大学アメフト

サイドスローのちバックペダル 甲南大1回生DB富田

リーグ戦を全敗で終え、険しい表情の富田

関西学生リーグ1、2部入れ替え戦

12月9日@京都・西京極陸上競技場
甲南大(1部8位)vs 同志社大(2部1位)

秋のリーグ戦開幕前から気になっていた。今年の甲南の14番は、どんな男かと。
去年までの甲南の14番はスーパーマンだった。いま社会人Xリーグのパナソニックでプレーしている土井康平。DB(ディフェンスバック)として2016年、17年に関西のインターセプト王に輝いた一方で、キッカーもパンターも兼任。キックオフリターンにも入っていた。まさに八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍だった。土井ら昨年の主力だった4回生がたくさん抜け、再建色の濃いチームで14番を受け継いだのは、去年の夏まで高校球児で、サイドスローで投げていた1回生だ。

その名も富田幸生。大阪・上宮太子高出身で、身長173cm、体重77kg。ポジションも土井と同じDBだ。主にパスに対するディフェンスが役目のDBの中でも、土井や富田はフィールドの端でレシーバーと対峙(たいじ)するCB(コーナーバック)。相手にマークを外され、ロングパスを捕られるのが最悪の瞬間。彼らの失敗は失点に直結し、敗因となることも多い。責任重大なポジションだ。富田はアメフト初心者なのに、いきなりこの難しいポジションで先発を任された。春から試合に出て、秋のリーグ戦を戦い抜いたが全敗。いまは入れ替え戦に向けて準備している。

秋のリーグ戦序盤はおっかなびっくりの動きが目立ったが、後半にはキレのある動きを見せ、積極的にタックルしにいった。第3節に立命、第4節に関学と戦ったのが大きかった。「それまでは地に足がついてない状態だったんですけど、この2チームとやって、イメージがわいてきたんです。QBもWRもすごくてやられましたけど、そのあとの試合ではちょっとだけ余裕を持ってやれました」。この言葉、どこかで聞いたことあるなと思ったら、近大の1回生DB田中祐大だった。彼も昨夏まで強豪の青森・八戸学院光星高で甲子園を目指していた球児だった。富田同様にいきなりCBのスターターを任され、初戦に関学、2戦目に立命と対戦して、あとが楽になったと。
田中は最初のリーグ戦で二つのインターセプトを記録。富田はゼロだったが、キックオフのリターナーとしても奮闘。リターンの平均距離は22.5ydでリーグ2位だった(1試合平均1リターン以上の選手で比較)。

キックオフリターンで走り、審判にボールを渡す富田

届かなかった甲子園

富田は奈良県出身。小学2年から白球を追ってきた。中学時代の香芝ボーイスではエースだった。中3のときに参加した奈良学園大のベースボールクリニックでは「将来はメジャーを目指せる選手になりたいです」とのコメントを残している。聖地を目指し、かつて甲子園に2度出場している上宮太子へ進んだ。高1の夏に足をけがした。3カ月後に練習に復帰して、いままでずっとやってきたように上から投げると、腕が思うように振れなくなった。「なんでやねん」。そう思いながら毎日投げてみるが、戻らない。そこで思いきって、遊びでやっていたサイドスローにしてみた。意外とうまくいった。右横手投げの投手として再出発することになった。球速のマックスは130km。110kmのシンカーと90kmのチェンジアップが持ち球だった。転向したばかりのときは、練習試合の相手が面白いように空振りしてくれるのが楽しかった。ただ練習試合で内容がよくても、エースの座は遠かった。自分たちが最上級生になったばかりの秋は大阪大会で優勝。翌年の選抜大会出場をかけて臨んだ近畿大会では準々決勝でコールド負け。吉報は届かなかった。富田は背番号11で、ほぼベンチやブルペンで戦況を見守っていた。最後の夏は背番号17。一度もマウンドに上がることなく、5回戦で負けた。夢の甲子園には届かなかった。

最後の夏の大阪大会を前に、野球部のコーチのつながりで、甲南のアメフト部から誘いが来た。1学年上の野球部の先輩も甲南でアメフトを始めていたから、そこまで抵抗はなかった。とりあえず親に相談し、「野球でそこまで成功してるかといったら、そうでもなかったんで」と、新しい競技で頑張ることにした。野球を通じて、運動神経と体力には絶対の自信を持っていたのがよりどころだった。
ただ、入学が決まって甲南大のコーチに「DBやってもらうから」と言われたときは、リアクションができなかった。DBと言われても、何のことだか分からない。練習が始まっても、何がDBとしての成功なのかも分からない。まっすぐ後ろに下がる「バックペダル」というDBとしての基本中の基本のステップ練習に明け暮れる日々。先輩の動きを見て、盗んだ。
たまに先代の14番である土井が教えに来てくれた。「土井さんは構える姿勢からかっこいい。バックペダルのスムーズさ、切り返しの速さっていう細かい部分が全然違いました。土井さんみたいに、ビッグプレーでチームを勢いづけられるDBになります」と富田。先代からもいいところを盗んで、戦ってきた。

戦前から予想されたように、甲南の今シーズンは苦しく、1部最下位で2部との入れ替え戦に回ることになった。絶対に負けられない戦いを前に、富田は言う。「何が何でも勝ちます。DBで勝ったと言えるような試合にしたいです」。大きな目を、また見開くぐらいの勢いだった。正念場の戦いは9日、相手は同志社だ。さあ、甲南の14番はどんなプレーを見せてくれるだろうか。今シーズン初のインターセプトが飛び出すのか。キックオフを受けてビッグリターンするのか。苦労が多いルーキーイヤーを過ごしてきた分、富田に幸多かれと祈りたくもなる。

WRと対峙、腰のあたりに注目する富田