済美・山口直哉 不思議とキツさを感じなかった甲子園のマウンド
夏の甲子園で連日熱戦が繰り広げられています。4years.は特集「僕らの甲子園~100回大会の記憶」を選手権期間中に随時お届けしています。第9回は済美高(愛媛)のエースとして準決勝進出を果たし、いまは京都産業大でプレーする山口直哉です。
大阪桐蔭相手に投げるのは楽しかった
5試合で607球。昨夏の甲子園で、済美のエース山口が投じた球数である。準々決勝の報徳学園(東兵庫)戦以外は完投だった。準決勝で春夏連覇を果たすことになる大阪桐蔭(北大阪)に敗れたが、最後まで強打線に立ち向かったマウンドを振り返ってもらうと「楽しかったです」と涼しげな表情で言った。「大阪桐蔭の選手は体が大きくて、ノックを見ててもプロ野球選手みたいで、対戦したチームの中では別格でした。そんなチームを相手に投げられるのは、本当に楽しかったんです」
昨夏は気温が35度を超える酷暑の中でのマウンドが続いた。ましてやひとりで投げ続けていた身長171cm、体重64kgと小さな山口にとっては、想像を絶するほどのひどい疲労が蓄積していただろう。「確かにキツいな、というのはありました。でも、僕らには“済美スーパーサーキット”という何十種類ものトレーニングがあって、タイム切りのメニューがあるんです。そういうキツい練習をみんなで乗り越えてきたので、しんどい展開でもみんなで乗り切ろうという一体感が常にありました」
酸素カプセルと酵素浴で次戦に備えた
昨夏の愛媛大会はノーシードからの出発で、決して前評判も高くはなかった。「一つひとつ勝っていこう、とみんなで言い合ってました」。そこからはい上がって2年連続の甲子園切符をつかめたのだから、チームには確かな底力があった。
おととしの夏に続き、昨夏の甲子園の初戦も大会初日だった。しかも、夏はエースとしてマウンドに立つことになった。「試合の前の夜はなかなか眠れなくて。前の年と同じ2試合目でしたけど、楽しみの方が大きかったです」。昨春の選抜大会出場の中央学院(西千葉)との接戦をものにし、次は伝説となった星稜(石川)戦。1回にいきなり5点を奪われた。「5点も取られたことで、反対に開き直って投げることができました」。余計な力が抜けて、相手に凡打の山を築かせた。すると味方の打線が次第に活気づく。6点を追う8回に一挙8点を奪って逆転。延長戦にもつれこみ、13回からタイブレークに。先に2点を失ったが、その裏、済美の矢野功一郎に大会史上初の逆転サヨナラ満塁ホームランが飛び出した。
激戦の裏で山口は、試合が終わるごとに酸素カプセルに入ったり、酵素浴で体を芯から温めたりして次戦に臨んでいた。「勝ち進むごとに疲労はありましたけど、甲子園のマウンドは、そこに立つと不思議とキツさを感じなくなるんです。終わったらドッと疲れはくるんですけど、いま思うと、あんな暑い中でよく投げたなって思います」
甲子園で勝った4試合はすべて2点差以内だった。接戦に接戦を重ねた結果のベスト4。「厳しい練習を一緒に乗り越えてきたチームメイトがいたから、ここまで来られました」と山口は言う。ちなみに秋の国体も大阪桐蔭に敗れてたが「ほんとにに強かったので『大阪桐蔭なら負けても仕方ない』って思いますね」と、屈託のない笑顔で明かした。
京産大で磨く投球術
山口が進学した京都産業大は多くの好投手を送り出す大学のひとつでもあり、プロでもプレーしたOBの光原逸裕コーチの指導のもと、鍛錬を重ねている。「145km以上出るピッチャーがたくさんいて、レベルが高いです。でも、自分は高校でもレベルの高いバッターとはたくさん対戦させてもらったので、抑える術はある程度頭にあります。そのあたりを踏まえて、大学ではさらにいいバッターがいるので、もっと投球術を磨きたいです」と意気込む。
オープン戦では数イニング投げたが、リーグ戦は「まだまだ先です」と山口。スピードはアップしたが、コントロールが課題だという。「そのためには下半身をもっと安定させて、早くリーグ戦で投げられるようになりたいです」
両手にあふれそうな昨夏の経験を武器に、大学野球の舞台でも躍動する。