陸上・駅伝

東京国際大・大志田監督 初の3大駅伝出場にあたって感じる「目標」の大切さ

練習中、選手の走りを真剣に見つめる大志田監督(すべて撮影・佐伯航平)

昨年度、学生駅伝で過去最高の成績を残し、大いに注目を集めた東京国際大学。2020年度は初めて学生3大駅伝すべてに出場する年となる。しかしコロナ禍で大会の中止や延期も相次ぎ、大学の部活動もストップ。6月からようやくグラウンドで全体練習を開始した。チームの今を大志田秀次駅伝部監督(58)に聞いた。

3大駅伝フル出場を見すえ、1月から強化に着手

箱根駅伝を過去最高の5位でフィニッシュし、東京国際大として念願のシード権を獲得した1月。これにより出雲駅伝の出場権(箱根駅伝上位10校に与えられる)を得て、3大駅伝すべてに出場することとなった。さらに飛躍する年に。東京国際大は留学生も多いため、12月で学期が終了する。そのため、箱根後に1週間選手に休養を取らせ、その後すぐに強化に着手した。

2月は2チームにわかれ、伊豆大島、徳之島、熊本などで合宿。今年は3月の学生ハーフマラソンには出場せず、「鍛錬期」と位置づけトラックシーズンへの力をつける予定だった。「2月・3月を7月・8月と同様に想定しました。1年のうち、2つのシーズンにはっきり分けて、レースなどで『相手と競る』というよりも、トラックシーズンに向けての戦い方を明確にしようと思っていました」と大志田監督。

前例のないコロナ禍への対応と見えてきたもの

しかし4月7日に緊急事態宣言が発令。全体練習はストップになった。学業、練習など「今、なにをしなければいけないか」ということを明確にし、その後寮にとどまる者、帰省する者、それぞれにわかれた。

前例のない事態に直面し、チーム内でも戸惑いがひろがったという

「初めて『生命の危機』というものに直面し、『死ぬかもしれない』という思いも選手や我々の中にありました。コロナという目に見えないものに対する世界、日本の反応や対応を見て、今我々がなにをしないといけないのか、これが正しいことなのか、というのを常に考えていましたね」

感染者が出た場合の対応を決め、連絡網を作るとともに、埼玉県内のどの地域で感染者が出ているのかを細かく確認。寮のある地域では感染者が出ていないことを確認し、外出自粛や公共交通機関を利用しない、食事の時間も他の部活とずらすなど、取るべき対策を徹底した。

緊急事態宣言が発令されている間は、選手が「自分たちで考えて時間、メニューを決めさせてください」と言ってきた。それまでも自主性や主体性を大事にする指導をしてきた大志田監督は、「お前たちがいいんであれば」と様子を見ることにした。その中でいろいろなことが見えてきたという。

前期一番の目標であった関東インカレの5月開催が中止になるなど、選手たちが目の前の戦う目標を見失って進むべき方向がぼんやりしてしまった、とも振り返る。「練習も選手たちに任せましたが、『ピンチはチャンス』と言ったものの、ピンチに甘えているようなところもありました。やらなきゃいけないことをやっていなかったりとか……。もう少し指導を工夫しないといけないなとも感じました。やはり(全体練習のできなかった)40日間のブランクは大きかったですね」

練習中も選手、マネージャーに声をかける場面が多かった。どの選手に聞いても「話をすごく聞いてくれる」という

すでに3大駅伝の出場権を得ていることで、「予選会がなくても箱根に出られる」「10月11日(出雲駅伝)に間に合えばいい」と捉えている選手もいるのでは、と感じることもある。「(90年代に)中央大を指導していた時にも、『中大にいれば箱根駅伝に出られる』という選手と、『中大に入ったからこそ優勝したい』という選手に分かれていました。前者はいいところまでいくんですが、最後の惜しいところでこぼれてしまったりするんです」。目標設定や思いは結果に影響する。だから今でも選手に対して、「思いはしっかり持たせないといけない」と思っているという。

初めて出てきた「優勝」の目標

今年は出雲駅伝初出場初優勝、全日本大学駅伝・箱根駅伝3位以上と、今までで最高の目標を掲げている。特に出雲駅伝初出場初優勝が目をひく。

「出雲に関しては初めて出るので、出る以上はしっかり目標を置こう、と選手に話したらこれが出てきました。1つの大会で優勝を目指す、というのが選手の口から出るようになってきたんだなと。彼らが『優勝を目指すチームに変えていきたい』と思っていることは大きいですね」

今年の箱根駅伝で1区を走った丹所。エースとして期待されている

優勝や上位の目標を掲げることは、4年前には監督を含め、誰一人想像もできていなかった。「最初はとにかく(箱根駅伝に)出られればいい、というチームでした。(箱根駅伝初出場から)5年経って、次の課題を選手たちが見つけてきてくれているなと感じます」。目の前だけではなく、来年、再来年の段階も見すえて想像できるようになってきたのではないかと口にする。

その一方で、高い目標を掲げることで、戦う上で「ミスができない」という。「去年は予選会トップ通過、箱根駅伝8位以内など、ある程度つかみとれるような目標でした。今年はもうちょっと頑張らないと到達しないよ、ということは選手たちにも言っています」

選手とチームを作り込んでいくのが楽しみ

昨年は大エースに成長した伊藤達彦(現・ホンダ)を擁し、大きなインパクトを見せつけた。伊藤をはじめとして主力となっていた4年生が卒業した今年、どう戦っていくのだろうか。

まずはイェゴン・ヴィンセント(2年、チュビルベレク)、ルカ・ムセンビ(2年、仙台育英)という2人の強力な留学生が鍵となると大志田監督は言う。「留学生に(襷を)渡すまでにどんな戦い方をするのか。今は留学生頼みになってしまいますが、今後、優勝を目指すチームとしてしっかり戦い方を考えていきたいですね」

ヴィンセント(手前)、ルカの2人の留学生は大きな戦力だ

他にも、3年生の芳賀宏太郎(学法石川)、2年生の丹所健(湘南工科大附)、山谷昌也(水城)やルーキーの麓逸希(開新)、川畑昇大(のりひろ、須磨学園)などの名前を上げた。特に麓は、先日のホクレン・ディスタンスチャレンジ士別大会で5000m14分10秒29の自己ベストで走るなど、着実に力をつけている。

ここに、4年生がうまく絡んでくれれば、と話す。特にこの状況で就職活動もままならず、競技とこの先の進路に悩む学生たちを気遣う。「最近ではやっと内定が出たりなど、安心した顔が多くなってきたなと思います」と表情を和らげる。主将の中島哲平(4年、水城)については「頂点を目指す」と宣言したことで自身の行動にもプレッシャーがかかり、もがき苦しむと思うが、それを乗り越えて最後に笑顔を見せてほしいと期待する。

ルーキーの麓は練習で引っ張ることもあり、すでに強さを見せている

大志田監督自身もいろんなことで不安を感じたり、この先どうなるんだろうと思ったりすることもある、とは言う。だが全体練習もできるようになり1カ月経ち、徐々に選手たちの走力も戻ってきた。8月の夏合宿に向けてさらに練習を積んでいく。「これから選手とチームを作り込んでいく時間を共有できることが楽しみです。去年とは違ったタイプのチームになると思うので、あとは今年の結果をプラスに考えていければ」

目標を見失わず、そこに向かって走ることの大事さを改めて感じているという大志田監督。夏を経て、秋の駅伝シーズンに東京国際大はどんな戦いを見せてくれるだろうか。

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