ビーチバレー

産業能率大・オト恵美里、2年目でつかんだビーチインカレ女王 再び世界の舞台へ

オト恵美里の1年目は関東ビーチインカレで敗退。2年目のビーチインカレで大学の頂点に立った(すべて撮影・ビーチバレースタイル)

荒井商事杯 第32回全日本ビーチバレーボール大学男女選手権

9月5~6日@兵庫・大蔵海岸公園海水浴場
女子優勝 産業能率大学(山田紗也香・オト恵美里ペア)
2位 神戸学院大学(山本華音・金元彩奈ペア)
3位 松山東雲女子大学(大本真代・松尾優美ペア)

ビーチバレーボールのインカレが9月5~6日に開催され、女子大会は産業能率大学が優勝した。2009年に創部して以来、5度の優勝を誇ってきた大学ビーチの女王は3年ぶりに女王の座を奪還。近年、ビーチバレーの強化に取り組む大学が増えている中、見事にライバル校たちを打ち破った。その立役者になったのが、初のビーチインカレ出場で優勝に輝いた2年生のオト恵美里(下北沢成徳)だ。

ビーチインカレ男子、古豪・日体大が優勝 「対応力」でつかんだ29年ぶりの快挙

優勝候補・日体大戦で痙攣「根性で絶対に勝ちたかった」

優勝候補の一角にあげられていた日本体育大学(西美穂・川崎菜々子)との準々決勝。オトと山田紗也香(3年、高浜)組は第1セットを21-12で先取し、第2セットも終盤4点差をつけてリードしていた。しかし、終盤にきてオトの足が痙攣(けいれん)し始め、インジュリータイムを要求。試合再開後も完全には回復せず、オトは足をひきずりながらプレーしていた。

日体大にとって挽回できる絶好のチャンス。執拗に狙われたオトだったが、例えスパイクが打てなくても気迫のこもったパスで切り返し、相手のミスを誘ってリードを守り、21-17で勝ち切った。「ここまできたら心の勝負だと思っていました。紗也香さんも助けてくれたので根性で絶対に勝ちたかった」とオトは振り返る。

産業能率大同士での準決勝を勝ち抜き、迎えた神戸学院大学との決勝でも、大蔵海岸の白砂を吹き飛ばすほどのオトの力強い攻撃が何度も突き刺さった。決勝戦は第1セットを21-14で先取し、第2セットでも21-12で勝ち切り、力を示した。1年生の時は関東ビーチインカレで敗退。この1年で大きく飛躍した。

1セットもとられることなく、先輩の山田(左)とともに戦い抜いた

名門・下北沢成徳出身、大学でビーチバレーに転身

オトは日本人の母とトンガ人の父との間に生まれた。母は高校時代に全国優勝もなし遂げたバレーの経験者、父のロペティ・オトさんは中部大春日丘高ラグビー部のコーチを務める元ラグビー日本代表WTBだ。そんな両親の血を受け継いだオトは、身長172cmの逞(たくま)しいフィジカルから繰り出される高さのある強打が武器。バレーの名門・下北沢成徳高卒業後、産業能率大への入学とともにビーチバレーへ転向した。「高校時代はいわゆる補欠のポジションでした。でも、ビーチはパートナーがいれば試合に出られるので補欠はいない。それも魅力的でしたし、砂の上で動くのも面白そうだなと思いました」

そんな将来性のある原石を、もちろん関係者は見逃さない。オトは2019年6月にタイで開催されたU21世界選手権の代表メンバーに選出された。しかし、ビーチバレーを始めてからたったの5カ月。初戦で手も足も出ず、カナダに完敗。いくらバレーのエリートでも、簡単に勝てるほどビーチバレーは甘くなかった。「たくさん練習して早くうまくなって勝てるようになりたい。そしてまたこの舞台に必ず戻ってきたい……」。試合後、オトの瞳には悔し涙があふれていた。

タイで行われたU21世界選手権は悔しさだけが残った(左がオト)

真っ白な状態だった1年目から飛躍の2年目へ

それからおよそ1年。オトは初めて挑んだビーチインカレで日本一となった。心の中には転向最初に見た「世界」の景色が常にあったと語る。「あの時は、ビーチの専門用語も分からないような真っ白な状態で(笑)。いきなりとんでもない世界を見たのですが、素直にそこを目指したいと思いました。だからどうしたら勝てるようになるのか、毎日それだけを考えて練習してきました」

当時は砂の上で動くこともままならず、風の中でボールを触るのもチグハグしていた。持ち前の高さやパワーも宝の持ち腐れだった。しかし、今は違う。「この1年、ボールへの触り方とスパイクへの踏み込みは、とくに意識して練習してきました。ビーチではインドアバレーのように反力が使えないから、ボールにゆっくり触ってパスを出す、助走もしっかり踏み込む。風向きも頭に入れて攻撃できるようになりました」

パートナーの山田(右)に支えてもらいながら、大学からビーチバレーを始めたオトは力をつけてきた

オトの先輩でありパートナーでもある山田は言う。「高校時代にビーチを経験してから入部する選手が多い中、恵美里はビーチ経験もない強豪校から入ってきました。高さのあるプレーが展開できる、今までにない大型プレーヤーですね」

「勝てない」と悔し涙を流していた新人は1年後、大学の頂点へ。再び世界の舞台に立ち、勝利を目指しているオトにとって、それはリベンジへの1歩にすぎない。

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