ラグビー

特集:New Leaders2024

早稲田大・千北佳英主将 OG・OB・仲間と2年がかりで女子部創部、歴史的初勝利も

5月の太陽生命セブンズ昇格大会の初日。突破を図る千北©JRFU(断りのない写真はすべて撮影・西田哲)

女子7人制ラグビーのシーズンが7月に終わり、15人制のシーズンに移った。今春発足した早稲田大学ラグビー蹴球部女子部は、今年は7人制に活動を限定したため、短かった初年度を終えた。発起人4人以外は大半が初心者、というチームは苦戦が予想されたが、5月には公式戦で初勝利を挙げることができた。最終的に今季は2勝どまりだったが、千北佳英主将(ちぎた・かえ、3年、田園調布雙葉)は「壁は高いかもしれないが、すごく成長している。可能性のあるチームになってきた」と、来シーズンに期待している。

初心者がタックル、経験者がジャッカルでノーサイド

5月12日、静岡・エコパスタジアムの第1試合は、14-7と1トライ1ゴール差でロスタイムに入っていた。

女子7人制の最高峰である太陽生命ウィメンズセブンズシリーズへの昇格大会。早稲田の女子部は、初日のプール戦で大差の連敗を喫し、2日目の順位決定トーナメント初戦に臨んでいた。

4月の発足会見後、大隈講堂の前で。ユニホーム姿が発起人4人、前列中央は横尾HC

ハーフライン付近から攻撃を仕掛けてくる相手に、岩淵心香(1年、青稜)と藤田野愛(2年、早稲田佐賀)が次々と絡みつくようにタックル。倒したところを逃さず寺谷芽生(3年、関東学院六浦)がジャッカルに入り、審判がノットリリースザボールの反則を宣告すると、勝利を確信した歓声が上がった。ペナルティーキックから、この試合2トライを挙げた岡本美優(2年、明大明治)がタッチに蹴り出し、ノーサイド。初心者を含む2人で作った好機を、経験者が仕上げた。チームを象徴するような幕切れ。早稲田大の女子ラグビーが挙げた、記念すべき初勝利の瞬間となった。

ベンチの選手も悲鳴のような声を上げながら駆け寄り、輪になった。「みんなで勝ち切れた、っていうあの空間はすごくよかった。どんなに厳しくても、あの瞬間のために頑張れるっていうのをみんなにわかってもらえた」と千北は振り返る。

初陣の太陽生命セブンズ昇格大会が1週間後に迫った時期の練習。部員に動きなどを伝える

大会初日は、初試合に緊張して、何をやればいいのかわからないまま終わってしまった初心者の選手も多かったという。ところが2日目、初心者の選手たちだけでボールをつなぎ、前進する場面があった。「ああ、ラグビーがわかってきたんだな、役割がわかってきたんだな、って」。千北がこの日一番印象に残ったシーンだったという。

残念ながらその後は3連敗でシリーズへの昇格は果たせず、参加9チーム中8位。その後も7月までいくつかの大会があったが、1勝を加えるにとどまった。秋冬がシーズンの15人制はコンタクトが激しく、早稲田女子部としては初心者がやるのは危険と判断して、今季は参加を見送ることになった。

高校まで男子と同チーム 大学にはなぜ女子だけ部がない?

男子ラグビーに比べ、女子ラグビーの競技人口は少ない。女子ラグビー部がある大学は数えるほどで、早稲田大にも女子部はなかった。学生主導で大学に新しい部(体育会)を作るのは、並大抵のことではない。2022年に早稲田大学に入学した千北、寺谷、國谷蘭(桐蔭学園)は、2年がかりでその壁を突き崩した。

最初は「夢物語」だった。千北ら3人は高校やチームは違ったが知り合いで、早大入学前から連絡を取り合い、「女子部ができたらいいね」と語り合っていた。だが、現実には大学に部がないため、それぞれクラブチームに所属して学外でラグビーを続けるしか道はなかった。

7月の大会で。タックルを受けても簡単には倒れない

しかし少しずつ道を切り開いていく。入学後、同じように早稲田学外でラグビーをする現役学生やOG、経験者が何十人も参加しているグループLINEに、千北らも参加。そこに書き込んだり、Zoom会議を開いたりして、「大学に部を作りたい」という思いを訴え続けた。

この行動力はどこから来るのか。「ラグビーやってる女子は、みんな中学・高校までは男子と一緒にやっているんです。そこが他の競技とは違って特殊かなと思います」(千北)

大学に入学すると、それまで一緒にやってきた男子が当たり前のようにラグビー部で競技を続けるのに対し、女子は部がない大学がほとんど。その現実にぶつかり、「なんで男子は(競技を続けることが)保証されているのに、女子には保証されていないのだろう」という思いが、必然と湧き上がってくるのだという。

7月の大会で。ラックで体を張りボールキープに成功

パワポで折衝資料作り、ビラ・インスタで部員集め

そんな思いや活動が、LINEグループを飛び出して男子のラグビー部OBなどに伝わり、昨春、OBの栁澤眞(2003年卒、現・女子部ダイレクター)と千北・寺谷・國谷の3人が面会した。栁澤は3人の訴えに心を動かされ、大学やラグビー部との交渉の仲介役となることを決めた。

昨年4月に入学した岡本も加わり、4人は定期的に栁澤とコンタクトを取った。4人は、国内女子の現状や海外比較、そして、早稲田に女子部を作る意義についてまとめたパワポ資料などを作り、栁澤に提供。栁澤は大学側との折衝を重ねた。

そして今年2月。「創部できる」との待望の知らせが栁澤から4人に届いた。多くの先輩OGが働きかけても動かなかった重い扉が、開いた瞬間だった。「もうほんとに2年間追い求めてきたことだったんで……。とにかくうれしかったです」(千北)

そこから5月の初陣までは、怒濤(どとう)のように進んだ。まずは何より部員集め。4人では15人制はおろか7人制にも足りない。学内の友人知人に声を掛け、4月の新入生歓迎期間には他の部やサークルに交じってビラを配り、インスタグラムでも呼び掛け、4月11日の初練習には12人が集まった。

1週間後には、創部の記者会見。「緊張しました。あんな日は人生で一度しかないと思って」と振り返る。その約3週間後に太陽生命セブンズ昇格大会で初陣を迎え、冒頭の初勝利の場面となった。

「人生に一度の経験」と緊張しながら臨んだ、女子部発足の記者会見

経験者と初心者のテンション融合に腐心

部員の半数以上が初心者というチームを、千北は主将としてどのようにまとめてきたのか。

「コンタクトが激しくて初心者にはハードルの高いスポーツだと思うので、初心者の気持ちを持ち上げるというか、メンタル面が落ちないように意識しながらやってきました」

初心者と経験者の意識を両立させる難しさもある。初陣となった5月の太陽生命大会で連敗した初日の夜。千北はチームの中に大きなテンションの差を感じ取った。「無事に試合に出られた。やり切った」という選手と、「負けてすごく悔しい」と思っている選手……。

7月の大会。試合開始前に円陣で気合を入れる

ミーティングで、そんな部員たちに「負けることを当たり前にはしたくない」という厳しい言葉と、「赤黒(早稲田のユニホーム)を着て試合に出られるこの瞬間を楽しもう」という言葉をかけた。「この二つは一見、矛盾しているように見えるけれど、実はつながっているというか。勝つことで喜びが得られるというところにこだわってほしい、というような話をしました」と、この言葉の意味を振り返る。

その翌日に初勝利をつかみ、チームは大盛り上がり。前夜の言葉のように、経験者はそれまでの敗戦の悔しさを晴らすことができ、初心者も「勝利で得られる喜び」を知ることができた。経験者と初心者の意識が融合する、大きな1勝となった。

不安いっぱいだった4月 今では成長と勝利が誇らしく

半年にも満たないあっという間の初年度だったが、千北の目には、どう映るのか。

「4月は、初心者の選手たちが多くて、試合ができるのか、という不安がありました。でも、5月の大会、7月の大会とどんどん成長しているし、可能性があるチームだと思います。みんなががんばってラグビーに向き合って成長できた、勝てた、っていう事実が誇らしいです」

太陽生命セブンズ昇格大会の1週間前。初陣を前に、真剣な表情で練習

15人制をやらないことで、予想外に早く訪れたシーズンオフ。それは逆に、来季への準備に時間をかけられるということでもある。

「まだまだ壁は高いですし、足りないものも多い。それをこの準備期間のうちにやっていって、来年の太陽生命セブンズの昇格大会で発揮できればいいのかな、と思っています」

女子の普及・強化が夢 早慶戦・早明戦も

千北には長期的な夢がある。

「高校・大学への進学で(学校に部がなくて)やめちゃう女子選手が結構いるんです。クラブチームはレベル的にハードルが高いので、ラグビーに触れて楽しめるような場所(部)が学校に出来れば、続けていく人も増える。人数が増えれば、トップの強化にもつながる」

普及策、認知度向上策の一つとして、男子の早慶戦や早明戦の日に、同じ会場で、女子の早慶戦や早明戦を同時開催することも夢見ている。実際に、慶應義塾大学や明治大学ではないが、女子部がまだない大学の女子有志から「試合をやりたい」という声が届いているという。こういった潜在的な女子ラグビー人口は、その大学に女子部があれば掘り起こせるはず。その動きが広がれば、女子ラグビーの認知度もおのずと上がっていく。

「女子がラグビーをする場所、続ける場所を増やしていければ……。そういう土壌を作っていきたいと思っています」

1年目のシーズンを終え、リラックスムードの選手たち

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