陸上・駅伝

特集:第56回全日本大学駅伝

國學院大が全日本大学駅伝初優勝 MVPの山本歩夢「みんなが取らせてくれた区間賞」

6区山本から7区平林へ、笑顔の襷リレー(撮影・宮澤希々)

第56回全日本大学駅伝

11月3日@愛知・熱田神宮西門前〜三重・伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
優勝 國學院大學 5時間09分56秒
2位 駒澤大学   5時間10分24秒
3位 青山学院大学 5時間10分41秒
4位 創価大学   5時間13分17秒
5位 早稲田大学  5時間14分24秒
6位 城西大学   5時間14分57秒
7位 立教大学   5時間16分21秒
8位 帝京大学   5時間16分24秒
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9位 東京国際大学 5時間17分46秒
10位 日本体育大学 5時間17分52秒

11月3日に開催された第56回全日本大学駅伝で、國學院大學が大学史上初の日本一をつかみとった。これで出雲駅伝に続く二冠。6区を走った山本歩夢(4年、自由ケ丘)が区間新記録を樹立しMVPを獲得した。山本は「みんなが取らせてくれた区間賞です」と仲間に感謝した。

「歴史を変える挑戦」のスローガンのもとに

今年の國學院大のチームスローガンは「歴史を変える挑戦〜ep.3」。2010年度エピソード1の時はチーム史上初の箱根駅伝でのシード権を獲得、2019年度エピソード2の時は出雲駅伝初優勝、箱根駅伝総合3位を達成と、いずれも目に見える結果を残してきた。

今年のチームになってから、選手たちは「勝ち切る」ことをテーマに常に取り組んできた。「勝ち切る」目標を全員に浸透させることから、行動に移すことまで。それが実り、出雲駅伝では5年ぶりの優勝を果たした。

前日会見では笑顔を交えつつ、日本一への強い気持ちを語った前田監督(以下すべて撮影・藤井みさ)

前日会見で前田康弘監督は「出雲は勝てましたが、全日本は簡単に勝てるものではないとわかっています。しかし、我々は初の日本一にチャレンジするつもりで名古屋に乗り込んできました。選手たちも自信を持ってスタートラインに臨める状況です」と強い思いを口にした。「歴史を変える挑戦」のスローガンのもと、箱根駅伝総合優勝はもちろん、全日本大学駅伝で優勝して日本一になろう、という気持ちでここまでやってきた。

「ここまで順調にきているので、結果で明日証明したいです。応援してくれている方々にも、堂々と日本一になるところを見てもらいたいと思っています」とし、出雲で優勝したことで選手の気持ちも体も充実していると自信をにじませた。

「次のランナーのことを考えて」全員駅伝の勝利

迎えたレース当日、スタートの1区を担当したのは嘉数純平(3年、北山)。昨年も全日本を走り6区区間5位だったが、自分の走りには納得していなかったといい、リベンジのつもりで臨んだ。27人が牽制(けんせい)し合い、1km3分を超えるスローペースで9kmまで進んだ。残り500mで襷(たすき)を取った選手たちがスパートし、嘉数もそこにつく。ラストスパート勝負となり日本体育大学の平島龍斗(3年、相洋)がトップで中継所へ。嘉数はわずかに及ばなかったものの、2秒差で青木瑠郁(3年、健大高崎)につないだ。

1区を担当した嘉数。流れをつかみいい滑り出しをつくった

2区を引っ張ったのは青山学院大学の鶴川正也(4年、九州学院)と、青木と同時にスタートした創価大学の吉田響(4年、東海大静岡翔洋)。ハイペースでの進行に青木は次第に離され、2区終了時点では暫定6位、トップとの差は54秒に開いた。3区の辻原輝(2年、藤沢翔陵)は前田監督から「攻めていけ」という指示をもらい、絞り出す走りで区間3位。順位も3位に上げ、トップとの差は35秒と縮まった。

4区の高山豪起(3年、高川学園)は「100点満点の走りではなかったが、チームのことを考えたらしっかりと走ることができた」と振り返る通り、区間4位でしっかりとまとめて順位をキープ。しかし青山学院大のエース・黒田朝日(3年、玉野光南)が33分03秒と、従来の区間記録を13秒も縮める爆走。トップとの差は再び1分27秒に開いた。

青山学院大がこのまま先頭を走り続けるのか。そう思われたレース展開となったが、今年の國學院はこれまでとは違った。5区の野中恒亨(2年、浜松工業)がぐんぐんと前を追い、城西大学の林晃耀(4年、いわき総合)をとらえて2位に上がると、区間賞の走りで青山学院大との差も一気に41秒に縮めた。

5区で区間賞を獲得した野中。つなぎ区間での快走が優勝につながっていった

6区で襷を受けたのは、副キャプテンの山本。走り出すと、時折右脇腹を気にするしぐさもあったが、スピードは落ちることなく、青山学院大の白石光星(4年、東北)の姿がどんどん大きくなってくる。従来の区間記録を14秒更新する36秒47の区間新記録で、同級生でキャプテンの平林との襷リレーが実現した。

平林のところで勝負が決まるのではとも思われたが、4秒前を行く青山学院大の7区は太田蒼生(4年、大牟田)。太田は3kmを8分10秒で突っ込み、平林は10秒ほど離された。15km手前で平林は太田に並んだが、太田は平林を前に出させない。最後は太田が前に出て、平林より4秒前でアンカーにつないだ。太田と平林は同じタイムで7区を走り切った。

平林には、駒澤大の大八木弘明総監督が前の太田とのタイム差を伝える場面も

アンカーを任せられたのは上原琉翔(3年、北山)。スタートしてすぐに青山学院大の塩出翔太(3年、世羅)にぴったりとつき、そのまま9kmまで進んだ。1kmのラップが3分まで落ち、上原は塩出と並走していたが9.5kmすぎで塩出の前へ。そのまま差を広げ、初優勝のゴールへと飛び込んだ。

前田監督はレース後の会見で、「國學院らしい全員駅伝の勝利かなと思います。誰かだけが頑張ったわけではなく、3区の辻原しかり、6区の山本しかり、最後の粘りで次のランナーが走りやすい位置で襷を渡せたこと。自分だけじゃなく、次のランナーのことを考えて1秒を大事にする、振り絞る。縦も横も風通しもいい関係でできた結果が表れたんだと思います。8人の総合力で日本一になれたのではないかなと思います」と、チーム全員でつかんだ勝利だと話した。

アンカーの上原は笑顔でゴールテープを切り、仲間の元に飛び込んだ

苦しい時期も「歩夢と優勝したい」の言葉を支えに

MVPを獲得した山本は、これが学生3大駅伝では初となる区間賞だった。1つ、形になるもので結果が出たことへの感想をたずねると「区間賞は素直にうれしいです」と言いつつも「この区間賞はみんながくれた区間賞だと思います」という。「本来はエース区間で走るべきだし、去年の2区のリベンジをしたかったんですが、みんなが強すぎてつなぎの区間に回りました。出雲駅伝では『みんなが優勝させてくれた』という感じだったんですが、今回区間賞をとれて自信になりました」と晴れやかな表情で話した。

山本は前田監督に「4年生になった時に箱根駅伝総合優勝しよう」と勧誘されて入学。同級生の平林とは2人で1年時から「優勝しよう」とずっと言い続けてここまできた。1年時の箱根駅伝3区で大学駅伝デビューし、エース区間を任されるなど主力として走ってきたが、3年時はけがに苦しんだ。

昨年8月に左足のシンスプリントを発症し、急ピッチで駅伝シーズンに間に合わせたが、出雲駅伝4区区間5位、全日本大学駅伝では2区区間11位と本来の走りができず。11月には右の大腿骨(だいたいこつ)を骨折してしまい、箱根駅伝への出場はかなわなかった。その間、平林は今年2月の大阪マラソンで学生最高記録を更新して優勝するなど活躍を続け、「学生最強ランナー」と呼ばれるようになった。

最高の仲間でありライバルとお互いが認める山本と平林。大学1年から結果を出し続けている平林の活躍に「また差を広げられているな」と感じることもあり、苦しさも感じた。しかし平林の「ずっと待ってるから」「歩夢と優勝したい」との言葉が山本の力になった。

MVPを獲得した山本に対し、平林は「持ってかれた」と何度も口にした

今年も関東インカレが終わった後に故障をし、コロナへの感染もあり、ホクレン・ディスタンスチャレンジに出場することができなかった。夏合宿でも8月末の2次合宿終了後にようやくAチームに合流できた状態で、なんとか練習にくらいつき、出雲駅伝のメンバー入りを勝ち取った。

しかし出雲駅伝に向けてのスピード練習で、1km2分47〜8秒で押していくのはきついと感じてしまった。出雲では2区で区間5位。「耐える走りになってしまうだろうと思ったんですけど、(トップの)青学が見えるところで辻原に渡せればと思ってました。自分たちの強みはやっぱりつなぎ区間で、つなぎ区間がしっかり区間賞を取ってくれたのが優勝につながったので。今回は自分がその役割をできたので良かったなと思います」

会見中も選手同士笑顔を交わす場面が。学年関係なく風通しのいいチームができている

昨年2区でブレーキをしてしまったという思いもあり、全日本にかける思いは強かった。去年走った時は、走っている最中に差し込みが来て、我慢していたが、ラスト1kmほどで「とてつもない痛み」になってしまい、苦しい結果となった。今回も走り出して差し込みが来た時に、その時のことを思い出してしまったという。しかし痛みが出た箇所を自分で揉(も)んで、痛みを散らすようにして走り切った。

出雲駅伝が終わってから練習をしていく上で、1km2分52〜3秒ならずっと押していけるなと感覚をつかんでいた。10日前にきつい練習をしてもいい走りができ、前田監督からも「区間賞は全然いけると思う」と言われていた。「でも正直、タイムとか区間賞というよりも、(前を行く)青学さんのことしか考えてなかったので」。それが結果として最高の形となって現れた。

現状に満足しない環境が、チームを強くしている

前日の夜には、平林から電話があった。「LINE送るのがめんどくさいから電話するわ」と言っていたが、電話口の平林が珍しく緊張しているのに気づいた。注目度も高く、キャプテンとしての重圧もあるのだな、と改めて感じた。「LINEだと感情があんまりわからないので、電話できてよかったです。なおさら平林を楽させてあげよう、と思いました。みんな(平林を)信じてるから攻めの走りができるので、本当にあいつの存在が一番大きいと思います」と“相棒”への信頼をにじませた。

4年生になって、特に下級生からの突き上げがすごく、日々戦々恐々としている、とも笑う。特に上原や野中は、部屋で話している時や風呂場など日常生活の中でも「平林さん、歩夢さんに勝ちますよ」とさらりと言うという。「本当に2年生、3年生が自分たちを怖がらずにきて、現状に満足できないこの環境が僕たちを強くしてると思うので。本当に優勝できて、箱根につながる走りができてよかったです」

「全員駅伝」で日本一をつかんだ國學院大。箱根駅伝総合優勝の目標に向けて突き進む

「歴史を変える挑戦」の最終目標となる箱根駅伝では、しっかりと往路を走りたいという気持ちがある。「でもまずは一番、故障しないように。そこだけ気をつけながら、またチームで優勝を目指して頑張りたいと思います」。箱根路で山本の集大成の走りを、ぜひとも見せてほしいと思わずにはいられなかった。

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