相楽豊監督「箱根駅伝に強い早稲田を」 中谷・太田の27分コンビの勢いで3位以内へ
早稲田大学は12月20日、箱根駅伝オンライン合同取材を実施し、「総合3位以内」という目標を発表した。「コロナの影響で春から色々な状況に直面しても、1年間変えずにひたすら追ってきた目標ですので、これに向けて早稲田らしい積極的な、長い距離の箱根駅伝に強い早稲田を見せたい」と相楽豊監督は言う。
夏合宿で走り込めなかった分、集中練習で強化
早稲田大は新型コロナウイルスの影響で春には寮の一時閉鎖を余儀なくされた。帰省先に練習ができる環境がなかった選手もおり、相楽監督は一人ひとりと連絡を取り合いながら、無理のない範囲で練習の継続を選手たちに求めた。全体での練習を再開できたのは6月末になってからだった。
また、例年7月下旬から9月下旬に実施してきた夏合宿は急きょ中止。「決められたルールの中で取り組み、大学から指定されたPCR検査もクリアしていたんですが、それでも直前にダメになりました。合宿だけでなく選手の実業団練習やケニア遠征もダメになるということが続き、私自身も含めてモチベーションが下がってしまいました」と相楽監督は振り返る。所沢の合宿所での校内合宿に切り替え、早朝と夕方の2部練習で実施。朝6時でも30度以上になる日もあったため、距離を踏むこともよりもスピードを重視した練習に切り替えるなど、今ある環境の中でできるだけ質の高い練習を積むことに意識を向けた。最終的には学校から許可が下り、9月最終週の1週間だけ夏合宿を実施できたが、例年よりも走行距離は6~7割程度少ない状況だった。
迎えた11月1日の全日本大学駅伝、3区の中谷雄飛(3年、佐久長聖)が区間賞の走りで首位に立ってレースをつくった。6区終盤で首位を明け渡し、最後は5位でフィニッシュ。「自分たちはやれる」という自信を得た反面、最後に勝ちきれなかった悔しさもあった。全日本大学駅伝の後には例年、2~3週間に及ぶ集中練習に取り組んでいる。今年は夏合宿で走り込めなかった分、この集中練習で取り戻すために期間を1カ月に増やして実施。12月20日のオンライン合同取材で相楽監督は「例年よりも質を高めた影響でみんな疲れていますけど、けがを抱えているメンバーはいないですし順調にはいっている」と選手たちの状況を口にした。
3年生の中谷と太田が活躍、千明も箱根でリベンジを
12月4日には長距離種目の日本選手権では、10000mで中谷が27分54秒06、太田直希(3年、浜松日体)が27分55秒59と、それぞれ自己ベストを大幅に更新した。ふたりは全日本大学駅伝でも中谷が3区区間賞、太田が4区区間新記録・区間2位とチームを牽引(けんいん)。日本選手権前は個別練習に取り組んでいたが、レース後は休養を挟み、チームでの練習に合流している。
中谷は日本選手権を振り返り、「自分でレースをつくった上での27分台に自信をつけることができた」と言いながら、「田澤(廉、駒澤大2年、青森山田)の方が8秒速いし(27分46秒09)、太田のタイムも近いから、ここから気を引き締めてやらないとって危機感を感じたところもありました」と現状に甘んじていない。3年生になったことで上級生としてチームを支える意識も芽生え、箱根駅伝では往路で勝負をしたいと考えている。とくに希望する区間はなく、「自分でレースをつくって押していくのが得意なので、2~4区は自分に合っているんじゃないかな」と話すが、もし前回同様1区を任されたら前回の記録(1時間01分30秒)を更新し、60分台を目指す。
今シーズン、太田はトラックでも駅伝でも力を示し、「直希が今一番チームの中で勢いにのっている」と千明(ちぎら)龍之佑(3年、東農大二)は話す。千明は夏に立て続けに5000mで自己ベストを出していたが、8月末から左足に痛みが出始め、頸骨(けいこつ)の疲労骨折で全日本大学駅伝は寮のテレビで仲間を応援していた。前回、自分が走った4区で太田が区間新記録をマークし、首位で襷(たすき)リレー。同期の走りを心強く思う反面、「僕が万全の状態で走れていたらどうだったんだろうと」と思わずにはいられなかった。
スピードを取り戻す練習から始め、現在はチームの練習にも合流している。「過去もけがをした後の復帰は早かったですし、今は調子も上がっており、往路で走れる状態できています」と千明。12月に記録会へ出ることも考えたが、相楽監督と相談し、練習の中で試合を意識したメニューを取り組むことにした。日本選手権があった12月4日には、ひとりで3000mのタイムトライアルをこなし、風がある中だったが8分20秒をマークしている。前回の箱根駅伝では4区を任され、区間7位だった。順位こそ8位を守ったが、後半で失速してしまった走りに悔いを残している。だからこそ今年はスピードを継続し、中盤で離されることなく勝負していきたいと考えている。
「吉田さんが5区にいるから」と安心させたい
早稲田大の16人のエントリーメンバーを見ると、4年生が2人、3年生が7人、2年生が3人、1年生が4人という3年生が中心のメンバー構成だ。4年生は元々、一般入試で入ってくる学生も少なかった代で、他の代に比べると人数が少ない。「全日本大学駅伝では0人だった中、よく2人が入ってくれたと思っています」と相楽監督は言う。
コロナ禍という例年にない状況下でチーム運営を任された4年生は、自分自身も含めてモチベーションを維持させることが難しかった。「エントリーメンバーに入っていない4年生も、グラウンドでいろんなメッセージを下級生たちに呼びかけてくれました。自分の成功体験、失敗体験を伝え、それぞれがそれぞれの立場で存在感を示し、チームづくりに貢献してくれています」と相楽監督は4年生をたたえる。
主将の吉田匠(4年、洛南)はラストイヤーの今年、3000m障害で結果を残してチームを盛り上げたいと考えていた。しかし様々な大会が中止・延期となり、自粛期間中にはシンスプリントをきっかけにして様々な部位に故障を抱えてしまった。まずはケアすることに集中し、箱根駅伝が開催されることを信じて、練習を継続してきた。昨年12月を振り返ると、直前になってアキレス腱を痛めてしまったため、練習を十分にできていなかった。今年は集中練習で走り込み、「あと1~2週間で状態を上げられると思います」と手応えを感じている。
吉田が思い描いているのは山登りの5区だ。前回大会で初めて5区を走り、足に痛みを抱えながらなんとか走り抜けた。5区の早稲田大記録は、吉田が1年生だった時の主将・安井雄一(現・トヨタ自動車)がマークした1時間12分04秒。安井は吉田にとってあこがれの選手で、「主将としても頼りになる方でしたし、みんな『安井さんが5区にいるから』と安心感を持てていました」と言う。だからこそ、自分も下級生に「吉田さんが5区にいるから」と安心してもらえるような存在でありたいと考えている。目標は1時間11分台。吉田は大学で陸上を引退することを決めており、箱根駅伝が競技人生における最後の舞台となる。最後の箱根駅伝を笑顔で終えるために、全ての力を出し切る。
宍倉、教育実習で自分と向き合い最後の箱根路へ
もうひとりのエントリーメンバーの4年生である宍倉健浩(4年、早稲田実)も、6~9月にアキレス腱と大腿骨の痛みと貧血で思うように走れなかった。更に10月12~31日までの3週間は母校である早実で教育実習があり、全日本大学駅伝へのメンバー入りは難しいと考えていた。それでも4年生として自分が走る姿を後輩たちに示し、「全日本では俺が走る場合もある。でも俺が走るようじゃ、このチームはやばいよ」とあえて言葉にして伝えてきた。それは自分自身を奮い立たせるためでもあったと振り返る。
教育実習中はひとりで練習に取り組んでいたが、高校生と接する中で自分が高校生だった時のことを思い出し、新鮮な気持ちで陸上と向き合えた。加えてチームから離れたことは、冷静になって今の自分に足りないものを考えるきっかけにもなったという。
4年生になってからは、主将の吉田ひとりに任せるのではなく、チームを支える覚悟をもって積極的に発言をしてきた。「これまでの早稲田を振り返ると、4年生が強い年が結果を出しているので、そこでどうやって引っ張れるかって考えてきました」と宍倉は言う。前回の箱根駅伝で宍倉は10区を走り、駒澤大学の石川拓慎(現3年、拓大紅陵)と競り合いながら東洋大学を抜き去り、ラストスパートで石川との勝負を制しての総合7位でゴールした。「展開がよかったので最後勝ちきっていいように見えたけど、区間5位以上を目指していた中での区間8位なので、出ただけで終わってしまったなという部分があった」と振り返る。最後の箱根駅伝ではどの区間を任されても、自分の区間で順位を引き上げる走りを目指す。
箱根駅伝まであと約2週間。相楽監督は「全日本では3~4区が終わったところで先頭に立ちたいという狙いがあってそれを実現できて、今回の箱根ではその盛り上がりをどこでつくるかがポイントだと思っています。正直、現地点では本当に区間を決めていない」と話す。前回は山の区間で苦戦したが、その経験値をもって今大会に臨めるアドバンテージがある。
今年のチームを相楽監督は「コロナ禍の中で選手たちは我慢強さ、打たれ強さが備わり、限られた環境の中で考えて練習をするという工夫する力もついたのかなと思っています」と話す。4年生が支えてきたチームを、勢いをもって3年生が押し上げてきた。最後の最後までメンバー入りを競い合いながら、3年ぶりとなる「総合3位以内」を全員でつかむ。