いドリブルでボールを運び、ダメ押しの4点目となる林奏太朗(1年、サガン鳥栖U-18/龍谷)のゴールをお膳立てする。後半だけで1ゴール1アシストをマークし、文句なしの大会MVPを受賞。快勝劇の主役は表彰式でトロフィーを手にすると、満面の笑みを浮かべていた。興奮冷めやらぬ試合直後、裏方のチームスタッフを含め、部員全員で勝ち取った賞とうれしそうに話したが、自らのプレーには満足していなかった。

「結果は残せましたが、内容はもっとできたと思います。複数得点を挙げて、みんなにも見せたかった。得点以外の仕事もまだまだ足りないです。何も言われないくらいのプレーを見せないと」

あえて己にプレッシャーをかけているのだ。伝統校のキャプテンマークを託された責任もあれば、プロ内定者としての自覚もある。創部100周年を迎えた早稲田の9番を背負うエースは、自らに言い聞かせる。

「このチームの中心選手は自分じゃないとダメだと思っているし、このチームを勝たせるのも自分。どんなに試合内容が悪くても、点を決め続ける。自分にはその力があるし、そうならないといけない」

盛り上げに力を合わせた応援団、観客と記念撮影。前列中央で「MVP」のカードを持っているのが駒沢©Noriko Tokita

監督からの厳しい注文で、闘志に火

早慶戦の前には兵藤慎剛監督とひざを突き合わせて話した。指揮官は現役時代に横浜F・マリノスなどで活躍し、J1通算338試合に出場した大学OBのレジェンド。その経験値は計り知れず、言葉にも重みがあるという。

「『チームとして、駒沢を甘やかしていた』と伝えられ、『これからは厳しく接していく』と言われました。むしろ、その方が自分の成長につながると思っています。お互い良い信頼関係を築けています」

相手のセットプレーでゴール前に入り、ボールをはじき出す

プロの世界で実績を残してきた指導者の目は甘くない。昨季、関東大学2部リーグ最多の14得点を挙げるFWも手放しでは褒めず、より高いレベルを求める。気持ちを前面に出すプレーと身体能力の高さは認めているが、MVPを獲得した早慶戦の試合後もシビアな目を向けていた。

「まだまだ足りない。大学2部リーグのレベルであれば1回の動き出しで突破できますが、プロでは何回も動き直せないといけないし、駆け引きも必要です。駒沢には『もっとできるだろ』と言っています。来年、J1(現在、横浜FCはJ2)でプレーすることを考えれば、このままでは控えかメンバー外。『プロは簡単じゃないよ』と話しているんです」

負けん気の強い22歳は、難しい注文をつけられるほど闘志に火がつくタイプのようだ。監督の手厳しい言葉を力に変えている。

「僕の原動力は“なにくそ精神“。下からはい上がっていくのは得意なので」

20ゴールと1部昇格を置き土産に、プロへ

慶應義塾MFに中盤で激しくチェックする

大学サッカー生活は、長くても残り4カ月足らず。9月からは負けられない戦いが続く。9月4日に始まる日本一の座を懸けた総理大臣杯全日本大学トーナメント、そして9月22日からは関東大学2部リーグが再開する。駒沢は志を高く持っている。

「僕が掲げているのは、大学ナンバーワンFW。数字にこだわって、圧倒的な存在になりたい。個人の目標はリーグ戦20ゴール。あと(9試合で)12点ですが、到達できると思っています。それくらい取らないと、早稲田(現在8位)は1部に昇格できないと思います。チームの目標をかなえるためにも点を取っていきたいです」

大学サッカー界に爪痕を残してからプロの世界に羽ばたくつもりだ。故郷の石川県から国立競技場のスタンドに駆けつけてくれた両親への感謝も忘れていない。これからもゴールという結果で恩返ししていきたいという。夢はどこまでも大きい。

「目指すのは日本代表。日の丸をつけて、このピッチに立ちたいです。そのときは『国立は得意』と言えるので」

自信ありげな笑みを浮かべて、騒がしいロッカールームへ姿を消した。卒業後も特別な早慶戦を思い返す日が来るのかもしれない。

駒沢のゴールに沸く早稲田側の応援席

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