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連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

特集:第50回明治神宮野球大会

慶應の不動のセカンド小原和樹 野球の魅力を体現する男のラストゲーム

スタンドに笑顔を見せる小原くん(左から2番め、すべて撮影・佐伯航平)
東海大・串畑勇誠 熱き男の悔し涙、来年は先輩の分までやって日本一を!

秋の大学野球日本一を決める明治神宮大会は、慶應義塾大の19年ぶりの優勝で幕を閉じました。4years.野球応援団長の笠川真一朗さんが神宮大会を観戦して取材し、独特の視点からつづるコラムの最終回は、この大会を最後に野球人生にピリオドを打つ慶應の4年生、不動のセカンド小原(おばら)和樹(盛岡三)に注目しました。

ミスから奮起、3年春にレギュラー獲得

「やりきりました!」。優勝後の取材で、小原君は笑顔で言いきりました。こうして胸を張って野球を引退できる選手はいったいどれだけいるのでしょうか。

「兄と一緒に野球をやりたかった」と、3歳上の兄である大樹さん(慶応義塾大~日本製紙石巻)の背中を追い、慶應の硬式野球部の門を叩いた小原君。1年生の春から出場機会を得て、3年生の春からセカンドとしてレギュラーの座をつかみました。それまでには苦労もありました。「2年生の秋の試合でゴロを2回トンネルしてしまい、試合に使われなくなりました」。失意の底にある小原君の背中を押してくれたのは、今シーズン限りで退任する大久保秀昭監督でした。「悔しかったら、もっと努力しないといけないな。同じ学年の選手を見てみろ。相当、努力してるぞ」と、ハッパをかけられたそうです。

とにかく努力。そして3年の春にレギュラーをつかみます

小原君のハートに火がつきました。「それからは自分で考えた守備の基礎練習の時間を、より一層増やしました。守備に関しては大学生の中でも一番練習したと言いきれるほどやりました」。ひたすら練習に打ち込むことで、堅実な守りと自信を手にしました。それが3年生の春のレギュラー獲得につながったのです。

大きな魅力を感じさせる存在感

元気に明るく、泥臭く堅実な守備でチームを幾度となく救ってきました。この秋のリーグ戦では守備で得た自信をバッティングにもつなげました。主将で首位打者に輝いた郡司裕也君(中日4位、4年、仙台育英)の3割9分4厘に次ぐリーグ2位の3割5分の打率を残し、チームのリーグ優勝に大きく貢献しました。守りでは「自信を持ってやれるところまでこられました」と言う小原君ですが、バッティングではなかなかいい結果を出せず、チームに貢献できなかったと振り返ります。

春のリーグ戦が終わり、大久保監督に声をかけられたそうです。「お前がリーグ戦で3割打ったらチームは絶対に優勝できる」。この言葉で小原君は燃えました。そして臨んだ最後のリーグ戦で、小原君は自己最高の打撃成績を残し、チームの優勝に大きく貢献。明治神宮大会の出場権を手にしました。そして学生最後の大会でも見事に優勝して、有終の美を飾りました。

小原君のプレーはもちろんですが、それよりも立ち振る舞いや存在感の部分に大きな魅力を感じました。

とくに印象に残ったのが決勝です。第1打席で二遊間にゴロを打ち、ヘッドスライディングを試みましたが、アウトになった打席です。アウトになったあと「足が遅〜い!」と笑って叫びながらベンチに戻っていきました。試合に出ながら元気にチームを励ます立派なムードメーカー。その姿をカッコよく思いました。

どんなときでも笑顔。チームのムードメーカーにもなっているようでした

こういったことも、すごく大切だと感じます。日本一を決める試合だけに硬くなってしまいそうですが、小原君の姿を見て安心しました。元気な選手はチームにいい安堵(あんど)感をもたらします。後輩からも慕われる小原君の魅力がひしひしと伝わる瞬間でした。

野球人生最後の全国大会決勝。誰よりも多く打球が飛んできたのが小原君のところでした。決勝に出ている選手の中で、最も元気な男のところに転がった6個のゴロ。導かれているかのようでした。一つひとつ丁寧にさばく姿を見ていると、僕もすごく熱くなりました。ここにたどり着くまでに、幾度となく苦労してきたんだろうなと思ったのです。

あふれ出る監督への感謝

優勝が決まったあと、小原くんに話を聞かせてもらいました。率直な気持ちを聞くと「日本一を目指してやってきたのでうれしいですね!」と、まぶしい笑顔でハキハキと語ってくれました。話を聞いていても幸せな気持ちになるくらい、まぶしい笑顔でした。

何度も背中を押してくれた大久保監督について聞いてみると、「お父さんみたいな存在です。私生活からしっかり見てくれていました。4年間、野球をする以前に、人としてどうあるべきか。人として大切なことをたくさん学ばせてもらいました。本当に感謝しています。慶應に来てよかった」と語る表情に、感謝の思いがあふれ出ていました。初戦のあとに1番打者の中村健人君(4年、中京大中京)にも話を聞きましたが、やはり大久保監督にものすごく感謝しているのが分かりました。

慶應の選手たちからは大久保監督への感謝の気持ちがどんどんあふれ出てきます。野球のみならず、人としての生き方を教わり、立派にこの4年間で成長して卒業していくんだと思います。選手と監督の絆が強いチームはやっぱり強いんだなと実感しました。もう一度人生をやり直せるなら、僕は大久保監督のいる慶應で野球をやりたいと思うほどでした。

元気に泥臭くやって、チームを前向きに

そして僕が小原君にずっと聞きたかったことをぶつけてみました。純粋に気になっていた「なんでずっと元気なの?」です。「野球は失敗が多いスポーツです。人間だから一喜一憂してしまうこともあります。だからこそ僕の場合は元気に泥臭くやることでチームの空気をいい方向に変えたかった。活気づけて温かい雰囲気を作る。僕はしらけてたら絶対ダメなんです。だから『声』とか『うるささ』にはこだわりを持ってやってきました。ヘッドスライディングもそうで、声やプレーでみんなにそれを伝えてました」。真剣な眼差しで答えてくれました。小原君は卒業後はテレビ局のアナウンサーになります。彼にぴったりな職業だと、素直に思いました。

チームのみんながいたからこそ、ここまでがんばれたと語ります

野球の道はここで終わりますが、だからこそ抱いた気持ちもありました。「野球を続ける続けない。どちらにしても、負けないぞという気持ちはずっと持ってやってました。同期の活躍に負けたくない。それも頑張れる一つの理由でした」。チームのみんなに刺激をもらって頑張れたと語ります。

今後どういった社会人になりたいかを尋ねてみると「野球で学んだことは数え切れないくらいあります。だからこそ『人として認められる』存在になりたいです。そのためには人の見ていないところでどれだけ努力を積み重ねられるか。どれだけ頑張れるか。そういう部分をこれからも大切にしていきたいです」。野球人らしく熱い思いを口にしてくれました。

やればやるほど、野球は楽しい

そして彼には夢があります。「もちろん野球の実況もしたいです。スポーツの魅力は技術や結果だけじゃない。プレーヤーがそこまでたどり着く過程の部分が最も大切なんです。僕自身もレギュラーを取るのにすごく苦労しました。過程の大切さを知っているからこそ、その部分をしっかり伝えていきます! 自分の仕事を通してスポーツ界を盛り上げていきたいです!」と語ってくれました。小原君だったら絶対に大丈夫です。僕はそう思います。無責任かもしれませんが、この子なら大丈夫。そう思えて仕方がないのです。それくらい立派な競技生活を送ったプレーヤーだからです。

野球から離れるからこそ、野球に対するすべての思いをこの秋にぶつけたのだと思います。これから大学野球に携わる人たちに何を伝えたいか尋ねてみました。「僕が言えるのは結局、最後は気持ちだということです!どれだけ貪欲にやれるか。何をするにしても最後はそこです。うまくなるために、勝つために練習するのは楽しい。そして成長できると自信につながってどんどん楽しくなってくる。やればやるほど野球は楽しいです!」。どこまでも前向きなメッセージをもらいました。元気に泥臭く、日々努力を積み重ね、しっかりと成果を出した小原君。だからこそ、その言葉には説得力があると感じました。

彼には野球の魅力そのものが詰まっている。そう感じさせられました!

以前、ドラフト会議の日のコラムにも書かせていただきました。野球だけが人生じゃないけど、野球だけが教えてくれることもあります。小原君も野球に生かされ、野球に育てられた一人です。そして野球に対する熱い思いを抱いて、社会という大きな世界に飛び込みます。野球をやっててよかった、野球を好きでよかった、その大きな価値には、野球人生を終えた先に待ってる人生で立派に頑張ることで改めて気づけます。

小原君の話を聞いていると、野球の魅力そのものがぎっしりと詰まったカッコいい人間だと感じました。僕も世の中に何かを発信している者として改めて頑張らないといけないな、と刺激と勇気をもらいました。

小原くん、本当にありがとう!
そして優勝おめでとう!
野球人生、お疲れ様でした!
これからもお互いの人生で野球の底力を見せていきましょう!

第50回明治神宮大会で大学生への取材を通じ、改めて野球の魅力に気づきました。どんどん野球を好きになっていきます。全国には野球を頑張っている大学生がたくさんいます。日々、自分の個性を伸ばし、自分の課題と向き合いながら競技に打ち込んでいます。当たり前のようで当たり前じゃない、いまという時間を大切に頑張っていたら、将来絶対にいいことがあると信じ込んで、これからも頑張ってほしいと思います! 応援しています!
そして僕はもう大人ですから、大学生の2倍は頑張るぞという意気込みです!
熱くさせてくれた明治神宮大会に感謝しています!

今大会もコラムを読んでくださった皆様、取材を受けてくださった選手の方々、本当にありがとうございました!
今後もよろしくお願いします!

高卒で単身渡米、勇気に満ちた平安野球部の先輩 アスレチックトレーナー・中田史弥さん

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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