陸上・駅伝

特集:第93回日本学生陸上競技対校選手権大会

園田学園女子大・渡辺愛が800m連覇、1500mと二冠!「金メダルかけたい」仲間

女子800mで連覇を決め、笑顔の園田学園女子大・渡辺愛(すべて撮影・藤井みさ)

渡辺愛の日本インカレ、レース内容

9月19~22日@Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(神奈川)

▽女子1500m決勝(9月20日)
優勝 渡辺愛(園田学園女子大4年)4分21秒93
2位 木下紗那 (中央大3年)4分22秒69
3位 田島愛理(順天堂大2年)4分23秒49

▽女子800m決勝(9月22日)
優勝 渡辺愛(園田学園女子大4年)2分02秒79
2位 西田有里(立命館大1年)2分03秒26
3位 江藤咲(環太平洋大4年) 2分04秒70

9月19~22日に開催された陸上の日本インカレで、園田学園女子大学の渡辺愛(4年、大阪)が女子1500mと800mの二冠を果たした。800mでは昨年に続く連覇も達成。個人として充実した4日間を終えた。

【写真】第93回 陸上日本インカレの優勝者たち パリオリンピック出場選手も活躍!

「チームのために出場した」1500m

1500m予選で4分24秒10をマークし、全体トップのタイムで決勝に進んだ渡辺。チームとしても太田垣楓華(2年、八鹿)と杉永美空(1年、園田学園)の3選手が決勝に進んだ。顧問を務める高橋浩之監督からは特段、決勝に向けた指示がなかったという。「他の2人はたぶん『どういうレース展開をしろ』と言われていたんですけど、自分のミーティングは1分も経たずに終わりました。『ラストインカレは口出ししないから、頑張ってこい』と言われたので、吹っ切れました」

監督からは特段レース展開の指示はなく「吹っ切れた」と話す

最初の1周を73秒で入るスローペース。渡辺は杉永や6月の学生個人選手権を制した木下紗那(3年、昌平)と集団を引き、3人の中では最も外側からレースを進めた。800mを2分29秒で通過し「予選よりだいぶ遅かった。スローになったら、たぶんスローのピッチのままいっちゃうので、ラストスパートをかけられるか心配でした」と渡辺は振り返る。

この時点で集団からこぼれ落ちる選手はおらず、ラスト勝負で優勝者が決まることが予想された。渡辺は4番手でラスト1周へ。「鐘が鳴ったときに、後ろからトンと押されて、ちょっとバランスを崩しちゃった部分があったんですけど、ちょうどラスト200mのところで園田の応援があって、みんなの声が聞こえて、先生も見えて、それが怖くて『うわーっ!』と行きました」。中心にしているのは800m。1500mは「チームのために出場した」と言う分、ミスはできなかったという。よほどホッとしたのだろう。取材を終えると、スキップしながら引き上げていった。

「チームのため」に出場した1500mを終え、ホッとした表情を見せた

「安達さんに金メダルをかけてあげたい」

800mで今シーズンは関西インカレ優勝、日本選手権3位などといった実績を残している渡辺だが、夏場はこの4年間で最も練習を積めていなかったという。「海外のレースに一つ出させてもらって、高地トレーニングもしたんですけど、それがたぶん自分の体に合っていなくて、帰ってきてからも1カ月以上しんどかったんです」。日本インカレも出場できるか、できないかの瀬戸際にいた。1500mに向けた練習はほとんどできず「800mのための1500m」。だからこそ、1500mで勝てたことに、大きな喜びを感じた。

翌日から始まる800mに向けては「隙があったら負けてしまうような方たちばかりなので、しっかり気を引き締めて、いったん落ち着きたいです。1500mを走っていないような気持ちで迎えたいと思います」。昨年は2走として優勝に貢献した女子4×400mリレー(マイルリレー)も「走ります」と意欲を見せていた。

ところが800mの予選とマイルリレーの予選があった大会3日目、予期せぬ出来事があった。渡辺は無難に800m決勝進出を決めたが、出走しなかったマイルリレーでは2走から3走につなげるところで、バトンを落としてしまった。4走の安達茉鈴(4年、京都橘)のごぼう抜きで最初にゴールしたが、落としたバトンを適正に拾わなかったと判定されて失格に。連覇への道が途絶えてしまった。

渡辺は最終日の800m決勝に臨む上で、個人的には「最後のインカレ、負けて嫌な形で終わりたくない」。そしてもう一つ、思いが重なった。「安達さんに金メダルをかけてあげたい」。安達は個人種目として女子400mに出場。53秒14の好タイムを残したが、日本体育大学のフロレスアリエ(2年、東海大静岡翔洋)にかわされ、2位だった。

マイルリレーがまさかの失格に。チームメートへの思いが募った

800m決勝で自己ベストを更新

迎えた決勝。1周目のセパレートレーンを終えると、渡辺は至学館大学の森千莉(1年、豊田大谷)、立命館大学の西田有里(1年、草津東)に続く3番手につけた。「体感では55秒ぐらいで入りました」という1周目を59秒で通過。逃げ切りを図る森を、渡辺と西田がバックストレートでとらえた。一騎打ちになる中、渡辺は最後まで西田に先行を許さず、2分2秒79で自己ベストを更新。「最後は『逃げろ~!』と思いながらでした。800mは1500mとは比にならないぐらい緊張したので、比にならないぐらいうれしい」と語った。

2日前の1500m決勝を終えてからは「気持ちを1回スパンと切る」とともに、指導者からは、あえて突き放されるような言葉をもらった。「私の性格を見抜いて『負けたら負けたでいいんちゃう?』みたいなことを言われたので、『ちゃんと走れるし!』と火が付きました。こう言ったら、こいつは燃えるということを分かってくれてるんです。この後、会ったら『やったぞー!』と言いたい」

1500mを終え、気持ちをスパンと切ってから800mに臨んだ

これまでは1500mを走れるようになると、わずか2周で全力を出し切る800mに対する難しさを感じることもあった。だが、夏場の疲れが抜けてからは、800mが「一瞬」と思えるようになり、大学では無類の強さを誇るまでに成長した。

関西で女子800mと言うと、日本記録を19年ぶりに更新した東大阪大敬愛高校2年の久保凛が思い浮かぶ。久保の話題に及ぶと、渡辺は「しっかりタイムで競っていきたい」。これからも一緒に女子中距離界を盛り上げる。

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