陸上・駅伝

特集:第36回出雲駅伝

「一戦必勝」國學院大、チーム全員で目標を共有しつかんだ5年ぶりの出雲駅伝優勝

笑顔で記念撮影する選手たち。下段左から1区青木、2区山本、3区辻原。上段左から椎木主務、4区野中、5区上原、6区平林、前田監督(撮影・藤井みさ)

第36回 出雲全日本大学選抜駅伝競走

10月14日@島根・出雲大社正面鳥居前〜出雲ドームの6区間45.1km

優勝 國學院大學   2時間09分24秒
2位 駒澤大学   2時間10分04秒
3位 青山学院大学 2時間10分24秒
4位 創価大学   2時間11分47秒
5位 アイビーリーグ選抜 2時間12分18秒
6位 早稲田大学  2時間12分23秒
7位 城西大学   2時間12分34秒
8位 帝京大学   2時間13分35秒

10月14日に行われた第36回出雲駅伝で、國學院大學が2019年以来5年ぶり2度目の優勝を果たした。かねてより第101回箱根駅伝での優勝を目指すと明言している前田康弘監督。その目標実現の可能性を感じさせる駅伝シーズンの幕開けとなった。

【写真】出雲駅伝全21チームのフィニッシュシーン チームとして手応えも、悔しさも

勝負の年「一戦必勝、全部取りに行こう」

「5年前に勝った時は、正直勝つ確率は自分の中ではそんなに高くない中で勝ってしまったというところもあったんですが、今回は勝ちに来て、勝ちたいと思っています。選手とも『今年が勝負の年だ』と新チーム発足からこの3大駅伝、一戦必勝、全部取りに行こうということを目標に掲げてやってきました」

前日会見で前田監督は、これまで口にしてこなかった「勝つ」という言葉を何度も使った。主将の平林清澄(4年、美方)をスカウトする際に、「4年生になる時に優勝しよう」と声をかけ、ここまで毎年着実にチーム力を高めてきた。シーズン当初からチーム全体で「勝つ」という目標を共有し、駅伝シーズン初戦を迎えた。

全員が粘ってトップから離れず、5区で先頭に

1区を担当したのは、主力の一人に成長した青木瑠郁(3年、健大高崎)。各選手が牽制(けんせい)し合い、1km3分10秒を超えるスローペースでのスタートとなった。6.5kmほどで5000m13分08秒のタイムを持つアイビーリーグ選抜のキーラン・トゥンティベイト(ハーバード大学)が抜け出し、集団は縦長に。青木はそこにしっかりとつき、残り1kmで先頭集団はトゥンティベイト、青木、青山学院大学の鶴川正也(4年、九州学院)に絞られた。ラスト200mでスパートした鶴川に先行されたものの、青木はトップから8秒差の3位で2区の山本歩夢(4年、自由ケ丘)につないだ。

山本は猛烈な勢いで後ろから追ってきた創価大学の吉田響(4年、東海大静岡翔洋)にかわされたものの、粘りの走り。5位で3区の辻原輝(2年、藤沢翔陵)に襷(たすき)を渡した。辻原はアイビーリーグ選抜のタイラー・バーグ(コロンビア大学)、青山学院大の黒田朝日(3年、玉野光南)、駒澤大の山川拓馬(3年、上伊那農業)、大東文化大学のエヴァンス・キプロップ(1年、セントピーターズカプケチャ)とともに創価大の山口翔輝(1年、大牟田)を追った。

辻原(中央)は先頭からは離されるも、勝負できる位置で襷をつないだ(撮影・高野みや)

中間点をすぎると先頭は山口、黒田、山川、辻原の4人となり、残り2kmのところで黒田と山川が抜け出し先頭争いを演じた。國學院大は3区が終わった時点で3位、トップの青山学院大との差は20秒だった。

青山学院大と駒澤大のトップ争い、箱根駅伝の再来か。そう思われるレース展開となったが、今年の國學院は一味違った。野中恒亨(2年、浜松工業)はトップを走る駒澤大の伊藤蒼唯(3年、出雲工業)、続く青山学院大の宇田川瞬矢(3年、東農大三)の背中に迫り、区間賞の走りで先頭との差を9秒に縮めた。

5区の上原流翔(3年、北山)はトップとの距離を徐々に詰め、5km手前でついに先頭へ。区間賞を獲得し、アンカーの平林に襷が託された。4秒後ろからスタートした駒澤大のアンカーは篠原倖太朗(4年、富里)。キャプテン同士の対決となり、スタートしてほどなくすると篠原が平林に追いついた。しばらく並走を続けたが、4kmをすぎて平林が前に。さらに5kmすぎ、浜山公園のアップダウンを利用して篠原との差を広げた。

2年生ながら他校の有力選手を上回り、4区で区間賞を獲得した野中(撮影・高野みや)

そのままリードを保ち、力強い足取りで出雲ドームへと向かう平林。ゴール奥ではチームメートが「バヤシ!バヤシ!」と掛け声をかけて平林を待つ。ゴールに向かう花道で平林は「1」を掲げ、最後は両手でガッツポーズを作り、ゴールテープを切ると、チームの全員が喜びを爆発させた。

時代を変えるために、どんどん國學院が出ていかないと

レース後、前田監督は勝負のポイントに「2区山本の最後の粘り」と「アンカー平林のマネジメント力」をあげた。3区終了時点で青山学院大と駒澤大は4秒差で、「駒澤の展開だった」と前田監督。6区は浜山公園の上り下りを越えて並走していたら、勝機はなかなか見いだせないと感じていた。2分50秒を切るペースで走る中、一番きつい浜山公園のところでスパートして追う篠原の気持ちを折ったところを、「平林の賢さというか、マネジメント力だと思います」と評価した。

2019年に出雲駅伝で優勝してから潮目が変わり、高校時代から高い実績を残している選手が國學院を選んでくれるようになった。その選手たちをいかに育成するか。箱根駅伝を通して、学生のうちに10000mとハーフマラソンの力を磨き、マラソンを走れる選手を育てていくのが大事な役割だと前田監督は考えている。

それは前田監督が恩師である駒澤大学の大八木弘明総監督から教わったことでもある。その教えを継承して進化させ、駒澤と堂々と勝負できるようなチームを作りたいとずっと思ってきた、と前田監督は話す。今大会に出場したチーム内で、エントリー選手10人のうち上位6人の10000m平均タイムで、國學院大がトップとなっているのも、その取り組みが形となって現れた結果だ。

前田監督の熱さ、本気が選手たちにも伝わり、強いチームができてきている(撮影・藤井みさ)

そして今年を「勝負の年」と位置づけ、とにかく勝ちにいくチームを作るという意図のもと1年間やってきた。会見で「勝ちに来た」と発言したのも、目指すところはぶれないという意思表示だった。「今回は3番以内という言葉では逃げず、どの駅伝も全部取るつもりでやるからというのを選手にも言っています。どんな相手が来ても負けないぞと」

実際、2019年シーズンからの学生3大駅伝の結果を見ると、19年出雲での國學院大、19年全日本での東海大学、21年出雲での東京国際大学以外はすべて青山学院大、または駒澤大が優勝している。「時代を変えていくためには、こういう部分で國學院がどんどん出ていって勝ちに結びつけていかないと」。大学駅伝の勢力図を変えていく、その気概を持って臨んでいる強い意志を感じさせた。

「ドラマを作ってきます」平林、先輩・土方への有言実行

平林はこれまで1年時、3年時と6区を走っており、3回目の6区だった。4秒差でスタートした篠原が追いついてくるのはわかっており、追いつかれた後どうするかと考えた時に並走になり、「相当意識しているな」と感じたという。4km手前の左に曲がるカーブで、去年平林は青山学院大のアンカーを担当した鶴川に追いつき、抜いた経験があった。「あそこでギアチェンジできるというのが自分の中でありました」。まさにそのポイントで篠原が一歩下がり、平林の後ろについたタイミングを逃さず勝負をかけた。結果的に区間賞を獲得、篠原とは区間記録で36秒もの差がついた。

19年に土方英和(現・旭化成)がゴールテープを切るシーンを見て、声をかけられていた國學院大への進学を決めた平林。前日に土方から「(調子は)どう?」とLINEが来て、そこに「今回は行けます」とはっきり返信した。土方からの「ここで優勝したらドラマだな」の言葉に「ドラマを作ってきます」と返した平林。5年前の再現のように、駒澤大との優勝争いを制し、トップでゴールに飛び込んだ。

平林は何度も喜びを表現しながらゴールに向かった(撮影・藤井みさ)

「再現ドラマ並みのドラマを作れたかなと思います」と言いつつも、「来年以降もこれをつなげていくのが大事なのかなと思うし、(今年は)あと2本チャンスがあるので、そこはしっかり走るべき人間が走るチームを作っていけるように。最大限の準備ができるようにやっていきたいなと思います」とすでに次なるレースへと目を向けた。

昨年の出雲駅伝で優勝した駒澤大の前キャプテン、鈴木芽吹(現・トヨタ自動車)がレース前日のミーティングで「6区には俺がいるから安心しろ」と言った、というのを聞き、「僕も絶対(それを)言ってやるぞと思ってたんです」という平林。しかし実際は「メンバーが強過ぎて、『6区に俺がいるから任せろ』じゃなくて、『すまん、1区から5区頼む』って言いました。そう言うぐらい強いチームができてたんですよ」と話す。

だが当日の朝、それぞれの区間に出発する際にLINEでメンバーに「6区には俺がいるから、好きに暴れてきていいぞ。どんなところで来ても、最後俺が優勝に持っていくから」と送った。すると上原からは「大丈夫です。僕が暴れてきて、先頭で持ってくるので安心してください」と返事が返ってきて、その通りになった。「その言葉を信じて安心してました。本当にいいチームができてるんじゃないかなと思います」と言う。

キャプテンとして、チーム作りを一番大事にここまで取り組んできたと話す平林(撮影・藤井みさ)

「本当に僕と同等レベルのことができる選手がいっぱいいます。僕が何かしたというよりは、みんなが強くなってくれてよかったなと本当に感謝しかないですね」。4年目になり、負けるかもしれない、というヒリヒリとした環境で練習ができるチームになってきている。それがさらにチームを引き上げ、優勝できるチームにまでなってきた。

副キャプテン山本「ここからまたステップアップ」

前田監督にキーポイントに挙げられた山本は、「やっぱり最後の4年生ですし、たれて終わることだけは絶対にしたくなかったので、本当に粘って、青学の野村(昭夢、4年、鹿児島城西)君をずっと見て走ってたので。(野村と)3秒差で辻原にいい形で渡せたところはすごく良かったと思います」と2区区間5位だった自らの走りを振り返った。

山本は昨年の夏、左足のシンスプリントを発症。出雲駅伝に向けて急ピッチで仕上げ、4区区間6位。状態が上がりきらない中で臨んだ翌月の全日本大学駅伝では2区区間11位と、本来の力を発揮できずだった。その後右の大腿骨(だいたいこつ)を痛め、箱根駅伝には出場できなかった。その悔しい思いを胸に、今シーズンは故障に気をつけつつも負荷の高い練習に取り組んできた。

副キャプテンとして、4年生として及第点の走りができたという山本(撮影・高野みや)

だが前半シーズンも小さな故障が続き、1カ月前はまったく走れていない状態だったという。「そこからAチームになんとか合流したんですけど、みんなみたいなキレのある走りができていませんでした。でもこの出雲にしっかり間に合って、当日走れたということはまず価値があると思うので、ようやくスタートラインに立てたと思っています。ここからまた全日本、箱根とステップアップできるように頑張りたいです」

今年副キャプテンを務めている山本。エースとして、キャプテンとしてチームを引っ張る平林を支えようという気持ちでこれまでやってきた。平林が後輩に対して強い言葉で怒ることもあり、山本はそんな時平林から「あいつに言い過ぎたからうまくカバーしておいてほしい」と頼まれることもある。山本は「お前に強くなってほしいからこうやって言っているんだよ」とフォローしつつ、平林に足りないところをカバーしつつ、という形でチーム作りを進めてきた。

「そういうところもずっと平林とは話しながらやってきたので、チームとしては本当にまとまっていると思います」と山本。強い信頼関係でお互いを補い合っていることを感じさせた。

監督、選手が目標を共有し、全員が「勝ち」に向かうチームを作っている國學院大。次の全日本大学駅伝、そして箱根駅伝。大学駅伝の勢力図を塗り替える一角となることができるか。

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