ラクロス

特集:駆け抜けた4years.2025

明治大学・齋藤千暖 インカレ4強に導いた主将、原点は新歓で抱いた「ワクワク感」

今シーズン自ら主将に立候補した齋藤千暖(すべて撮影・明大スポーツ新聞部)

2024年の明治大学女子ラクロス部は、MD齋藤千暖(ちはる、4年、新発田)が主将として率いた。注力してきたのはグラウンドボールやパスなど、基礎技術の強化とチーム全体の意思統一。全員が「日本一やり切った」と言えるような日々を過ごしてきた。チームは関東学生リーグ戦で準優勝を果たし、8年ぶりに全日本大学選手権(インカレ)準決勝まで進んだ。

週5回だった練習を隔週で週6回に

今年度は「PRIDE」をチームスローガンに掲げた。新体制の発足時に齋藤は「日本一になるために『24明治』で体現すること、それは誇りを持つこと。一つ一つのプレーに、自分自身に、仲間に、そしてチームに自信と誇りを持つ。全員がそれを体現できたら、絶対自分たちが日本一のチームだって胸を張って言える」と強気な言葉をブログに記した。そこで「週5回だった練習を隔週で週6回にして、徹底的に取り組んだ。基礎技術で課題が見つかると、何よりも優先して練習して変えきった」。この背景には、昨年度の関東学生リーグ戦のFINAL4(準決勝)でぶつかった立教大学との一戦、最終クオーター(Q)でパスやグラウンドボールのミスから逆転を許し、敗れた悔しさがあった。

今年度は齋藤をはじめ、前年からAチームの試合に出場していた選手も多く、個の力がそろっていた。日本代表に齋藤やMD田村葵(4年、大和)が、U-20代表にはMD竹内晴花(3年、日本女子大付)が選出された。7月7日、関東学生リーグ開幕戦の立教大戦ではこれまでにない追い上げを見せた。過去4年間黒星を喫している相手に対し、前半終了時で1-6。だが、後半に7-7と追いつき試合終了。難敵に終盤で流れをつかんだ展開は、その後の躍進を予感させた。

開幕戦は5871人の観客が来場。得点時ははじける笑顔を見せた(2番が齋藤)

8月6~10日に行われた夏合宿では「向き合う」をテーマに、個人の技術を強化した。ポジションや学年が異なる部員とペアを組み、おのおのが毎日目標を立て、課題を克服した。また齋藤と田村は、8月10、11日にあった日本代表の練習会にも参加。そこで選手主体のミーティングを重ね、齋藤は「〝代表〟というマインドをとても大事にしていた」と振り返る。93人いる部員たちにも「明治の中でも限られたメンバーしか試合に出ることができないので、『その人たちが明治の代表なんだよ』っていう思いを持ってやろう」と試合に出場する上での心構えを還元した。

入部以来、阻まれてきた「FINAL4」の壁

合宿後の学習院大学と東京農業大学には連勝を飾ったが、相手に先制されたり、前半終了時にリードを奪われたりなど、試合の立ち上がりが課題となった。そこでリーグ4戦目の明治学院大学戦は「1Qから自分たちのやりたいラクロスをする」ことを目標に立てた。「弱、中、強と、流れに乗りやすいリズムから攻撃を始めて、試合にフィットするようにプレースピードを加速させていく」。明学戦と続く早稲田大学戦では、各Qのはじめからポゼッションを握り、明大ペースでゲームを展開できた。「(早稲田大に)負けたら(1部Aブロック)3位で引退だけど、それを意識しすぎずに、目の前のワンプレーで勝つことを徹底しようと意識していた」。早稲田大に勝ったことで、1部Aブロックを無敗で首位通過。FINAL4へ駒を進めた。

勝利時はチーム全員が全身で「やったー!」と喜びを表現する

齋藤たちの世代は入部以来、FINAL4で敗退してきた。何としてでも越えたい壁だったが、試合前日には「今までできていたことが緊張でできなくなってしまっていた」と不安に襲われた。そこで井川裕之ヘッドコーチは普段通りの力を発揮してもらおうと、「関東準決勝って思うんじゃなくて、リーグ6戦目っていう風に思って。今までやってきたことよりも、ちょっと成長できていたらいいよねっていうマインドでやろう」と指示。「いつも通り」をかみ砕いたアドバイスにより、齋藤も「入りから明治のペースを作ることができた」と緊張に打ち勝った。8-5で日本体育大学に勝ち、今年度は関東上位2校に出場権が与えられるインカレへの出場を決めた。

2週間後のFINAL(1部決勝)では早稲田大との再戦だった。リーグ戦以上に徹底されたスカウティングに屈し、5-6で敗戦。「一人ひとりが考えてプレーするっていう部分がまだ足りていなかった。おのおのが『今こういう状況だったらこれがいいよね』っていう判断をして、行動できるように変えていって、全体としてもっとレベルアップして、日本一にふさわしいチームになりたい」と切り替えた。

関東FINALは早大とのリマッチ。「自分たちが予選でやったプレーをすごくケアされた」

Aチームの躍進を下支えした下級生たち

関東FINAL後、齋藤は「まだ24チームでプレーできているのは関東では(51チーム中)明治と早稲田しかなくて、まずはその幸せな状況に感謝しながら、一戦一戦をしっかり味わって、楽しみながらやりたい」と語った。取材のたびにラクロスを「楽しむ」という言葉を口にするのが印象的だ。「原点は新歓の時に抱いたワクワク感。1年時から、日々の成長や発見があって、試合でのどんな状況も、全てを味わい尽くして楽しむことを大切にして戦ってきた。年度初めに、1個人として誰よりもラクロスを楽しみ、楽しさを伝染させることを掲げた」と齋藤。誰よりもラクロスを楽しむ気持ちが、チーム全体の意識向上につながっていった。

また、ミーティングで全部員の思いを聞いていく中で「BチームやCチームの部員が『まだ終わりたくない、24明治のみんなで一番長くラクロスしたい』と言ってくれて。これは本当に終わるわけにはいかないと思った」と決意。Aチームの躍進は、同じ方向を向く下級生たちの支えがあってこそ実現できた。

グラウンドボール獲得数はチーム1位。文字通り攻守の要だ

サドンビクトリーに持ち込む同点ゴール

インカレ初戦、11月17日の福岡大学戦は、リーグ戦時よりも対人能力が上がり、サークル内に果敢にカットインしてショットを放つ攻撃が増えた。おのおのがプレーに自信をつけ、齋藤が掲げる「どこからでも得点できるオフェンス」を体現しているように感じた。

準決勝で対戦した関西学院大学は関東FINALで敗れた早稲田大と同じく、厳しいチェックと1対1での決定力が高いチームだ。また2016年にインカレ3連覇を阻まれた因縁の相手でもある。試合開始から46秒で相手のラン突破を許して先制され、ビハインドの状況も必死に食らいついた。後半はゾーンディフェンスへの切り替えが奏功し、ポゼッションの時間が増え、6-7まで追い上げた。第4Q残り4分、関学のデンジャラスチェックでFS(フリーシュート)を獲得。齋藤が確実に決めた。昨年度から続く〝4Qの明治〟らしくサドンビクトリーに持ち込んだ。副将のG野地咲良(4年、平塚江南)は「私とよくシュート練習をしていたので、後ろのゴールから見ていて、絶対決めてくれるだろうなっていう確信があった。チームの運命を背負ったシュートでも屈せず、自分を信じて決め切ったのは本当に頼もしい」と齋藤がこだわっていた練習の様子を回想しながら語った。

土壇場で齋藤がFSを決めて同点に。この1年間、大事な場面での決定力が光った

サドンビクトリーは1Qが4分と短く、先に得点した時点で勝利となる。試合が動いたのはサドン第3Q1分。関学大の強力なオフェンスを明大が2人がかりのディフェンスでボールダウン。グラウンドボールの競り合いを制した関学大のショットが、ゴールネットを揺らした。歓声と悲鳴が会場を一瞬で支配し、24明治の戦いは突然幕を閉じた。

「24明治が大好きでした」

準決勝で敗れた後、齋藤が応援席へのあいさつで「24明治が大好きでした」と発した瞬間、チーム全員が涙を流した。井川コーチは齋藤について「妥協せず、やれることやり切りたいっていう意思や誰よりも前を向く姿を常に見せていて、その姿勢をみんなが手本にしながら進めたチームだった」とたたえた。

齋藤はこの1年を「始まる時は結構それぞれの思いがバラバラで、係の仕事とか、どれ一つとっても、全体でできている感じがあまりなかった。けれど進めていくにつれて、一人ひとりが係や分析の部分だったり、自分のプレーを少しでも成長させるっていう部分だったり、みんなが日本一に向けて同じ方向へ進んでいるなっていうのがすごく伝わってきた。今日は集大成として、チーム一丸となって戦えた1日だった」と語った。

入学直後はコロナ禍で、ミーティングや練習がゼロになり、失われた基準を再構築する4年間だった。インカレ決勝は早稲田大が関学大に勝利し、関東の出場枠は来年も2枠に。齋藤らが残した新たな「当たり前」を胸に、来年こそは頂点をつかむ。

インカレをベスト4で終え「やっぱり明治がナンバーワン!」と叫ぶ選手たち

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