陸上・駅伝

特集:第95回箱根駅伝

早大4年の意地を見せろ! 箱根こそ3位以内

4年生の活躍なしに、箱根での勝利はない

出雲で10位、全日本では関東勢で最下位の15位。早稲田大は今シーズン、エース格の永山博基(4年、鹿児島実)と太田智樹(3年、浜松日体)をけがで欠き、経験値のない1年生に頼らざる終えない状況で苦しんだ。しかし、最後の箱根を前にして相楽豊監督の顔は明るい。「正直、前回の箱根はけが人も含めてなんとかエントリーメンバー16人を決めたという状況でしたが、今回はここ何年の中でも一番、16人に絞るのが難しかったです」と言うほど、箱根を前にして選手一人ひとりの力が上がっているという。その立役者は、最後の箱根を前にして奮起した4年生だった。

このままじゃ勝てない」

12月23日に早稲田大学所沢キャンパスで開催された箱根駅伝合同取材では、最初の取材対象者に1年生を選ぶ取材陣も少なくなかった。出雲では1年生は半澤黎斗(学法石川)、中谷雄飛(佐久長聖)、太田直希(浜松日体)の3人、全日本では千明龍之佑(ちぎら、東農大二)、中谷、太田直希、半澤の4人が出場した。箱根のエントリーメンバー中、1~2年生は8人と半数を占める。相楽監督は今年の夏合宿前、チームを「1、2年生を中心としたフレッシュなチーム」と表現した。主将の清水歓太(4年、中央中教)は「事実なのでそれは仕方ないです。でも、とくに箱根は上級生の強さが試されるところだと思ってます。下級生だけの力では戦えません」と言いきる。

早稲田大のエントリーメンバーは、4年が3人、3年生が5人、2年生が3人、1年生が5人。箱根経験者は5人

清水は2年生で初めて箱根を走り、10区区間10位で早稲田大は3位。箱根を走れただけで満足だった。3年生では9区区間賞の走りで4位だった東海大に肉薄して襷(たすき)リレーをし、チームは3位になった。自分の走りができたという自負があった。しかし主将として臨んだ今シーズンは、出雲でも全日本でも目標の3位以上にはほど遠い結果となった。

全日本が終わった直後、チームとして結束できていない状況に危機感がつのり、まずは学年間から意識を変えようと週一で4年生ミーティングを重ねた。「僕たちにも4年間ともに過ごしてきた年月がありましたから、いまさら何を言ってもその絆は壊れないし、洗いざらい全部話そう、と決めました。『卒論どう? 』とか軽い話から始めて、チームのことだったり、日常生活での行動だったり、いろんな話をしてきました」と清水は振り返った。とくにマネージャーの井上翔太の発言は清水が見えていなかった視点もあり、チームのことを知るきっかけになったという。

(左から)小澤、清水、永山、3人の4年生が箱根に向け、チームを引っ張っている

11月末から12月19日まで、チームは集中練習をこなした。4年生も練習を引っ張り、ポイント練習前の動き作りでだらけている選手がいれば、きびきびと動くように声をかけて雰囲気を高めた。箱根を前にして清水は「1~2年生のフレッシュさと上級生が積み重さねてきたことがうまくかみ合えば、目標の3位以上を狙えると思ってます」と話した。希望区間に「2、5区」を挙げた理由を、清水は「目立つから」と笑いながら言ったが、本心は別にあった。「2、5区は箱根で勝負を分ける区間です。いままでそういう大事な区間を1年生に背負わせてしまっていたので、箱根では自分がしっかり走ってチームを勢いづけたいです」。主将としての意地がそこにはあった。

相楽監督自身、シーズンにおける4年生の変化がチームにいい影響を与えていると考えている。「4年生の発言の中身が変わってきましたね。初めは『こうなりましょう』という感じでしたが、『このままじゃ勝てない』などと言葉に力が入ってきました。今年の4年生はよくない意味で優しすぎたので、それで今シーズンの前半はチーム全体がほんわかしてしまった。次第に危機意識とか使命感が強くなったのか言動に変化が現れて、私もやっと戦えるチームになったと思えました」。これまでは中谷が柱を担っていたが、「上級生としての気概を見せてほしい」と、けがから復帰したばかりの永山や太田智樹に相楽監督も期待をかけている。

現状、1年の中谷がエースを担っているが、相楽監督は上級生の気概に期待している

永山は夏前にけがをし、チームが苦しんでいる中、自分の走りでチームを力づけられない状況に焦りを抱えてきた。11月から徐々に練習を再開し、最後の箱根に向けて調整を重ねている。走れなかった期間、仲間に支えられていることを強く実感した。「箱根だけを見据えてやってきたので、最後はチームのために頑張りたいです」と永山は言う。ポイント練習を経て試走をし、その後に具体的な区間を定める。「どこの区間でもいいです」という言葉の裏に、「どこの区間でも結果を出します」という意気込みを感じた。

太田智樹は前回2区を走り、今回もエースの走りが期待されているが、永山同様、けがで出雲と全日本を回避した。12月10日のエントリーメンバーの際も復帰が危ぶまれたが、ギリギリ間に合わせた。別メニューをこなしながら最終調整へと向かう。

智樹(左)と直希の太田兄弟。一見するとドライな関係にも見えたが、他人にはうかがい知れない兄弟の絆があるのだろう

太田智樹には弟の直希がおり、弟は出雲と全日本に出場している。二人は幼稚園から大学まですべて一緒。兄は「弟は弟の人生だから」と弟が早稲田大に進学する際、とくに相談は受けなかったという。弟にとって兄は「追いつけ追い越し」の存在だ。「『顔似てないね』ってよく言われます」と兄が笑う。二人ともゲームが趣味でインドア派のため、自然と一緒にプレーすることが多いそうだ。

末っ子に託された親子の夢

エントリーメンバーの4年生のうち、小澤直人(草津東)だけはこの箱根で陸上人生を終える。永山は1年生から、清水は2年生から箱根を走っていた中で、小澤自身は「1~3年生のときの自分はまったく機能してませんでした」と言う。二人が活躍している中で悔しさがあった一方で、二人以外の同期も含めて、みんなの頑張りに励まされてここまでやってこれた。自分もまわりを驚かせる走りがしたいと奮起し、今年の夏合宿での走りが評価され、出雲と全日本に出場を果たした。それでも結果に満足していない。

相楽監督が悩んで決めた16人には、ギリギリで選ばれなかった4年生がいる。いまは練習は別々になり、彼らは12月30日にある記録会が少し早いラストランとなる。「僕には選ばれなかったほかの4年生の分まで頑張らないといけない責任がありますから。どういう結果になったとしても、最後の最後までやりきります」

小澤自身、今回選ばれれば初めての箱根となる。最後の箱根にかけるのにはもう一つ、理由がある。小澤は草津東高1年生のときに国体で3000m優勝を果たした。そのままトラックに進む道もあった。それでも箱根を目指したのは、テレビで見た箱根でのエンジの活躍もそうだが、父・信一さんの存在もあったそうだ。

信一さんは日体大時代に3度箱根を走り、2年連続で優勝。直人の草津東高時代の監督でもある。母も短距離の選手だった。そんなふたりの間に生まれた小澤3兄弟は全員中・長距離ランナーだったが、箱根はいまだ誰も走っていない。「最後のチャンスだから走りたいという思いもありますが、チームの事情もありますから」と小澤。小澤が走ることになれば、家族そろって応援に来てくれるそうだ。レース後にはきっと、親子で箱根今昔語りが始まることだろう。

12月19日に集中練習を終え、箱根に向け最後の調整へ

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