東海大・塩澤稀夕主将 駅伝二冠を目標に、チームの要として結果を見せ続ける
今年東海大学の主将を務める塩澤稀夕(きせき、4年、伊賀白鳳)は、名実ともにチームを引っ張る存在でもある。目標とするのは全日本大学駅伝と箱根駅伝の二冠、そして個人では日本選手権にかける思いも強い。ラストイヤーの現在地を聞いてみた。
充実の1年となった3年時
大学2年時は1年間故障に悩まされ、トラックでも自己ベストを1つも更新できなかった塩澤。昨年度は3大駅伝すべてを走り、11月には10000m自己ベストを28分16秒17に更新して日本選手権の出場資格を獲得した。
3大駅伝では、出雲駅伝3区、全日本大学駅伝3区、箱根駅伝2区とすべて「エース区間」と呼ばれる区間を担当し、学生ナンバーワンランナーの相澤晃(当時東洋大4年、現旭化成)と同じ区間を走った。「エースとしての走りを間近で見られて、『自分がそうしていかないといけない』と思えるとてもいい経験になりました」
エースとしての走りとは? 「一人でガツガツ、最後まで走り切る力です。自分はエースというよりも、チーム内で調子が良くて、『しのぐ』区間ぐらいの感じでエントリーされていました。相澤さんとは役割が全然違うなと。今年はちゃんとエースとして区間新記録を出して、ライバルと圧倒的な差をつけていきたいです」と力強い。
箱根駅伝が終わったあと、塩澤は2月に渡米し約1カ月間アメリカでトレーニングを積んだ。充実した練習ができ、ボストンの室内大会で5000m13分33秒44をマーク。「5000mの日本選手権の標準(13分42秒)を切りたいなと思って、そこを目標に走った上でそれ以上の結果が出ました。驚きもありましたが自信にもなりました」と振り返る。
しかし日本に帰って3月、右足のアキレス腱を痛めてしまう。折しも新型コロナウイルス感染拡大の影響で次々と試合が中止になり、先が見通せない状況に。「今は冷静に治すときかと思い、落ち着いて治せました」と自粛期間もプラスに転じた。
現在地を見極めつつも、エースの自覚は充分
4年生初めてのレースとなったのは、7月18日のホクレンディスタンスチャレンジ千歳大会。ここでは5000m13分49秒56という結果を残した。「故障明けで2カ月ぐらいしか練習できてなくて、自己ベストや好タイムは狙っていませんでした。最低限の試合はできたかなと。試合勘を1つ取り戻せたのはよかったです」
しかし同じ組で走った同い年の遠藤日向(住友電工)が13分18秒99、吉居大和(中央大1年、仙台育英)が13分28秒31でU20日本新記録を更新するのを見て、「焦りや悔しさもあった」と複雑な心境ものぞかせる。「でも自分自身の状況も考えないといけないと思って、秋シーズン日本選手権で勝つことが大事だなと思っていたので、良いモチベーションになりました」
続く9月の日本インカレでは、1日目の10000mと3日目の5000mに出場。10000mは28分59秒53、5000mは13分48秒59でともに7位入賞という結果だった。10000mの自己ベスト、最低でも日本人トップと考えて臨んだ大会だったが、「夏合宿から調整してきたが、思った以上に体が動かなかった」と言い、「キャプテンとしてもチームのエースとしてもまだまだ力不足」と口にした。本格的に始まるシーズンに向けて、まずは自分の結果を見せてチームに勢いを与えたい。そう考えていたからこその発言だった。
駅伝も日本選手権も狙っていく
今年は出雲駅伝が中止となったため、チームで狙うべきは全日本大学駅伝と箱根駅伝の二冠だ。「まずは全日本大学駅伝の連覇がかかってるので、勝ちにいきたいと思ってます。去年は区間新記録だったのに区間3位だったので、今年はエースとしてどの区間を任されても、後ろと30秒差をつけるぐらいの気持ちで、チームに勢いをつけたいです」。走ってみたい区間は? と聞くと「どの区間を任されてもいいかな」と言う。
今年は新型コロナウイルスの影響もあり、大会日程が変則的だ。そのため全日本大学駅伝の後、12月4日に日本選手権(長距離種目)が開催される。その1カ月後には箱根駅伝だ。通常のシーズンとは違い、トラックとロードが入り交じるが気にならないだろうか。「そこは線引きをしていないので。10000mを狙ってて、しっかり勝ちにいきたい気持ちです。トラックの練習をしたからといって駅伝にマイナスになるとは感じていないので、ある試合を一つひとつ消化していく、という気持ちでいます」
もともとそこまで距離を踏むタイプではないという塩澤。チーム内でも走行距離は下から数えたほうが早いという。10000mの練習をうまく駅伝につなげられたら、と口にする。「日本選手権では確実に優勝争いに絡んでいきたいので、そこまでには27分台を出せる練習をしっかり積んでいきたいです」
走りでチームを引っ張りたい
昨年1年間副キャプテンを努めていた塩澤は、同学年内の話し合いの結果キャプテンを務めることに決まった。昨年の4年生は層も厚く、実力もある学年で「チームにくっついているだけで、(自分は)存在感も薄めでした」と振り返る。その4年生が一気に抜けて、自分が引っ張る立場に変わった。「その中でもしっかり冷静にチーム全体を見られているんじゃないかなと思います」
言葉で言うことはあまり得意ではないといい、厳しいタイプでもないと自らを評する塩澤。下級生とたわむれながら、私生活から楽しむタイプだと教えてくれた。「練習中の走りとかで、キャプテンらしいところを見せていきたいと思います」
両角監督は、チーム全体の集合機会が少ないため、彼のキャプテン力を発揮する場面が少ないのかなと言いつつも「自分は何を伝えたいのか、残り2つの駅伝をみんなで勝ちにいくぞ、というのを彼なりの発信の仕方でやってくれればいいと思う」と期待する。
ちなみに4年生として、期待する下級生がいるかを聞いてみると、まずは3年生のことを話題に上げた。「今までは市村(朋樹、埼玉栄)しかいなかったんですが、本間(敬大、佐久長聖)、長田(駿佑、東海大札幌)、松崎(健悟、東海大諏訪)が練習面でも引っ張ってくれているので、3年生のことを楽しみにしてます。あと1年生だと石原(翔太郎、倉敷)ですね。高校でしっかり走ってきたので、大学でも見せてくれたらと思います」。その石原は9月21日の平成国際大記録会で、5000m13分51秒03の自己ベストをマーク。今後の成長にも期待がかかる。
チームの要として、頼れる先輩として。塩澤はラストイヤーの集大成のために走り続ける。