ラグビー

連載:4years.のつづき

グラウンドに帰ってきた元日本代表、九州産大女子ラグビー部監督・豊田将万1

九州産業大女子ラグビー部の豊田将万新監督。2年ぶりに現場に戻った(撮影・全て斉藤健仁)

早稲田大学ラグビー部で1年生からFL(フランカー)やNo.8(ナンバーエイト)で出場し3度の全国大学選手権優勝を経験、キャプテンも務めた豊田将万(まさかず、35)。卒業後はコカ・コーラで活躍し、日本代表にも選ばれた。ワールドカップ(W杯)に出場することはかなわず2019年3月に現役を引退した。ラグビーを離れ社業に専念していたが、悩んだ末に21年4月から再びグラウンドに戻ってきた。九州産業大学女子ラグビー部の監督に就任したのだ。指導者として目指すものや現役時代の振り返りを3回に分けてお届けします。

早大時代は名将の清宮克幸監督と自身が一番尊敬する指導者の中竹竜二監督に薫陶を受け、「いずれは自分も2人のような指導者になれればいいな」と漠然と思っていた。大学では教員免許を取得し、現役時代から仕事をしながらコーチングの勉強もしており、日本ラグビー協会A級コーチを取得していた。

土のグラウンドの整備も選手と一緒にこなす

現役引退後、2年間営業職など

豊田は現役を引退した時、「ラグビー部に残る選択肢はなく、会社に長くお世話になったので、いったんラグビーから離れてみるのもいい経験になる、将来、ラグビーにも役立つ」と2年間、ラグビーの現場は離れ、W杯やオリンピック関連の仕事や営業職として働いていた。

一方、九産大に男子ラグビー部はあったが、女子ラグビー部が創設されたのは2012年のことだった。思うように強化が進まず、おそらく「日本で一番弱い」大学の女子ラグビー部だったという。九産大自体や元日本代表の平野勉前監督は「もっと女子ラグビー部を強くしたい。なんとかしたい」という希望を持っていた。そんな中、スーパーラグビーの「サンウルブズ」で3年間、マネージャーを務め、現在は九産大の教員を務める豊田直樹さんが従兄弟の豊田を推したことも一つのきっかけとなり、7人制、15人制両方で日本代表経験がある豊田に白羽の矢が立ったというわけだ。

「一生懸命」働きながら現場へ

「私なんかにこんな機会をもらえるとは思っていなかった。大学側の女子ラグビー部を勝たせたいという思いも刺激になり、自分でどうにかできるかわからないが、一生懸命やろうと思いました」。3人の子どもの父でもある豊田は家族の同意、協力もあって働きながらもラグビーの現場に戻ることを決めた。福岡が地元で、大学もある福岡市東区に住んでおり、グラウンドには自転車で通っている。近さも決め手の一つとなった。

ただ一つ不安があった。豊田監督にとって、女子選手だけのグループを教えるのは初めての経験だった。小中学校のスクールや高校時代にラグビーをしていた選手も多く、「スキルが高い選手がいて、なんでここにいるのだろうという選手もいました。最初、温度感はわからなかったが、真剣に勝とうとしていた。少しなめていましたね」と驚きを隠さない。

最新施設で筋力アップ

スキルやフィットネスのレベルは大学生の男子とさほど遜色なかった。しかし、パワーやフィジカルはもっと鍛える必要があると感じた。そこで豊田監督は、新しくできた「大楠アリーナ2020」に最新のトレーニング施設があるため、毎週2回、朝7時からジムでの筋力トレーニングに時間を割くことにした。夕方の練習は午後6時から。休みは月曜日、土、日は実戦経験を積むためなるべく試合を組むように調整している。

学内の最新施設で筋力トレーニングにも力を入れる

豊田監督は選手時代、コーチの経験則、感覚で指導されることは好きではなかった。「何でそのプレーをするのか選手が腑(ふ)に落ちるように、理屈や原理をしっかり教えていきたい。感覚を言葉にできるよう、今でも勉強中です」と話す。

部員は1年生4人を含めて17人。近隣の高校生も4人ほど練習に参加している。小学1年から地元でラグビーを続けている主将の友納菜々子(4年、筑前)は「豊田監督はいつも選手のことを考えてくれて、相談に乗ってくれます。今までプレースタイルが定まっていなかったが、今、チームの形を作っていこうとしています」と手応えを口にする。

また小学6年からラグビーを始め、高校時代はラグビーと平行して陸上部にも在籍していた副将の迫田夢乃(4年、鹿児島女)は「最初は(監督が代わって)戸惑いはありましたが、スキルなどは細かいところまで教えてくれる。チームの約束事も決まってきて、まとまりがでてきた」と感じている。

部員と一緒に。前列、ボールを持つ左が友納主将、右が迫田副将

指導を開始して2カ月半が経った。日々の練習メニューを考えたり、試合の分析をしたりと手探り段階で、まだまだやることに追われる日々だ。ただ、豊田監督は「練習後、選手たちの充実した表情を見ると、また、準備を頑張ろうと思います」と笑顔を見せた。現在のチームの目標は、日本の女子セブンズ(7人制ラグビー)最高峰の大会「太陽生命ウィメンズシリーズ」に参戦することだ。

初の公式戦

九産大は6月19、20日、静岡で行われる「リージョナルウィメンズセブンズ」の関西大会に出場する。豊田監督にとって初めての公式戦となる。コロナ禍で、今年は「太陽生命ウィメンズシリーズ」との入れ替え戦こそ実施されないことになっているが、優勝すれば来年の同大会に出場する機会が増える見込みだ。

指導者として夢は広がり、そのために学ぶことも多い

「7人制はオリンピック競技ですが、両方でラグビーを楽しんでもらいたいし、両方で成績を出せればいい」と願う豊田監督は7人制だけでなく15人制もしっかり指導する心づもりだ。「子どもにもラグビーを教えていきたいし、やるからにはトップレベルの指導もしていきたいが、そのスキルが足りないので勉強していきたい」

「一つひとつ勝つしかないですね」と話す青年監督と「日本で最も弱い」大学の女子チームの挑戦は始まったばかりだ。

【続きはこちら】早大で日本一3度「やばいっす」連呼の訳、豊田将万2

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