全カレ初優勝の専修大学 甲斐優斗が自主練習で引き上げた、一人ひとりが強いチーム
第77回全日本バレーボール大学男子選手権大会 決勝
12月1日@船橋アリーナ(千葉)
専修大学 3-1 日本体育大学
(25-19.25-21.20-25.25-17)
※専修大は初優勝
この1本は、「俺に持って来い」ということだよな。
専修大学セッターの井出脩斗(4年、聖隷クリストファー)はエース甲斐優斗(3年、日南振徳)の意志を即座に読み取った。
勝てば初優勝が決まる日本体育大学との決勝戦。セットカウント2-0と専修大が先行して迎えた第3セットの中盤だった。逆転優勝のために攻めるだけ、とばかりに放たれる日体大の強烈なサーブにブレークを喫し、13-18と5点をリードされた場面だ。
このセットでもサービスエースを奪うなど、今大会を通じて好調を維持している日体大・山元快太(3年、仙台商業)のサーブから始まったラリー。専修大のブロックに当ててコートの後方へ飛ばそうとした打球を甲斐の右手がとらえた。
高く、決して弱くはない打球を右手だけでコントロールした。ただつなぐだけなら他の選手でもできるかもしれないが、おそらく大学レベルで余裕を持って追いつき、セッターにチャンスボールとして返せるのは甲斐しかいない。しかも、井出に言わせればそのトスは「(自分に)持って来い、と気迫を感じた」1本だった。
攻撃準備に入ったバックセンターの甲斐へ、井出が高いトスを上げ、甲斐の武器である高さを生かした一打を放った。ブロックをものともせずに打ち付けたバックアタックで14点目をもぎ取ると、甲斐は満面の笑みと大きなガッツポーズで喜びを表現した。
「あそこは自分に持ってきてほしかったし、あのプレーでまた少し、勢いが戻った。次のセットにつながるプレーになったのでよかったです」
セッター井出脩斗「1本目は優斗に上げる」
第3セットは20-25で日体大に譲ったが、第4セットは序盤に主将の竹内慶多(4年、啓新)が強打だけでなく、コート後方の空いたスペースを狙った頭脳プレーで連続得点。18-14とリードを広げた終盤には、竹内のサーブから甲斐が続けて決め、21-14。怒濤(どとう)の連続得点で突き放した専修大が、最後はブロック得点で25-17。セットカウント3-1で勝利し、全日本インカレ初制覇を成し遂げた。
試合直後のコートインタビューで「感無量です」と感慨に浸った竹内が言った。
「自分たちの代、このチームが始まった時から、絶対に優勝できると信じていました。本当に優勝することができて、まだ実感が湧かないんですけど、でも春や秋、しんどかったところからここまで持ってくることができて、本当によかったです」
繰り返すようだが、専修大には日本代表として今夏のパリオリンピックにも出場した甲斐がいる。放つスパイクなどコートでの存在感は群を抜いていて、つないで必死に粘ったラリーの最後に甲斐が決めると、会場からは歓声と感嘆の声が上がり、決められた側も「これはお手上げ」とばかりに苦笑いを浮かべるシーンを何度も見た。
確かに、甲斐はすごかった。見ている者だけでなく、そう証言するのは他ならぬチームメートたちで、トスを上げた井出も手放しで称賛する。
「僕の中で、試合の入り、1本目は優斗に上げると決めていたんです。当然相手もわかっているだろうし、勝負どころもやっぱり優斗に託す。それでも決めてくれる。僕のトスがずっと悪くても優斗は決めてくれる。こんなにすごい選手と一緒にプレーすることなんて二度とないだろうなって、試合をしながらずっと思っていました」
秋季リーグで勝てなかった二つの大きな要因
秋季リーグは甲斐がいても勝てなかった。大きな要因は二つあった。まず一つ目は、攻撃だけでなくサーブレシーブの中心も担う竹内をケガで欠いたことだ。もう一つは、井出が「考えた末に甲斐に上げる」のではなく、「とにかく困ったら甲斐に上げる」という気持ちが先行していたこと。同じ1本でも「ここは任せた」ではなく「何とかしてくれ」では、甲斐も万全の状態で打ち切ることはできない。ブロックやレシーブで阻まれ、秋季リーグは5勝6敗の7位で終えた。
全日本インカレに向け、チームをどう立て直し、つくっていくか。これまでのように甲斐に頼るだけでは、勝機を見いだすことはできない。竹内には危機感があった。
「ゲーム練習をしていても、優斗は全力で打たなくても簡単に決まる。これじゃ優斗の練習にならないし、申し訳ないなって。優斗と僕らに力の差があるのはわかっていますけど、でも俺らが成長して強くならないと絶対勝てない。全カレは4年がどれだけ頑張れるかがすべてなので、自分たちがやらなきゃいけない、って本気で思いました」
心身ともに万全の準備をして全日本インカレに入ったが、3-1で勝利した初戦の甲南大学戦は、第1セットを22-25で失った。以降3セットも27-25、25-23、27-25とすべて2点差。内容も悪く、負けてもおかしくない試合だった。翌日の大東文化大学戦に向けて不安を抱くとともに、井出は2年前の記憶もよみがえったと振り返る。
「初戦の仙台大学戦でフルセット負け。またあの時と同じ悔しさは絶対に味わいたくない、と思ったので、試合を終えてから練習しようと、そのまま直で学校に帰りました」
一つひとつの経験と一人ひとりの武器が最後に結集
チームの武器にしなければならない甲斐とのコンビも、全く合っていなかった。どう切り出そうか、と思っていたら、最初に声をかけてきたのは甲斐だった。
「練習、何時から行きます?」
驚きながらも井出は安堵(あんど)した。2人の話を聞き、他の選手たちも「俺も行くわ」と連れ立って自主練習が始まった。甲斐は切り出した理由について、こう語る。「勝ちはしたんですけど、1回も僕らに流れが来ていないし、『勝ったー!』という気持ちは全くなかった。このまま何もしないで負けたら嫌だな、と思って、井出さんに『練習行こう』って言ったんです。2年前の経験は僕も覚えているし、やっぱり全カレは特別なので。あの練習から、やっと、チームとしても一つ、違う感じで戦えるようになりました」
翌日の大東文化大戦を3-0で勝ち、3回戦は春季リーグと東日本インカレの覇者、中央大学にフルセットの末に勝利を収めた。試合を重ねるごとに強さが増し、決勝では竹内や堀内大志(3年、日南振徳)も随所で決め、勝負どころでは甲斐が圧倒。狙い通りと言うべきゲームメイクで、セッター賞を受賞した井出が言った。
「自分の頑張りじゃなく、周りで声をかけて支えてくれた人たちの存在。特に同期の藤原(龍之介、4年、不来方)は一番支えになってくれた。そういう同期、後輩、みんなの力があったからこそのセッター賞。優斗と一緒にできたことはもちろんですけど、このチームで戦って、最後に勝てたことが一番の宝です」
甲斐がいたから勝った、と侮るなかれ。一つひとつの経験と一人ひとりの武器が、最後の最後に結集した。秋季リーグ7位からの鮮やかな下克上で、〝強い専修大〟が初優勝を成し遂げた。