バレー

明治大学・岡本知也 主将の責務を果たし乗り越えた就活 最後の全日本インカレに挑む

主将の責務を果たしながら、就職活動にも取り組んできた岡本知也(すべて撮影・松崎敏朗)

11月25日から、大学バレーボールの最高峰を決める全日本インカレが始まる。東日本インカレで準優勝し、秋季関東リーグ戦で2位となった明治大学の主将・岡本知也(4年、五所川原工業)は、就職活動を続けながら、チームを牽引(けんいん)してきた。2つの難題に取り組んできた道は険しかったが、チームメートたちの支えで乗り越えてきたという。

就職後もバレーを続けたい

就職活動を始めたのは、今年の2月ごろ。就職後もバレーボールを続けたいと考えてはいたが、そのためには入社試験を突破しないといけない。体育会に所属していない学生と比べると、遅い出だしということもあり、戸惑いも多かったという。就職したい業界、やってみたい仕事が定まらない中、自分と向き合い、これまで生きてきた20年間あまりを振り返った。

その結果、湧いてきたのは「ものづくりをしたい」という思い。高校時代に情報技術科でプログラミングや情報セキュリティーを学んでいた経験がきっかけだった。プログラムを一から組み立て、形にしていく面ではプログラミングも、ものづくりと言える。そういった仕事に就ける業界にトライしようと考えた。

面接練習やエントリーシートの書き方を学ぶことからスタートしたが、バレーボールチームがある企業の入社試験を受けても不合格に。明治大学の主将といえども優遇されることはなかった。そんな時に、アドバイスをしてくれたのが廣本遥コーチだった。岡本は「エントリーシートを添削してもらい、面接練習の計画も立ててくださいました」と感謝の言葉を口にする。

これまでの人生を振り返り、湧いてきた思いは「ものづくりをしたい」

不調時に助けてくれた同期

主将としての責務を果たしながら就職活動を続けるのは簡単ではなかった。4月には、春の関東リーグ戦が開幕。大学生としてのラストイヤーだけに、試合や練習をおろそかにすることはできない。大学の講義にも出席し、その合間に、就職活動や練習の時間をつくったという。6月の東日本インカレは富山県で開催。連日、試合が続くため、就職活動は一時ストップした。

バレーボールに集中しようと割り切っているつもりではいたが、頭の片隅に就職活動への意識が残っているせいか、1、2回戦は調子が上がらなかった。バレーボールチームがある企業から声がかからず、結果を出して注目してほしいという思いもプレッシャーにつながった。そんな時に助けになったのは、後輩の成長と同期からの「いつも通り、プレーで引っ張っていく姿を見せれば大丈夫」という言葉。徐々に調子を取り戻し、チームは決勝に駒を進めた。

相手は、春季リーグを制した中央大学。2セットを先行されたものの、後半2セットを取り返した。勝負の行方はフルセットにもつれ込み、リードしてコートチェンジを迎えたものの逆転負けを喫した。「悔しかったですね。最後の勝ちきり方では、中央大が一枚上手で、自分たちは『勝てそう』という気持ちが先行したのだと思います」と岡本は振り返る。

「勝つために何ができるか」を問い続けて

その後、就職活動を再開し、吉報が届いたのは、9月末。就職先には、バレーボールチームがあり、社会人になった後も競技を続けられることが決まった。「喜びもあったんですが、やっぱり安心感が一番でした。ずっと決まらない日々もバレーボールと両立してきて。やっと解放された感がありました」と岡本は笑顔で振り返る。

これまで、主将としてチームを一つにまとめ上げ、パフォーマンスを最大限に発揮するために意識したのは、部員の意思統一だ。もともと、明治大には個人のパフォーマンスが高い選手が集まっている。その上で、チームとしての組織力も高めないといけない。部員は、それぞれ違う高校で、異なる経験を経ていることもあって、時に、課題の見え方も異なっていた。このため、メンバーの目線を合わせ、同じ方向を見て課題を克服することが必要だった。

チーム内で意見が対立した時も、岡本は一人ひとりと向き合い、主将、副将、各学年の代表で話し合いを重ねたという。そうすることで、お互いの相違点を埋め、克服すべき課題を明確化。伸ばすべき長所も絞ることで、チームの練習への向き合い方も変わってきたという。「みんながプレーしやすい環境を大事にしたかった。最後は、『勝つために何ができるのか』を問いかけて、僕自身が後悔しない選択をしてきました」

攻守双方のプレーに磨きをかけてきた

攻守のハードワークでチームに貢献

身長は183cmで、最高到達点は329cm。190cmや200cmの選手が多くいる大学バレーボール界で、突出した選手でないことは分かっている。だからこそ、攻守双方で貢献しようとプレーを磨いてきた。攻撃の選択肢を増やして、相手のプレッシャーにつなげるため、レシーブを受けてもできるだけ攻撃に参加する。ハードワークを続けるためのトレーニングも欠かさない。思った通りに試合が展開しない時、タイムアウトやプレーの合間に、いらだちを募らせる選手に積極的に声をかける。苦境に陥っても、「主将でありエースでもある自分が下を向いている暇はない」と力強く語る。

東日本インカレでは準優勝だったが、それでも昨年の3位から1つ順位を上げたことに手応えも感じた。そして、秋の関東リーグ戦では、8勝3敗で2位に。個人としては敢闘選手賞を受賞した。目標だった日本一は、徐々に夢物語ではなくなってきている。「日本一への気持ちは、チーム全体として強くなっている」と岡本は話す。

秋季関東リーグ戦では、敢闘選手賞を受賞した

主将を続けられたのは「みんなのおかげ」

調和型の性格から、主将を続けてこられたことにも「みんなのおかげです」と語る。落ち込んでいる時に声をかけてくれた同期、率直に直言する後輩、部内を盛り上げるムードメーカーと、枚挙にいとまがない。全日本インカレの注目選手を聞くと、「もちろん自分に注目してほしいのですが」と前置きした上で、セッター近藤蘭丸(3年、東福岡)の名を挙げる。「1年生の時から試合に出ていますし、個性的なメンバーを操る司令塔なので、彼の存在は大きいです」

就職活動に加え、チーム全体に目を配らせる主将という二つの難題に懸命に取り組んできた。ふと「自分以外の誰かが主将をしていたら、タイトルを取れていたのかな」と考えたこともあるという。主将を務めて良かったのかどうか、その答え合わせのためにも全日本インカレを見据えている。

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