陸上・駅伝

特集:第101回箱根駅伝

法大の小泉樹、武田和馬らラストの箱根路へ コツコツ積み上げ、4年連続シード獲得へ

2025年の箱根駅伝で4大会連続のシード権獲得を目指す法政大学(撮影・佐伯航平)

10大会連続で箱根駅伝に出場するシード校の法政大学は地に足をつけた目標を掲げ、1年かけて、コツコツと積み上げてきた。坪田智夫監督、主将の小泉樹(4年、國學院久我山)やエースの武田和馬(4年、一関学院)を中心とする主力選手たちは本番を控え、自信をのぞかせている。

チーム強化へ練習のボリュームを増加

2022年総合10位、23年7位、24年6位。法政大は3年連続で箱根駅伝のシード権を確保し、右肩上がりで順位を上げてきた。就任12年目を迎える坪田監督は総合5位以内から逆算し、1年かけてチームを強化してきたという。

「前年度と比べても、練習のボリュームは増やしています。これは新チームをスタートさせたときからずっと取り組んできたこと。むしろ、増やさないと勝負できませんので」

1回の練習内容はほとんど変わらないものの、ウォーミングアップ、クールダウンを含めて、総合的に走る距離を伸ばしている。目を向けるのは、走力の向上だけではない。細部にも気を配る。ここ数年は補強、ウェートトレーニングも徹底。そして今季は、食事改革により力を入れた。栄養士の資格を持つOGにサポートしてもらい、ベストに近い状態で練習やレースに臨めるようにコンディショニングの調整に最善を尽くす。現役時代に3回、箱根路を走った実績を持つOBの指揮官はしみじみと話す。

年初の箱根駅伝では、6区区間賞の武田和馬(左)らの活躍で総合6位に入った(撮影・佐伯航平)

「見えないところの積み重ねが大事」

今季は順風満帆に来たわけではない。6月には厳しい現実を突きつけられた。全日本大学駅伝の関東地区選考会では前半から苦戦を強いられ、3組目でアクシデントが発生。途中棄権者が出て、まさかの失格となってしまった。

しかし、坪田監督は苦い過去から目を背けずに振り返る。

「アクシデントのせいではなく、負けるべくして負けました。1組目、2組目で上位につけていれば、3組目の走りも変わっていたはず。チームに出場する力がなかったんです。うちには天才肌はいませんから」

法政大のモットーは、地道にコツコツ。蓄積してきた過去のデータから導かれたものもある。試行錯誤を繰り返し、箱根で成績を残してきた47歳の言葉には説得力がある。

「7月、8月、9月の出来が箱根の結果に左右します。夏合宿の準備段階にあたる7月も大事。この3カ月をけがなく過ごせたかどうか。無理して練習を乗り切るのではなく、余裕を持ってこなさないといけない。それを踏まえた上で、今季は夏の目標を達成できました」

坪田監督の表情には、自信がにじむ。秋からは徐々に仕上げていく期間。“スピード駅伝”と言われる10月の出雲駅伝は9位と苦しんたが、前を向いていた。主要区間の1区で起用した大島史也(3年、専大松戸)には、ここからの奮起を促している。高校時代にU20日本選手権3000m4位の実績を持ち、今年9月、5000mの記録会でチーム最速となる13分35秒33の自己ベストを出すなど、潜在能力は高い。

「大舞台で走れないといけない。これも経験。出雲の結果をどう受け止めるかで変わってきます。箱根にもつながってくるはずです」

5月の関東インカレ男子1部5000mに出場した大島史也(撮影・井上翔太)

キーマンになるのは4年生

法政大の選手たちが得意とするのは、箱根の区間を見据えた長い距離だ。全6区間45.1kmで競う出雲路の成績だけでは判断が難しい。坪田監督が箱根駅伝のキーマンに挙げるのは4年生。駅伝メンバー外となる選手たちのサポートも必要不可欠である。高い目標を目指すチームの雰囲気をつくるのは、最上級生の役割と位置づけ、スタートラインに立つ主力にも、責任を持って走ることを求めている。

「必ずしも区間賞を取ることではなく、与えられたタスクを確実にこなすのが4年生の仕事です」

出雲駅伝の最終6区を任された宮岡幸大(4年、宇和島東)は区間10位と思うように走れずに坪田監督から厳しい評価を受けたが、主力の一人であることに変わりはない。4年目の箱根駅伝は、気負わずに走ることを心に誓う。

「僕は箱根で陸上競技を引退するので、まず楽しみたいと思っています。後悔のないようにやり切る。その上で4年生として、チームを勢いづける走りをしたいです」

11月の上尾ハーフに出場した宮岡幸大。序盤で集団から飛び出した(撮影・宮澤希々)

主将の小泉樹が鼓舞「現状に満足してほしくない」 

出雲路の3区で区間6位と安定した走りを見せた主将の小泉は、チームの機運を高めるためにミーティングから仲間たちの意識変革に取り組んでいる。箱根路は1年時に3区で出走して11位、3年時に4区で12位。大舞台の厳しさを知る4年生は言葉に力を込める。

「いままでは法政で主力になればいい、という考えの選手たちが多かったと思います。それでは、目標は達成できません。優勝を目指すような大学にも勝たないといけない。チーム内の競争をもっと激しくするために、『現状に満足してほしくない』と言い続けています」

ひと夏を越え、選手層は厚くなってきた。練習からより切磋琢磨(せっさたくま)するようになり、主力のレベルアップには手応えを感じている。小泉自身、充実した夏を過ごした。「練習の量と質は、今年が一番いいです」と胸を張る。

11月の上尾シティハーフマラソンでは1時間2分13秒と自己ベストを更新して6位入賞を果たした。箱根駅伝の個人目標は、主要区間で区間3位以内で、あえて自らにプレッシャーをかけている。入学時から憧れてきた区間への思いも隠そうとはしない。祖父の真二良さんは早稲田大で1965年から1968年にかけて、4年連続1区で出走。物心ついたときから大手町のスタートラインに立つことを夢見てきた。

「最後は1区を走って終わりたい。練習のときから、区間は意識しているので。ずっと思いは持っています」

主将の小泉樹はチームの意識変革に取り組んできた(撮影・浅野有美)

エースの武田和馬「最後は一生の思い出にしたい」

ラストイヤーにかける気持ちはエースの武田も同じだ。前回大会は山下りの6区で区間賞を獲得し、101回大会ではさらに上を目指すために取り組んでいる。幼少期の夢だった箱根駅伝は、ルーキー時代から3年連続で出走。4年目は最も良い結果で終わりたいという。

「チーム目標を達成するために法政大のエースとして貢献しないといけない。6区であれば、区間新で区間賞。往路であれば、2区、3区で日本人トップを狙いたいです。山下りにこだわらず、平地で強い選手に勝つという意識も出てきました」

ラストイヤーのエース・武田和馬は箱根駅伝への強い思いを語った(撮影・浅野有美)

昨年も往路の主要区間を想定して準備していたこともあり、自信を持っている。何よりも力を入れるのは、万全のコンディションで臨むこと。常日頃から食事と睡眠には特にこだわっている。大会前は白米などの炭水化物をの摂取を増やし、エネルギー不足を防ぐようにしている。睡眠は寝具にも気をつかい、遠征や合宿時には深く眠れる自分用の枕を持参する。

「いつも通りの流れで箱根に向かい、自分の持っている力を出します。最後は一生の思い出にしたいです」

2004年の第80回大会(総合4位)以来となる総合5位以内を目指し、100%の状態でスタートラインに立つ。

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