ラグビー

ラグビー界のリーダー王国、桐蔭学園高 春3連覇で花園単独Vへ挑む

桐蔭学園は選抜大会の準々決勝で東福岡から10トライを奪った(撮影・斉藤健仁)

第20回全国高校選抜ラグビー大会は、今秋のワールドカップの会場の一つである埼玉・熊谷ラグビー場などで開催された。4月7日の決勝では桐蔭学園(神奈川・関東1位)が御所実業(奈良・近畿5位)を29-19で下し、史上2校目となる3連覇を達成した。桐蔭学園は準々決勝で九州王者の東福岡(福岡)を、準決勝で近畿大会優勝の京都成章(京都)をそれぞれ破っての優勝だけに、藤原秀之監督は「価値ある勝利ですね」と、誇らしげだった。

予選リーグは“苦戦”

桐蔭学園は昨年度の花園で準優勝。2連覇中の選抜大会でも、もちろん優勝候補の一角だった。だが予選リーグの段階では相手の黒沢尻工業(岩手)、尾道(広島)、大分東明(大分)がいずれも激しく前に出るディフェンスでプレッシャーをかけてきたこともあり、本調子とは言えなかった。

1年生から試合に出ているキャプテンのSO伊藤大祐(3年)は予選リーグの戦いについて、「おごりがあった。ちょっと受け身になってしまって、いいプレーができてなかったです」と振り返る。準々決勝前日の練習では、藤原監督が喝を入れる場面もあったという。

昨年度のチームは試合前日のミーティングで相手の分析に時間をかけていたが、伊藤ら3年生が主体となった話し合いで、これをやめることにした。「まだ春ですし、自分たちのことを考えて、やりたいことをシンプルにやった方が次につながる。相手ではなく自分たちにフォーカスしました」と伊藤。

準々決勝の東福岡戦のテーマは「チャレンジする」「1対1で勝つ」の二つに決めた。「3年生中心に本音で話し合った。すこし、本気の仲間になったかな」と語るSO伊藤が出色の出来を見せたこともあり、10トライの猛攻で67-21の圧勝につながった。

選抜大会3連覇を決め、喜びを爆発させる桐蔭学園の選手たち(撮影・斉藤健仁)

基本と判断力重視の藤原監督

藤原監督は日本代表のFB松島幸太朗、HO堀越康介らを送り出し、ボールを展開しつつ判断を重視するラグビーの指導に定評がある。春は毎年、パス&キャッチ、タックルなど基本スキルを徹底して練習する。選手たちも「基本スキルは将来につながるし、桐蔭学園の継続ラグビーを実現するのにも欠かせない」と、このスタイルを歓迎している。

「試合に出ている選手は大学やトップリーグ、日本代表でプレーすることになります。桐蔭学園出身の選手はどのチームにいっても基本プレーをしっかりしてほしいし、将来的にスクールなんかで教えるときも、しっかり指導してほしいですね」(藤原監督)

また大学でラグビーを続ける選手もそうでない選手もいるため、藤原監督は「選手や指導者でなくても、ドクターでも、運営する側でいい。将来、何かしらラグビーに携わってくれたらうれしい」という気持ちもある。今年から女子選手の受け入れも始めた。

試合前日に2時間の選手ミーティング

3年生が主体となり、試合前日に2時間ほどのミーティングを開くのが通例となっている。キャプテンの選出も、今季のスローンの「一心」も自分たちで話し合って決めた。チームとして「心をひとつ」に、まわりに流されず「一心不乱」に取り組む、そして練習でも試合でも「ワンプレー、ワンプレーに心を込める」という意味を込めたという。

高校生のうちからプレー中の判断力を重視し、3年生主体のミーティングを重ねるためか、桐蔭学園出身の選手は進学先の各大学でリーダーになる場合が多い。2年前は帝京大のHO堀越、慶應義塾大のLO佐藤大樹、明治大LO古川満らが桐蔭学園出身のキャプテンだった。今年も早稲田のキャプテンSH齋藤直人、慶應のキャプテンCTB栗原由太が桐蔭学園出身。トップリーグでリーダーになる選手もいて、ここまで来れば偶然ではないだろう。

数々のリーダーを育ててきた桐蔭学園の藤原監督(撮影・斉藤健仁)

さて、準決勝は京都成章の大きなFWを意識して、「低くプレーする」をテーマにした。しかし、その強力FWに手を焼いた。何とかラストプレーでSO伊藤のキックからトライを挙げ、21-20と逆転勝利。目標通りに低くプレーできなかっただけに、一つレベルを落とし、決勝のテーマは「前に出る」に落ち着いた。

決勝は0-14から逆転勝ち

決勝の相手、初優勝を狙う御所実業はモールとディフェンスに定評がある。実は桐蔭学園は御所実業とは相性が悪く、全国大会で3敗1分と未勝利だった。この決勝でも立ち上がりは接点で相手の勢いを受けてしまった。前半20分までに2トライを先制され、0-14とリードを許してしまう。

しかし、徐々に攻守にわたり前に出られるようになると、桐蔭学園ペースになってきた。例年よりFWが大きく、「敵陣22mまではボールを継続して、そこからはFWのピック(近場への持ち出し)で攻める」というプランだった。前半のラストプレー、FWの近場で連続攻撃。最後はSH亀井健人(3年)が中央にトライを挙げ、10-14で試合を折り返した。

後半、本来の継続ラグビーができるようになった桐蔭学園は4分のトライで逆転。16分にもトライして24-14と点差を広げた。相手にモールから1トライを返されるが、28分にNo.8佐藤健次(2年)が中央左にトライを決め、29-19でノーサイド。鮮やかな逆転勝利で、桐蔭学園が選抜3連覇を達成した。

選抜大会3連覇を果たし、喜ぶ桐蔭学園の選手たち(撮影・斉藤健仁)

平成最後の高校王者

主将のSO伊藤は「基本スキルを徹底したことが、継続ラグビーにつながりました。一戦ごとに『一心』で戦えた結果です。冬の花園で単独優勝して、伝説の45期(花園で東福岡と同点優勝だった2010年度のチーム)を超えたい」と意気込んだ。平成最後の高校王者となり、藤原監督は「花園で『令和』最初のチャンピオンになりたいですね」と先を見すえた。

SO伊藤は「大学でもラグビーを続けて、将来は日本代表になりたいですが、そのプロセスがいまなので、目の前の試合を一生懸命やりたい」と話した。伊藤がキャプテンを務める54期の桐蔭学園ラグビー部は、選抜3連覇を大きなステップに、花園での単独優勝に向けて邁進する。

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