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中大・清水達也監督が振り返る「侍ジャパン」教え子たち、牧秀悟編「いつも輪の中心」

2024年に「日本一」を勝ち取り、横浜スタジアム内を1周する牧秀悟(撮影・有元愛美子)

2024年のプロ野球では、中央大学出身のリーダーたちが活躍した。監督就任1年目だった読売ジャイアンツの阿部慎之助監督はチームをセ・リーグ優勝に導き、横浜DeNAベイスターズの主将を担った牧秀悟は「下克上日本一」を達成。また昨秋の国際大会「プレミア12」では、牧を含む4人の中大OBが選出された。彼らはどんな学生生活を送っていたのか。中大の清水達也監督に話を聞いた。前編は牧について。

初めて見たとき、すでに広角へ飛ばせた

中央大学は2010年のプロ野球ドラフト会議で澤村拓一(千葉ロッテマリーンズ)が巨人から1位指名されて以降、コンスタントに12球団へ選手を輩出している。現在NPB球団に在籍している選手は、11人にのぼる。

昨秋の「プレミア12」では牧のほか、五十幡亮汰(北海道日本ハムファイターズ)、古賀悠斗(埼玉西武ライオンズ)、森下翔太(阪神タイガース)の4選手が野球日本代表「侍ジャパン」に選出された。外野守備・走塁コーチには巨人・亀井善行コーチの名前も。中大OBは侍ジャパンでも一大勢力だった。

2次リーグ第2戦のベネズエラ戦で勝ち越しの満塁本塁打を放つなど、牧は侍ジャパンでも存在感を見せた。大会前には、球団にとって26年ぶりの日本一にも大きく貢献。今年はプロ5年目ながら、すでに風格も十分。日本球界を代表する選手の一人に成長した。

「プレミア12」ベネズエラ戦で勝ち越しの満塁本塁打を放った(撮影・小宮健)

ただ、長野県の松本第一高校時代は、全国的に名が知られた選手ではなかった。1年春から中軸を任され、3年春は県大会で優勝を果たしたものの、2年夏と3年夏は初戦で敗退している。

清水監督が、まだ「原石」だった牧を初めて見たのは、中大のセレクションだった。当時の印象を次のように振り返る。

「学校関係者から、牧という好選手が参加すると聞いていたので、注目していたんです。一目で『これはいい選手だな』と。打撃はすでに広角に打てましたし、肩もすごく強かった。それとショートを守れるのもポイントでした。ショートができるのなら、内野はどこでも守れますからね。牧には是非来てほしいと思いました」

清水監督も中大OBで、現役時代は内野手。社会人野球の河合楽器(2001年に休部)時代は11年連続で都市対抗出場を果たし、現役引退後の1999年に中大の監督に就任した。

中大に入学する頃から、野球には光るものがあった(撮影・佐伯航平)

「素直な心」と「取捨選択する力」は大学で伸びた選手に共通

牧が入学した2017年、コーチから監督に復帰した清水監督は、そのポテンシャルにほれ込み、1年春の開幕戦からスタメンで起用した。「上級生になった時、チームの中心になってほしいという期待がありました」

しかし、この時はなかなか快音が響かなかった。中大は東都1部リーグで優勝25回を誇る伝統校。清水監督の耳にはOBから「なぜ使うのか?」という声も届いたが、ぶれることなく、先発で使い続けた。1年春は3チームが勝率で並ぶ2位タイ、秋は5位に終わり「牧も苦しかったと思います」と振り返る。

台頭したのは2年秋だ。遊撃手で初のベストナインに選ばれた。上級生となった3年春は初の首位打者を獲得した。

遊撃手として入部し、上級生になると二塁も守るようになった(撮影・佐伯航平)

「その頃、野上健という臨時コーチがいて、牧は野上の指導を受けながら、練習に取り組んでいました。右方向にも長打が打てるようになったのは、取捨選択をしつつ、素直な気持ちで野上のアドバイスを受け入れたことと、体が大きくなったことが要因だと思います」。大学で伸びた選手が共通して持ち合わせているのが、この素直さと、取捨選択する力だという。

牧には、加えてバットを振る力もあった。清水監督は打撃について「まずはバットがしっかり振れるようになってほしい」と考えている。そのための練習の一つが、腰を低く落としてのティー打撃だ。振り続ければ、次第に息が切れてくる。しかし、楽な体勢でネットに向かって打っても意味がない。自分に厳しく向き合えるかが、この練習のポイントとなる。

清水監督がこれまで指導に携わった選手の中で、最も振る力があったのは、巨人の阿部監督だという。「慎之助は1時間打ち込みをするとき、初球から最後の1球までフルスイングをしてました。愚直なまでに徹底してましたね。最近はなかなかそういう選手が見当たりません。それだけ振る力があったのでしょうね」

自主練習動画リレーが、踊りのリレーに

清水監督は当時から、牧の人間性も高く評価していた。牧が主将になった4年春のエピソードを、今でもよく覚えている。

4年春は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リーグ戦が中止になった。中大は前年秋に15年ぶりとなる優勝を果たし、牧は2季連続リーグ最多打点の活躍でMVPを受賞。連覇を狙っていたシーズンでもあった。

2019年秋の1部リーグを制し、胴上げされる清水達也監督(撮影・佐伯航平)

「感染防止のために、寮も解散しなければならなくなりまして。部員たちはそれぞれの出身地に帰り、牧も親御さんが車で迎えに来たんです。すると車が出る時、まだ寮に残っていた20人弱ほどの選手が全員、見送りに集まってきましてね。牧には人を引き寄せる魅力があって、彼の周りにはいつも人がいましたが、これは象徴的なシーンでした」

コロナ禍では、居場所がバラバラになった部員たちの心をつなごうと、清水監督はスマートフォンを使って、自主練習動画リレーを行った。それぞれが「今日はこういう練習をしました」というメッセージを入れながらつなぐ中、牧は自分の順番が来ると、突然、踊り始めたという。

「たぶん、みんなの心を和ませようとしたんでしょう。牧は、はじけることができる柔軟なところもありましたね。以降はすっかり踊りのリレーになってしまいましたが(笑)」

清水監督は中大野球部OB会の若い世代のまとめ役を、牧に託そうと思っている。「これまでは慎之助がやっていたんですが、監督という立場になりましたしね。学生の時から、いつも輪の中心にいた牧が適役かと」

牧はこの春、27歳になる。まだまだ現役選手として活躍できる年齢だが、清水監督には遠い先への期待もある。「将来的には指導者になれる。そういう人材だと思ってます」

4年では主将に。いつもチームの輪の中心にいた(撮影・佐伯航平)
【後編】中大・清水達也監督が語る「侍ジャパン」の教え子、五十幡亮汰・古賀悠斗・森下翔太編

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