陸上・駅伝

特集:第56回全日本大学駅伝

初の伊勢路つかんだ岡山大学 青学大から編入の石鍋颯一が変えた選手の意識と練習内容

全日本大学駅伝初出場を決め、喜び合う岡山大の部員たち(撮影・上田潤)

第56回全日本大学駅伝対校選手権大会 中国四国地区選考会

9月13日@Balcom Bmw 広島総合グランド
1位 岡山大学   4時間14分03秒66
----------ここまで本戦出場------------
2位 環太平洋大学 4時間22分31秒52
3位 広島経済大学 4時間24分42秒46
4位 広島大学   4時間33分12秒25 
5位 広島修道大学 4時間41分30秒10
6位 至誠館大学  4時間48分03秒11
7位 愛媛大学   4時間50分11秒89
※高知大学は完走者が8人に満たず選考外

岡山大学が大躍進を果たして初の伊勢路切符をつかんだ。第56回全日本大学駅伝中国四国地区選考会が9月13日、広島市のBalcom BMW 広島総合グランドであり、4時間14分03秒66で1位に。初の本大会出場を決めた。選考会には8校が参加。最大13選手が10000mを走り、上位8人の合計タイムで競った。

選手のタイム短縮に大きな効果をもたらした「閾値走」

「この1年間に取り組んできたことが最高の形になった。『今年しかない』という強い気持ちで臨んだので」。表彰式後、主将の福永伸之介(3年、萩)は仲間に胴上げされ、涙を流して感慨深げに語った。昨年の中国四国地区選考会はトップと2分23秒差の3位。今年は、2番手に8分30秒近く差をつける圧勝だった。この2年半で選手の意識や練習内容が大きく変わった。中心にいたのが石鍋颯一(4年、鎌倉学園)だ。

中国四国地区選考会で、石鍋(中央)は3組目を任された(提供・岡山大学)

25歳の石鍋は大学駅伝の強豪・青山学院大学陸上部長距離ブロックで4年間を過ごし、2022年4月に横浜市の歯科医院で院長をしている父の後を継ぐため、岡山大歯学部に編入してきた。青学時代は3大駅伝に一度も出場することはできず、最終学年はけがの影響もありマネジャーになった。

ただ、同期の飯田貴之(現・富士通)や1学年上の吉田圭太(現・住友電工)ら2020年の箱根駅伝で総合優勝を果たしたメンバーらと練習を積み、同校の原晋監督の指導を間近で見てきた。「常勝」を掲げていたチームで得た経験は体に染みこんでいた。

石鍋が初めて岡山大の練習を見た印象は「結構いい走りをしている」。だからこそ、もどかしも感じた。「選手それぞれが自分の力を出し切れていない」。青学大元選手という肩書から、入部後すぐに一目置かれる存在になった。だが、すぐに青学大の練習を取り入れることはしなかった。「もっといけるよ」「次は少しペースを上げてみたらどうかな」。1年目は信頼関係を築き、選手に自信をつけさせることに力を注いだ。岡山大に監督はおらず、学生主体のチーム。2年目からは青学大を参考にして石鍋が練習メニューをつくるようになった。特に速いスピードを維持して長い距離を走る「閾値(しきいち)走」と呼ばれる練習は、部員のタイム短縮に大きな効果をもたらした。

石鍋(左端)は1年目に仲間と信頼関係を築き、2年目から練習メニューを作り始めた(提供・岡山大学)

福永伸之介主将「一緒に走ったら、どんな世界が見えるんだろう」

2022年春に入学した主将の福永も同期の石鍋の存在にひかれた1人だ。高校時代は競歩を専門にしていた。大学では当初、陸上部以外のサークルや部活に興味を持っていたが、石鍋が陸上部に入るかもしれないといううわさを聞いた。練習見学に行った際、石鍋とたまたま一緒になった。「石鍋さんが岡山大に入学するというのはニュースで知っていたが、本当に陸上やるんだという衝撃が強かった。彼と一緒に走ったら、どんな世界が見えるんだろうとワクワクした」と福永。この練習見学がきっかけで入部を決意した。力がつくにつれて選手たちも全国を意識するようになった。今年5月に福永が部員全員を集めてミーティングを行い、チームとして改善すべきことや練習に対する姿勢などについて約3時間、意見をぶつけ合った。福永は「全体で目線合わせができたことで迷いがなくなった」。走力だけでなく、駅伝に対する考え方や意識も急成長を遂げた。

中国四国地区選考会の通過が決まると、主将の福永伸之介(右から2人目)は号泣(撮影・上田潤)

迎えた中国四国選考会ではやみくもに走るのをやめ、他大学の戦力を考えた上で各組にメンバーを配置。明確な作戦を立てて臨んだ。旭隼佑(院2年、兵庫)によると、1組目はある程度スピードが備わったメンバーを選んで上位に入ることを意識した。2組目は実力が近いメンバーで構成し、前半は集団走で体力を温存して後半徐々に後ろを引き離していく作戦。各校のトップ選手が集まる3組目は集団走で展開しながらも、石鍋が他の選手との差を徐々に広げていくという想定だった。

狙い通り、2、3組目は足並みをそろえた見事な集団走を披露。想定外だった他校のメンバーが入った組にも冷静に対応した。旭は「ほぼプラン通りに遂行できた」。3組の中でトップになった選手は3組目だけだったが、出場した13選手が1桁順位に入り、総合力の高さが光った。

2組目の先頭集団を走る福永伸之介(32番)を中心に集団走を展開(撮影・上田潤)

5年後、10年後、関東の大学に勝てる一歩目に

国立大学ならではの苦労も、自分たちの力で乗り越えてきた。昨年11月に行われた第67回中国四国学生駅伝で岡山大は2位に入り、上位3校に与えられる出雲駅伝の出場権を初めて獲得した。ただ、資金が潤沢な関東の私立大学とは違い、OBの援助があっても金銭的な負担は深刻だった。そこで大会の移動費や宿泊費、合宿費用などに充てるためにクラウドファンディングを実施。最初の目標金額100万円を数日で達成し、最終的には約370万円も集まった。福永は「岡山大出身ではない人や県外の方からも多くの支援をいただいた。『これだけ応援されているのだ』といううれしさとともに、結果で恩返ししないといけないと思った」と語る。

全日本大学駅伝に向けても、新たにクラウドファンディングを実施する予定だという。初の伊勢路も思い出づくりにするつもりはない。今大会は岡山大を含めて国立大学が4校出場する。福永は「目標は国立大学で最上位」。そして、続けた。「5年後、10年後に関東の大学に勝てるチームになるような一歩目にしたい」

全日本大学駅伝に向けて、岡山大学が行う予定のクラウドファンディングページ

本戦では4校出場する国立大学での最上位を狙う(提供・岡山大学)

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