ラグビー

連載:監督として生きる

全国女子選手権初制覇、アワード優秀賞 流通経済大女子ラグビー・井上愛美HC1

全国女子ラグビー選手権でチームを初優勝に導いた井上愛美HC(撮影・大関学)

日本ラグビー界の発展に貢献したコーチらを表彰する「ジャパンラグビーコーチングアワード」の2019年度優秀賞に流通経済大学女子ラグビー部を率いる井上愛美(ちかみ)ヘッドコーチ(HC)が初めて選出されました。連載「監督として生きる」では井上HCのこれまでを3回で紹介します。初回は名選手だった父に導かれたようなラグビーとの出会いからです。

女性指導者初のコーチアワード優秀賞

アワードは日本ラグビー協会が17年度から制定したもので、19年度の特別大賞にはワールドカップ(W杯)で日本代表を率いてベスト8に進出したジェイミー・ジョセフHC、最優秀賞には早稲田大学を11年ぶりに全国大学選手優勝に導いた相良南海夫監督、そして井上HCと同じく優秀賞には「花園」こと全国高校ラグビー大会で初の単独優勝を飾った桐蔭学園(神奈川)の藤原秀之監督も選ばれた。女性指導者が優秀賞に選ばれたのは、初めてだった。

今年の4月に29歳になった井上HCは19年度、単独チームとして出場した茨城国体の女子(7人制ラグビー)で優勝に導いただけでなく、流通経済大女子ラグビー部「RKUラグビー龍ケ崎GRACE(以下GRACE)」の第6回全国女子選手権初優勝に大きく寄与した。なおGRACEは流通経済大の女子大学生が大半だが、筑波大学などの他大学や流通経済大OG、社会人も在籍できる。

7人制女子日本代表サクラセブンズでも活躍した(撮影・斉藤健仁)

高校時代から日本代表で活躍

高校時代から7人制、15人制の女子日本代表として活躍してきた井上HCは17年冬に選手を引退後、翌18年からすぐにHCに就任。2年でチームを全国一に押し上げた実績が高く評価された。井上HCは「SNSでジョセフHCらと並んでいるのをみて、そうそうたるメンバーの中に入れていただいて驚きましたが光栄な気持ちになりました。私は他のコーチと違って成長過程の中で選んでいただいた。今後も女子ラグビーだけでなく、女子スポーツ発展のために頑張りたい」と身を引き締めた。

小学校6年生から「関東ユース」に選ばれ、大人と一緒に練習してきた井上は、高校生で7人制と15人制の両方の日本代表に選ばれた。7人制では、10年のアジア大会(中国・広州)、13年のW杯モスクワ大会、15人制では17年にアイルランドで開催されたW杯に出場するなど学生時代から女子ラグビー界を引っ張ってきた選手のひとりだ。

現役引退直後からGRACEの指揮官に就任し、わずか2年あまりでチームを全国優勝に導いた。若き指導者の手腕に迫る前に、井上HCとラグビーという競技そのもの、そして職員としても働いている流通経済大学とのつながりに迫りたい。

1982年全国大学選手権決勝で明治大は早稲田大をスクラムから崩し優勝。父の賢和さんは強力FWの一員だった(撮影・朝日新聞社)

父は名選手、弟と一緒にラグビースクールへ

井上とラグビーの出会いは小学校1年生の終わりだった。父親の賢和さんは國學院久我山高校(東京)では高校日本代表に選ばれ、明治大学では全国大学選手権の優勝に貢献したフォワードの名選手だった。父が弟を群馬・前橋ラグビースクールに連れて行くとき、井上も同行し、そのままラグビーに興味を持って始めた。

父の仕事で群馬から東京、千葉と転々とする中でも井上はラグビーに情熱を傾け続けた。関東ユースは一般的には中学生から参加でき、中高生を中心に女子ラグビーの将来を担う選手を強化していたが、井上は小学校6年生の春から入った。月に2度開かれる女子のみの練習会であるが、この関東ユースから多くの有望選手が日本代表に選ばれている。井上は「12歳から入れると書いてあり、4月に誕生日を迎えていたのでお願いしました」と笑顔で振り返った。

当時の女子ラグビーを取り巻く状況は、現在とは大きく異なっていた。まだ7人制ラグビーが夏季オリンピックの正式競技に選ばれる前(16年リオデジャネイロ大会からの採用が決まったのは09年)、女子選手が世界と戦う唯一の道は15人制のW杯のみだった。そんな時代から井上はスクラムハーフ(SH)としてW杯で戦うことを夢見て研鑽を積んでいた。なお井上の同期にはリオオリンピック代表だった冨田真紀子(ながとブルーエンジェルス/フジテレビ)がいる。

「女子ラグビーの環境をよくしたい」と思い続けた井上HC(撮影・斉藤健仁)

時代を築いた先輩指導者とも選手で対戦

井上はリオデジャネイロオリンピックの女子日本代表の指揮官だった浅見敬子氏、日本体育大学で女子セブンズのヘッドコーチを務める古賀千尋氏、女子セブンズチーム・TKMの長谷部直子監督、追手門学院大学・高校の辻本つかさ監督ら、現在女子ラグビーを牽引している代表選手経験のある指導者とは、選手としても対戦した経験がある。

当時は女子ラグビーの競技人口は限られていた。先輩選手から指導を受けるのが当たり前で、中高校生時代から井上は「もっとトップの専門的なコーチから指導を受けることができたら……。もっと女子ラグビーの環境をよくできたらいいな……」と思っており、漠然とだが、将来は女子にラグビーを指導する道へ進みたいと思うようになっていた。

【続きはこちら】「100年続くチームを」と創部 流通経済大女子ラグビー・井上愛美HC2

監督として生きる

in Additionあわせて読みたい