大学ラグビー

早稲田ラグビー 1番に活路求めたプロップ久保優、11季ぶり大学王者のキーマン

右プロップから左プロップに転向した久保(すべて撮影・谷本結利)

関東大学ラグビー対抗戦Aグループ

8月31日@長野・菅平サニアパーク
早稲田大(1勝) 68-10 日本体育大(1敗)

いよいよ関東大学ラグビーが開幕した。今年はワールドカップが9月20日から11月2日まで日本各地であり、その間はリーグ戦が中断する。そのため関東大学対抗戦、リーグ戦ともに例年より早く8月31日、9月1日の両日、長野・菅平高原にあるサニアパークで8試合の公式戦があった。

FWが前に出て今シーズン初戦に圧勝

8月31日、最初の試合が昨年、対抗戦で8年ぶりに優勝(帝京大と同時優勝)した早稲田大と日本体育大の試合だった。早稲田は相手に先制トライを許したが、夏合宿で練習してきたスクラムは安定し、ラインアウトからのモールで強さを示して、前半18分にHO森島大智(4年、早稲田実)がトライを挙げて14-10と逆転に成功。

FWが前に出られれば、大学屈指のタレントがそろう早稲田のBKが躍動。前半だけでSO岸岡智樹(4年、東海大仰星)の2トライを含む5トライを挙げて35-10とリードして折り返す。後半は一方的な展開となり、さらに5トライを重ねて68-10で勝った。

快勝スタートの中で、初めて早稲田のエンジ色のジャージーの1番を背負って対抗戦のグラウンドに立ったのが、左PR(プロップ)の久保優(すぐる、3年、筑紫)だった。「スクラムは合宿で継続して練習していたので、うまく組めました」と言って笑った。

久保は機動力アップも課題としている

実は、久保は2年前のルーキーイヤーから、3番の右PRとして対抗戦7試合、大学選手権1試合の計8試合に先発出場を果たした。しかし、昨シーズンは腰を痛めて秋以降の公式戦出場はゼロ。超高校級のルーキーだった右PR小林賢太(2年、東福岡)の台頭もあった。

スタンドから試合を見ていた久保は「右PRだとポジション争いが激しい」と感じ、コーチ陣に言われる前に、自ら3番から1番へのコンバートを申し出た。昨年度の1番は4年生らが中心。層が薄くなるのが分かっていて、チームバランスを考慮しての判断だった。

まったく違う左プロップと右プロップ

兄の影響で4歳から福岡の太宰府少年ラグビースクールで競技を始めた久保は、小さいころからFW一筋でプレーしてきた。ただ3番として、高校2年生のときは花園にも出場、高校日本代表にも選出されていた。あこがれの選手は早稲田の先輩で元日本代表PRの畠山健介だ。未練も愛着もあるポジションだったが、「大学卒業後もラグビーを続けたいから、試合に出てアピールしたい」という強い思いから、3番から1番への転向を決断した。

PRの3番から1番へのコンバートは、さほど難しく聞こえないかもしれない。しかし実際には3番は相手と両肩を組めるが、1番は右肩しか組めない。まるで違うのだ。久保は転向した当初、姿勢が定まらず、低さを意識するあまり前に出ることができなかった。そのため春季大会でスクラムを強豪相手に押されてしまい、ときには崩してペナルティーを重ねてしまった。明らかにスクラムは早稲田のウィークポイントに見えた。

主将の齋藤(中央右上)らBK陣はタレントぞろい。勝ちきれるかどうかはFW次第だ

それでも今年の早稲田は主将のSH齋藤直人(4年、桐蔭学園)、SO岸岡のハーフ団や、CTB中野将伍(4年、東筑)、WTB桑山淳生(4年、鹿児島実)といった4年生を中心に、U20日本代表歴のあるWTB古賀由教(3年、東福岡)、CTB/WTB長田智希(2年、東海大仰星)、WTB/FB河瀬諒介(2年、東海大仰星)とタレントがそろう。

早稲田のFW陣も、十分すぎるほどそれは分かっており、久保も「BKを生かすためにも、FWはスクラムで頑張らないといけない」と感じていた。またコーチ陣や副将のFL幸重天(たかし、4年、大分舞鶴)からも「夏は自分たちFWが変わらないと早稲田は日本一になれない」と言われ、久保の気持ちにも変化があったという。全体練習やウェイトトレーニング終了後も、グラウンドを見ると、久保がひとりでできるスクラム練習を重ねている姿があった。

FWコーチの権丈太郎氏は「(久保は)今年から1番を始めて、春は本人は苦労して悔しい思いをしたと思います。ただ、春シーズンが終わって、この1~2カ月、一番FWで頑張った選手です」とたたえた。佐藤友重スクラムコーチも「1番は姿勢をとるのが難しいんですが、(夏合宿の)帝京大戦も、ある程度勝負できました。久保はFW第一列で一番伸びた選手です。間違いなくもっと伸びます」と期待を寄せた。

こうして人知れず努力を続けた成果がやっと形となって現れたのが、1番として初めて対抗戦に出場した日体大戦だったというわけだ。

久保はけがとポジション変更を経て、対抗戦の舞台に戻ってきた

1番らしい機動力を身につける

ただ、もちろんまだまだ課題はある。相良南海夫監督は「スクラムは相手が変われば間合いも変わってくる。ゲームを重ねる中で引き出しを増やしてほしい」と言えば、久保本人も3番から1番になったことで「もっと動けるようにならないといけない」と、1番らしい機動力をつけるため、スクラム強化と合わせてフィットネス強化にも精を出している。

中学まではあまり、テレビでラグビーを見ることはなかった。高校に入って、四つ上の先輩で、大学時代は早稲田のキャプテンも務めたLO桑野詠真(現・ヤマハ発動機ジュビロ)の姿を見てあこがれ、久保は「早稲田に行きたいと強く思うようになりました」と語る。

1年生からレギュラーを獲得し、久保の大学ラグビー生活は順風満帆かと思われた。しかし、けがとポジション転向を経て、再び、3年生になって対抗戦の舞台に戻ってきた。今年のシーズンは始まったばかりだが、もし早稲田が対抗戦だけでなく、11シーズンぶりの大学王者に立つことになるのであれば、そこには必ず1番を背負って体を張る久保の姿があるはずだ。

この記事をシェア

in Additionあわせて読みたい

Their Stories大学別・競技別に読む