アメフト

30回目の青と赤の甲子園、関学が後半に日大を突き放して3連覇

甲子園ボウル最優秀選手に輝いた関西学院大学のRB三宅昂輝(撮影・全て朝日新聞社)

第75回甲子園ボウル

12月13日@阪神甲子園球場
関西学院大(関西)42-24(7-14、14-0、7-0、14-10) 日本大(関東)
関西学院大は3年連続31度目の優勝

アメリカンフットボールの第75回甲子園ボウルは12月13日、阪神甲子園球場であり、関西代表の関西学院大学が関東代表の日本大学を42-24で下して3連覇、最多優勝回数を更新する31度目の頂点に立った。年間最優秀選手(ミルズ杯)には関学のQB奥野耕世(4年、関西学院)、甲子園ボウル最優秀選手には関学のRB三宅昂輝(4年、関西学院)、甲子園ボウル敢闘選手には日大のRB川上理宇(4年、佼成学園)が選ばれた。奥野は2年ぶり2度目、ほかは初受賞。両校の甲子園ボウルでの対戦成績は関学の11勝17敗2分けとなった。

日大QB林の右肩回復具合は

この試合の最大の注目点は、日大のエースQB林大希(4年、大阪府立大正)が2週間前の桜美林大学戦で右肩に負ったけがが、どれぐらい回復しているかだった。

アメフト歴16年の関学QB奥野耕世と日大QB林大希、最後の甲子園ボウルで激突

今シーズン初めて日大のエース番号10を付けたQB林

いきなり試合が動いた。日大のキックオフを受けた関学WR木下健太(4年、大阪府立池田)が右へ走ると見せて、右サイドから左へ駆け出したエースRB三宅にハンドオフ。大きく開いた左サイドを三宅が駆け上がり、ゴール前21ydまで73ydのリターン。土の部分で滑っていなければタッチダウン(TD)までいっていただろう。3プレーで攻撃権を更新できず第4ダウン残り1ydとなったが、フィールドゴール(FG)にはいかず、RB前田公昭(3年、関西学院)のランでフレッシュ。2プレー後にQB奥野がWR梅津一馬(2年、佼成学園)に11ydのTDパスを決めた。奥野はエンドゾーン右奥へ走り込んだ梅津に柔らかいリードボールを投げ、梅津がナイスキャッチで応えた。関学が何より大事にするファーストシリーズで7点を先取した。

お互い最初のオフェンス実らせる

日大の最初のオフェンスは自陣34ydから。QB林はフィールドに出てくると関学側と日大側の観客席にそれぞれ一礼した。ランを三つ続け、敵陣38ydで第1ダウン10yd。ここで初めて投げた。いつもは確実に決めてくる短いパスだったが、失敗。第3ダウン7ydになり、林に代わってフィールドに入ったQB小野祐亮(4年、日大鶴ケ丘)がWR林裕嗣(4年、佼成学園)にパスを決めてフレッシュ。林が短いパスを二つ決め、最後はRB柴田健人(3年、立命館守山)が7ydを走ってTD。7-7に追いついた。ともに最初のオフェンスを実らせ、青と赤の戦いが盛り上がり始めた。林は短いパスなら投げられるのがわかった。

日大は2度目のオフェンスも持っていった。自陣16ydと押し込まれたところから攻撃開始。ラン、ランで攻撃権を更新。QB林が左のポケットから右へアクロスで出たWR山下宗馬(2年、箕面自由学園)へパス。関学のディフェンスが林の動いたサイドにつられていて、山下は25ydのゲイン。敵陣に入ると、QB林からのスクリーンパスを受けたRB川上がOL陣のブロックにも守られて24ydのゲイン。ここで林は弟分のWR山下へ21ydのパスを決めた。これでミドルレンジのパスも投げられると分かった。最後もゴール前4ydからランのフェイクで関学のLBをつって、WR大通広志(4年、横浜商)へTDパス。7-14と勝ち越し、日大サイドのスタンドを沸かせた。

第2クオーター(Q)になり、関学は自陣14ydからのオフェンスで、OLの頑張りもあってRB前田が28ydと21ydの好ゲインを奪い、ゴール前14ydへ。最後はQB奥野から短い後ろパスを受けたRB三宅が13ydを走りきってTD。すぐに14-14と追いついた。

第2Q、タッチダウンを挙げる関学の三宅

次の日大のオフェンスで、関学の副将でLBの繁治亮依(4年、関西学院)が負傷退場。もともとランで進まれているだけに、ディフェンスの要を欠いて暗雲がたれこめた。

関学が大村隼也のTDでリードして折り返し

ディフェンスが何とか踏ん張り、関学は前半残り5分11秒からのシリーズをものにする。自陣5ydから自陣38ydまで進んだところで、反則で罰退。この第1ダウン20ydでホットラインが開通。QB奥野がWR鈴木海斗(4年、横浜南陵)へ34ydのパスを通して反則は帳消し。関学が伝統的に得意なショベルパスを2度続けて繰り出し、計29ydのゲイン。最後はゴール前1ydからの第4ダウン。関学はタイムアウトをとって勝負に出る。右からモーションしてきた大村和輝監督の甥っ子であるWR大村隼也(4年、啓明学院)が左オープンを突く。激しいタックルを食らいながら、4年生の意地でボールをエンドゾーンにねじ込んだ。「あれは大村のプレーだったので、入ってきたときも決まったときもうれしかった」と、同じ4年生WRの鈴木は言った。日大は前半終了間際、40ydのFGに失敗。関学が21-14とリードしてハーフタイムに入った。

2年ぶりの年間最優秀選手になった関学の奥野

後半も先手をとったのは関学。自陣38ydからの後半2度目のオフェンスでランと短いパスを絡めて進み、最後はワイルドキャットフォーメーションでQBの位置に入ったRB三宅が持ち込んでTD。28-14とリードを広げた。関学が続けてもう一本とれば、1Q15分(リーグ戦は12分)の長丁場といえども試合の大勢は決すると思われた。そこで、日大のエースRB川上だ。続くオフェンスで中央やや右の穴を抜け、78ydの独走TD。前日の予告通りの独走を成し遂げた。日大は28-21と迫った。

ここぞで光った関学の鈴木海斗

結局、勝負を決めたのは関学のホットラインだった。続くオフェンスでまたも自分たちの反則のあとに、QB奥野がWR鈴木へ37ydのパスを通す。インサイドレシーバーで縦に抜けた鈴木に決め、奥野は右腕を突き上げて喜んだ。さらに奥野がQBサックを食らって迎えた第3ダウン18ydでも、奥野が鈴木へ21ydのパスを決めてフレッシュ。高いボールだったが、鈴木はジャンプして確実に両手でつかんだ。最後は奥野が右サイドで縦に抜いたWR糸川幹人(2年、箕面自由学園)へ24ydのTDパスを決めた。捕球後に相手ともつれ、糸川のヘルメットが脱げた。糸川はそれを拾いにいこうともせず、派手なガッツポーズ。根っからの目立ちたがり屋である糸川らしいシーンだった。第4Q5分すぎで35-21となり、甲子園は一気に関学3連覇の空気になった。

第4Q、この試合3本目のTDランを挙げた関学の三宅

続くシリーズで日大は敵陣へ攻め込み、ゴール前19ydから第3ダウン9yd。ここでQB林大希は誰よりも信頼するWR林裕嗣へパス。エンドゾーン左奥へナイスボールが飛んだが、右手に当てて落とした。FG成功で35ー24とするのがやっとだった。関学は次のオフェンスで右へのリバースプレーからRB三宅が53ydの独走TD。42-24として勝負は決した。

3年連続最多記録を更新する31度目の優勝を果たした関西学院大学

関学・大村和輝監督
「第1Qは予定してた止め方を逆手に取られて進まれました。第2Qの途中でアジャストした結果、止まりました。ウチのオフェンスは5本ぐらい取れる力はありますので、あれぐらいはできると思ってました。三宅もよかったですけど、奥野から鈴木へのホットラインが機能してくれて助かりました。鈴木海斗がよかったですよ。難しいボールを全部捕ってくれましたから。(ライスボウルの出場については)鳥内さんに相談します」

「両親に感謝したいです」

関学QB奥野耕世
「日大さんはサイズが大きくてスピードもあって、ハードなタックルをしてきました。でも僕らは目の前の1プレーに集中してやれたのが勝利につながったと思います。準備してきたことしか試合ではできないと思ってるので、どれだけ試合のことを想定して練習するかにかかってると思います。小学1年生からフットボールをしてるんですけど、ここまで不自由なくさせてくれた両親に感謝したいです」

関学RB三宅昂輝
「自分がボールを持ったら独走と思ってたので、最初のリターンからいけたのはよかったです。ランとパスのオプションで(奥野)耕世が選んで、ランならRBに渡す、パスならレシーバーの位置にいる僕に投げるっていうプレーが多くて、よく進んだと思います。リバースでの独走はレシーバーのブロックを信じて気持ちよく走りました。OLの高木がリードブロックに出てきてくれたのも、しっかり見えてました。甲子園ボウルで表彰されたのは初めてなので、うれしいです」

日本大学は3年ぶりに甲子園ボウルに戻ってきたが一歩及ばなかった

日大・橋詰功監督
「完敗ですね。オフェンスもディフェンスも関西学院さんが上回ってました。言い訳になりますけど、ベストな状態でやらせてあげたかった。僕が知る限り日大フェニックスのエースQBは10をつける、と。だから林大希に託しました。最終的に出場を決めたのは僕です。いけるところまでいってほしい、と。このチームに来させて頂いたのは、チーム作りをしたい、学生を育ててみたいのが一番の望みだった。学生たちはすごく成長してくれて、フットボールがうまくなったというのもあるけど、人としてずいぶん成長してくれたなと。うれしいし、これから彼らがどんな大人になってくれるのかが楽しみです」

試合後は笑顔をみえた関学のQB奥野(左)と日大のQB林

「つらいこと、ここで試合できて全部忘れました」

日大QB林大希
「(記者会見の冒頭から涙)4年間ほんとに苦しかったんですけど、日大フェニックスとして、エースとして4年間歩めたことが僕の中で誇りに思いますし、今日は自分をほめたいなと思ってます。昨日監督から10番を託されて、僕は正直、今日出られるか分からなかったんですけど、『エースはお前やと言っていただけたんで、つけさせてもらいました。終わったので言いますけど、右の肩鎖関節の靱帯(じんたい)が完全断裂して、2週間ずっと練習できませんでした。つらいことといったら、どんだけあんねんってぐらいあったんですけど、ここで試合ができたことがうれしくて、全部忘れました。今日は僕たちが勝つ運命だと思ってましたけど、僕のこのあとの人生まだまだ頑張れという意味で負けさせられたと思ってます。今後とも日大フェニックスをよろしくお願い致します」

日大DL伊東慧太主将
「悔しい思いでいっぱいです。万全の状態ではなかったですけど、僕が復帰できるまで勝ち続けてくれたチームに感謝します。日本一になって先輩たちに恩返しするつもりだったんですけど、申し訳ない思いがあります」

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