サッカー

特集:第70回早慶クラシコ

早大FW加藤拓己 けがに泣いた1年を乗り越え、早慶クラシコで劇的弾

加藤(左)は高校時代から注目されていた選手だったが、大学1年生の昨シーズンはけがに泣いた(撮影・佐伯航平)

第70回早慶クラシコ

7月12日@神奈川・等々力陸上競技場
早稲田大 1-0 慶應義塾大(早大の38勝14敗18分け)

早稲田大学と慶應義塾大学によるサッカーの定期戦「早慶クラシコ」が7月12日、神奈川県の等々力陸上競技場であった。両校の意地がにじみ出た一戦は後半アディショナルタイム、早稲田が先制ゴールを奪って劇的な勝利を収めた。今回の早慶戦で10番を託され、殊勲のゴールを決めた2年生のFW加藤拓己(山梨学院)は、ホッとした表情で言った。「外池(大亮監督)さんは相当な覚悟で自分を10番に抜てきしたんだと思います。それに応えなきゃいけないという思いが強かったので、よかったです」

練習通りの形から決勝ゴール

早稲田は序盤から慶應に押された。出足の鋭い相手の守備を前に後手を踏み、何度もピンチを迎えた。両サイドや前線にボールを収めて打開を図ったが、うまくいかない。たまらず外池監督が動いた。前半38分、ベンチにいた加藤をFW中園健太郎(4年、早稲田実業)に代えて投入。「前線で起点をつくってほしい」。監督からそう言われ、加藤はピッチに立った。すれ違うとき、中園の悔しそうな表情が目に入った。「ゾノくんの分も、俺がやらないと」。そう胸に誓い、体を張って必死に戦った。

後半も勢いは慶應にあったが、早稲田にも徐々に流れがきた。すると38分、加藤に絶好のチャンスが訪れる。ゴール前でボールを受け、DFを背負いながら左足でシュート。これはゴールキーパーの正面を突いた。「トラップした時点で相手の股と左のコースが空いたので、そこで一瞬迷ってしまって、あまりいいシュートが打てませんでした」と加藤。それでもまだ、運は残っていた。

アディショナルタイムに入った。早大のMF山下雄大(1年、柏U-18)が左から送った鋭いクロスに、加藤がニアで反応。「練習からやってきた形だった」と加藤。身を投げ出しながら頭で合わせたボールが慶應のゴールに吸い込まれた。「山下がボールを持ちかえた瞬間、自分が後ろに逃げたらDFが一歩下がったんですよ。そこで前に出るというのはいつも意識してるし、相手との駆け引きがうまくできたのかなと思います」

試合後、チームの主務でもある中園から「本当にありがとう」と声をかけられた。その瞬間、加藤はしみじみと思ったそうだ。「点を取れてよかったな」

劇的な先制ゴールを決めた加藤(中央下)にチームメイトや外池監督(右上)が駆け寄った(撮影・松永早弥香)

サッカーをやめようとも思った

加藤は山梨学院高校からスポーツ推薦で早稲田に進んだ。高校時代の加藤は野性味のあふれたプレーを持ち味に年代別の代表にも選出された。言わば全国区の存在だった。しかし大学1年生の昨年、手首と足首に負ったけがの影響でまともにサッカーができず、正式な部員にもなれなかった。リハビリ生活への苦しさから「サッカーをやめて地元で働こう」と思った、とも自らのブログに打ち明けている。それほど当時の加藤は失意に満ちていた。

しかし加藤ははい上がった。励みになったのは先輩であるFW蓮川雄大(FC東京U-18)の存在だった。蓮川は昨年の4年生だが、思い残すことがあり、早稲田で5年目のシーズンを送っている。加藤は言う。

「雄大君がいなかったら、自分は腐ってたと思う。リハビリをちゃんとやらない時期もあって、そのときは怒られたし、逆にちゃんとやってるときは褒めてくれました。本当にお世話になってました。感謝の思いしかないです」

ア式蹴球部へ入部するために必要なランテストをクリアし、練習生を経て正式に入部が認められたのは、今年の5月。5月18日の駒澤大戦でリーグ戦初出場を果たし、その後のリーグ戦2試合で1ゴールずつ奪った。

今年5月に入部が認められて早々のリーグ戦で、加藤(中央)はゴールを決めた(撮影・佐伯航平)

悔しさも喜びも、雄大君とともに

早慶クラシコでも活躍する自信はあったかと問われると、加藤は「全然なかったです」と言って笑った。ここ数週間のコンディションは悪く、「メンバーに入れるか、入れないかのところにいた」という。それでも10番を与えられたのには、監督からのメッセージが込められていたと加藤は見ている。

「やらなきゃいけないよ、お前がこのチームを引っ張っていくんだよ、という気持ちの表れだったんじゃないかと思います。本当にたくさんの思いが込められた10番だったので、メンバー発表のあとすごく考えましたし、10番として何ができるかといえば、やっぱり得点してチームを勝たせること。結果として勝利に導けたというのは評価できるのかなと思います」

加藤(左)蓮川の11番のユニフォームを重ね着して表彰式に出た(撮影・佐伯航平)

表彰式では、加藤は10番のユニフォームの上に蓮川の11番のユニフォームを重ね着して臨んだ。けがでピッチに立てなかった先輩の無念さを背負って戦い、そして蓮川とともにMVPに選ばれた喜びをかみしめた。

「あまり過大評価しないでほしい」

生粋のストライカーである加藤にとって、ゴールは奪って当たり前のもの。だからこそ、現状には決して満足していない。今後の抱負を聞くと、ますます饒舌になった。

「今回の試合で決めたからいいわけではないですし、これはあくまで通過点。メディアのみなさんも含めてあまり過大評価しないでほしいかなと思います。活躍を伝えてもらうのはもちろんうれしいですけど、もっともっとやらないといけないですし、求めてほしいというのはありますね。海外のメディアのようにどんどん叩いてほしいです。自分はそうやって強くなってきたので」

失意のどん底にいた男に笑顔が戻った。1年間の出遅れはあったが、加藤は確実に前へ進んでいる。

加藤(手前右)は生粋のストライカーだ(撮影・松永早弥香)

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