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特集:第71回全日本大学バスケ選手権

大東文化大の大黒柱モッチ・ラミン 「みんなのモッチ」は陽気で、優しくて、強い

モッチは身長202cm、体重108kgという規格外の体格で躍動する(すべて撮影・青木美帆)

バスケットボールの全日本大学選手権(インカレ)が12月9日から15日まで、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で開かれます。4years.の注目選手を紹介していきます。

はちきれんばかりに盛り上がった上半身の筋肉。小さな顔。大きな口。大東文化大のモッチ・ラミン(4年、桜丘)を見ていると、なぜか恐竜が頭に浮かぶ。しかし、その恐竜は心優しく、陽気で、強い。

大東大バスケ、創部51年目で初の関東リーグ制覇 スター選手に頼らない強さ

過酷なトレーニング、日本語も猛勉強

モッチはアフリカ大陸の最西端にあるセネガル出身の留学生。身長202cm、体重108kgという規格外の体格でゴール下に陣取り、攻守両面で決定的な役割を果たす。大学の男子バスケ界では、モッチのほかにもアフリカ出身の留学生たちがあちこちのチームにいる。それぞれがインサイドを中心に躍動しているが、彼の存在感は群を抜いている。

その理由はコート上での立ち居振る舞いにある。寡黙で表情を崩さずプレーする留学生が多い中、モッチは下級生のころからチームの誰よりもしゃべり、怒り、悔しがり、笑う。大東大の西尾吉弘ヘッドコーチ(HC)は言う。「彼は賢いんです。英語もフランス語も話せますし、自信がある。だからどんどんコミュニケーションをとっていけるんだと思います」

セネガル出身のモッチは、英語もフランス語も、そして日本語も流ちょうに使いこなす

7歳でバスケを始め、高校進学のタイミングで来日。日本は英語教育がしっかりしていると聞いていたが、予想以上にコミュニケーションがとれず、もどかしい思いをした。しかし、モッチはめげなかった。ボディランゲージを駆使して意思疎通をはかりつつ、日本語学校で猛勉強に励んだ。流ちょうな日本語をほめると、「そう? 俺、やる気あったからさ」と、こともなげに返した。彼の自信の強さは、積み上げてきた努力の大きさに比例しているのだろう。過酷なトレーニングと向き合い、体重を入学時から8kg増やしたことも同様だ。

卓越したコミュニケーション能力

自分のチームはもちろん、ほかのチームの留学生たちの面倒もよく見るという。食事に誘ったり、悩みごとを聞いたり、日本や関東の大学への進学を検討している“後輩”たちにアドバイスを送ったり。その対象はセネガル出身者に限らない。「俺は留学生たちのブラザー。みんなのモッチだから」

このコミュニケーション力は、初優勝した秋のリーグ戦でもいかんなく発揮された。チームは黒星スタートとなってしまった。危機感を覚えたモッチは主力メンバーを食事に誘い、意見を言い合った。この集まりは週に1~2回開かれ、チームのこと、相手のこと、練習のことをざっくばらんに語り合った。「言いたいことがあれば誰にでも言うし、俺も『もっとこうしてほしい』と言われたら、ちゃんと聞く。モッチのためじゃないし、(主将の)ヒロム(中村浩陸=4年、中部大第一)のためでもない。全部チームのため。みんな同じ目標でやってるから」とモッチは言い、「本当にもう、すごくいいチームだな」と感慨深げに続けた。

予定外のファールをしてしまい、悔しがるモッチ(15番)

「いつも話して何をしたいか分かってるから、試合中に改めて話すことはほとんどない」。そう言えるほど高いレベルで意思疎通をはかり続けた結果、大東大はライバル校と一線を画すほど高い完成度を誇るチームに成長した。モッチもゴール下で奮闘し、得点ランキングとリバウンドランキングで2位につけ、リーグ戦のMVPに輝いた。ハーフタイムには仲間たちを集めて円陣を組み、コート内でも「がんばれ! がんばれ! 」と声をかけ続けた。

西尾HCはモッチの功績をこう表現する。「練習に対する真面目さ、一生懸命さ、ファイトする姿勢など、モッチは入学したときから頭一つ抜けたものを持ってました。そして4年間を通して、チームにその姿勢を浸透させてくれました。プレーだけでも助かってますけど、彼のそういったアクションがあったからこそ、チームがここまで成長できたんだと思います」

「俺が0点でもチームが勝てばいい」

モッチが入学したとき、大東大は2部のチームだった。2年生の秋に1部に昇格すると、その勢いのままインカレで悲願の初優勝を達成。翌年のインカレも当たり前のように連覇を狙ったが、まさかの2回戦敗退。1試合20得点が当たり前のモッチも13点にとどまり、「3日くらい部屋を出なかった」というほど落ち込んだ。

インカレは一発勝負のトーナメント戦。それを一気に駆け上がる快感も、志を一気に絶たれる絶望感も、モッチはよく知っている。「今年は絶対そうならないようにしないと」。表情を引き締め「俺が0点でもチームが勝てばいい。できる限りチームのために戦いたい」と、学生最後の大一番を見すえている。

攻守の柱となるモッチは常に徹底マークされている

大東文化大の生命線がモッチにあることを、対戦相手たちは嫌というほど分かっている。彼へのマークは年々熾烈(しれつ)になり、反則ギリギリのラインでの“削り”もごく当たり前に受けている。「フラストレーションと折り合いをつけるのも大変でしょう? 」と水を向けると、「まあね」と認めつつ、続けた。

「でも、男の戦いだからさ」

大学バスケ界きっての強くて優しい戦士のラストゲーム。ぜひ多くの人に見てもらいたい。

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