社会や仲間と「つながる力」で大学ラグビーの強化・活性化を 125周年記念シンポ
慶應義塾大学日吉キャンパスで11月24日、「これからの大学ラグビーの活性化へ向けて~各校が果たすべき大学ラグビーへの貢献とは~」をテーマに、シンポジウムが開催された。日本ラグビーのルーツ校、慶應義塾大学蹴球部創部125周年記念式典の一環。開催に先立ち、オープニングムービーとしてこれからの日本ラグビーの危機が提起され、シンポジウムでは、競技の魅力や教育的価値に加え、地域社会や他競技団体との連携の重要性が強調された。現役選手やOB、そして大学全体が一体となり、ラグビーを通じた人材育成や新たなファン層の創出を目指す姿勢が議論された。
シンポジウム
「これからの大学ラグビーの活性化へ向けて~各校が果たすべき大学ラグビーへの貢献とは~」
11月24日@慶應義塾大学日吉キャンパス
【進 行】
生島 淳氏(スポーツライター)
【登壇者】
岩出 雅之氏(帝京大学スポーツ局局長、帝京大学前監督)
相良南海夫氏(早稲田大学ラグビー蹴球部アドバイザー、早稲田大学前監督)
田中 澄憲氏(東京サントリーサンゴリアスGM、明治大学前監督)
廣瀬 俊朗氏(ラグビー日本代表チームディレクター補佐、元慶應義塾大学主将)
「ラグビーの将来のため団結」共通意識が芽生えた
生島 今のオープニング映像を見て感想をどうぞ。
岩出 これまでもそれぞれのチームがラグビーの発展に向けて頑張ってきたが、ようやくここに来て、「日本全体のラグビーのことを将来的に考えるならば団結していかなければならない」という意識が共通のものとして芽生えてきたような気がする。
生島 大学ラグビーの価値とはどこにあると思うか?
田中 やはりそのチームのスタイルが色濃く出ることだと思う。OB・OGが全国に散らばっても母校を応援し続けるのは、そのスタイルやDNAに魅力を感じているからだ。また、日本のラグビーの強化を考えたとき、大学ラグビーには大きな責任がある。ただそれをどうやって強化につなげていくかということには課題が山積みだ。リーグワンとラグビー協会、そして大学ラグビーが三位一体になって考えていかなければならないと感じている。
学生がリーグワンでインターン出場できる仕組みを
生島 廣瀬さんは今日本代表にも関わっていらっしゃるが、ラグビーの強化という部分で、大学ラグビーにはこれからどうなってほしいとイメージしているか?
廣瀬 色んなことがあると思うが、例えば矢崎選手(由高、早稲田大2年、桐蔭学園)が日本代表に来て、イングランド戦でこてんぱんにやられて、ニュージーランド戦でも(ダミアン)マッケンジーに止められて、その経験が彼に宿ったと思うので、代表でやれるポテンシャルのある選手はどんどんやっていくと良いと思う。日本代表の舞台で何かを得て、大学に還元していくという流れは大事なことだなと思う。
生島 早めにプロの世界に入っていくという点で、やはり大学ラグビーとの一体感がこれから必要になっていくと思うが、大学の部活動との両立に関して相良監督はどうお考えか?
相良 大学ラグビーの中には、矢崎や服部(亮太、早稲田大1年、佐賀工業)のようなレベルの選手から、そうではない子もいるので、そういう高いレベルの子たちが適正な場所で伸びるチャンスを与えるのは仕組みとして必要と思う。日本代表を頂点とした強化の仕組みの中に大学ラグビーも入っていく必要があるだろう。例えば大学選手権が終わってから春シーズンまでの3カ月間は、レベルの高い選手はインターン的にリーグワンに出稽古というか、一時所属できるといったような仕組み作りというのが結構大事なのではないか。
生島 サントリーのGMでもいらっしゃる田中監督にも話を伺いたいが、リーグワンのチームと大学との連携を図っていけば強化につながると考えているか?
田中 それは考えている。実際、「アーリーエントリー」(卒業生が2月からリーグワンでプレーできる制度)で即戦力になってくれる選手もいる。学年に関係なく、例えば話にあった矢崎選手のような選手はすぐにでも活躍できると思うので、そういう仕組みがあっても良いと思う。ただ、身体が出来上がっていない選手もいるので、大学の監督を経験した立場から言えば、大事な選手を壊したくないという気持ちもあるはずだ。
大人になっていく過程が学生スポーツの魅力
生島 そこでスターが出てくればまた新しいファンの獲得につながるのかなという期待もあるが、一方で、大学ラグビーの場は教育的価値も非常に大きいと僕個人は考えている。岩出監督は教育的価値についてどう考えているか?
岩出 日本ラグビーがこれだけ多くの企業で支えられて今日があるのは、慶應義塾大学さん、早稲田大学さん、明治大学さんの先駆けて活躍された方々が、ラグビー選手としてだけでなく社会での活躍をこれまでしっかりと積み上げられてきた結果だと思っている。(一方で)先ほど田中さんからもあった通り、体力的な面の心配もある。でも、しっかりとした環境でしっかりとした教育をしてあげれば、どんどん成長していくはずだ。大学ラグビーはそのツールとしてとても大切。
生島 田中監督はチームビルディングしていく中で4年生の価値、あるいは上級生の価値というのはどう捉えていたか?
田中 今の学生は親御さんに大事にされた年代だと思うので、一人ひとり見てもらいたいという要求がすごくあるのだと思う。だから、私は試合に出ていようがいまいが選手たちとコミュニケーションをとることをすごく大事にしていた。その中で、1年生から4年生になるまでの3年間で大人になっていくプロセスを目の当たりにしてきたので、そこが学生スポーツの1番の魅力じゃないか。
「ラグビー部が社会の役に立っているか」が大事な観点
生島 廣瀬さんは、慶應ラグビー部という組織が今後どう魅力づけをしていったら良いと思うか?
廣瀬 OBになってから皆さんが活躍されているという話が出た。それはビジネス的に活躍するのも大事だが、今の世の中的には「ソーシャルインパクト」のようなもの、社会の役に立っているのかというのが大事な観点だと考えている。OBの皆さんがどれくらいソーシャルインパクトを残しているのかが見えるというのは、一OBとしても誇りにつながっていくと思うので、そういう見せ方ができるのも僕らができるユニークなところではないだろうか。競技自体にはすごく活躍できてるわけじゃないかもしれないが、社会に対してこれだけ貢献できるというのが見えたときに、慶應に入りたいと思ってもらうことにもつながる気がした。
生島 一般の学生がなかなかスタジアムに来てくれないというジレンマがある。もう少しうまく学生を巻き込んで行きたいところだ。
相良 それはうちの学生ラグビー部員たちも意識して取り組んでいるようだが、うちの大学の場合はほとんどが残念ながら(高田馬場のメーンキャンパスではなく)所沢のキャンパスに行ってる子が多いので……。例えばゼミやクラスが同じ子が試合に出てるという状態が大学全体に出てくると、そこから応援してくれる人が増えてくるんじゃないかと思う。
ラグビー界が外部とつながることが、ファン拡大に大切
生島 今までの話を伺ってみると、ラグビー部だけではソーシャルインパクトというのは競技の面だけでしか与えられないのかとも思うが、大学やあるいは地域とのつながりによってインパクトを与えるのは大事になると岩出監督は考えているか?
岩出 早明戦が人でいっぱいだった時代のファンで(現在は)先生だという方々は、その時の楽しみを知っておられるので、学生をラグビーに引っ張ってくれる人もいる。これは大事なことだ。学生の興味を引くものが今はたくさんあるから、スポーツに関心を示さない人が多いのが現状。さらにその中でラグビーに目を向けてくれる、ラグビー経験者じゃない人をこちらに引っ張ってくるのは、つながりがないと本当に難しいので、大学の先生方や我々の関係者も、学生自体もつながっていくことが大事。つながっていくことを考えていかないとこれから5年、10年ともっと危機感が高まってしまう。みんなでつながって、そしてどれだけ良いファンを我々で作っていけるかが大切だ。
生島 相良さんもやはり、部員だけでなく大学スタッフや職員の方など、そういう巻き込む力をこれからまた作っていきたいと思うか?
相良 その通りだと思う。ラグビー部がラグビーだけやってる訳ではなく、しっかり授業に出るとか、愛想良くするというのも大事だと思う。ラグビーでレギュラーを取りたいだとか、日本一を取りたいとかというのはもちろんあるが、授業に出ないと卒業もできないし、応援もしてもらえないことを考えたらそういうことも大事だ。
生島 明治大学は明大前とお茶の水、中野にも(キャンパスが)あるが、六大学野球にいくと明治の学生の観客が一番多くて、その一番の理由は「キャンパスからの(交通の)便なのでは」と考えるが、田中監督はどう考えるか?
田中 どうだろうか。明治で言えば、学生が早明戦の1カ月くらい前からチケットをキャンパスで売っていたりとか、そういう活動を実際にやって一般の学生とつながりを持つようにしている。帝京大学は学園祭でラグビー部が(来場者が)ラグビー体験(できる催し)をやられているはず。そういった小さな努力、小さな積み重ねが必要なのではないか。昔に比べると今は愛校心のようなものが薄れてきてしまっているので。
生島 岩出監督、そのラグビー体験とかは学生のアイデアでやっているのか?
岩出 そう。スクラムやラインアウトをやると結構盛り上がる。リフティングを一般の人にやってあげると結構喜んでくれる。
現役学生は、OBを巻き込んでチャレンジを
生島 「楽しい」というのは非常に重要だと思っていて、大学ラグビーには、楽しいとか、ソーシャルインパクトを持てる可能性がポテンシャルとしてあると信じている。最後に、廣瀬さんが思う大学ラグビーのそういったポテンシャルについて話していただきたい。
廣瀬 大学生は失敗しても許される。何か新しいことをやろうとして、学生だから応援しようと言ってもらえるのは学生の特権だと思っている。だから何かをしてもらうのではなく、ここで何かを作っていく、チャレンジしていくというマインドでやってもらえると、OBの皆さんもそれなら一緒にやっていこうとなってもらえるのではないだろうか。
OBにはすごい人たちがたくさんいるから、現実的にはOBに向かって何かをっていうのは難しいかもしれないが、学生のみんながやりたいとか、こうしたいというのをかなえたいというのがOBの思いだと思うので、そういう風になっていくといいと思った。
生島 つながりで巻き込む力、そこがラグビーという競技の強さなのだと思うので、危機感を皆さんと共有しながら、次世代に向けてどうしていくかというのを考える良い機会になったのではないだろうか。