陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

箱根駅伝7位の順大 清水颯大主将が区間2位、仲間のために走り最後に流したうれし涙

清水にとって3度目の6区となったが、本当はこの1年、平地を走るための準備をしてきた(撮影・佐伯航平)

第97回箱根駅伝 

1月2~3日@大手町~箱根の10区間217.1km
順天堂大学
総合7位 11時間4分3秒
往路7位 5時間33分31秒 
復路8位 5時間30分32秒 

今年の箱根駅伝で順天堂大学は総合7位となり、2年ぶりにシード権を獲得した。長門俊介監督が「もうちょっといけたのかなという思いはありましたけど、今の実力的にはそれ相当の順位」と言うにはわけがあった。ベストメンバーで挑めなかったからだ。主将の清水颯大(4年、洛南)は昨年12月の段階で、副将の矢野直幹(4年、比叡山)を思う気持ちから「6区を走りたくない」と長門監督に意見をしていたという。それでも最後はチームのために自身3度目となる6区を走る決意をし、自分を支え続けてくれた矢野の思いを背負い、最後の箱根駅伝に挑んだ。

チームエントリー発表前夜、野口の疲労骨折が判明

前回大会で14位だった順天堂大は箱根駅伝予選会にまわり、上位10人が全員63分以内で走る強さを見せつけて1位通過を果たした。今シーズンは新型コロナウイルスの影響で様々な大会が中止・延期になり、ハーフマラソンを走る機会が限られていた。その中で予選会を経験できたことはチームの強みとなり、また、一皮むけるきっかけになったと長門監督は言う。更に、その2週間後にあった全日本大学駅伝では8位で14年ぶりにシード権を獲得。チームは自信を深め、箱根駅伝に向けて動き始めた。

箱根駅伝予選会では2位の中央大学に2分39秒差をつけての1位通過を果たした(代表撮影)

しかしエントリーメンバー提出前日の12月9日夜、4区を任せようと決めていた野口雄大(4年、市柏)に対し、トレーナーから画像診断をしてもらった方がいいという進言があった。翌10日すぐに病院で診てもらった結果、疲労骨折が発覚。急きょ、野口を外したエントリーメンバーに差し替えた。

清水は野口が最後の箱根駅伝に向けて調子を上げていたことを知っていただけに、自分のことのように動揺してしまったという。「自分だったら落ち込むなと思ったんです。あいつは気持ちの上げ下げが大きいんで、自分がちゃんとケアしないとって」。しかし野口はあまりいつもと変わりのない様子だった。「みんなに迷惑をかけないように、落ち込んだ姿を見せないようにしていたんだと思うんです。あいつもこの4年で、人としても成長しているんだなと思いました」

矢野からの後押しを受け、6区を走ると決意

野口が走れなくなったことで、区間配置を再考しなければならなくなった。流れをつくる1区にスーパールーキーの三浦龍司(洛南)を配置することはすでに決まっていた。三浦は11月末に右腿のつけ根を打撲してしまい、2週間程度練習ができていなかったが、「うちのチームメンバーの中で(1区に)対応できるのは三浦しかいない」と長門監督は踏んでいた。

復路に予定していた選手を往路にまわしたことで、復路でも先手から勝負できるメンバー構成が必要になった。そこで9区に考えていた清水を6区にしたいと長門監督はチームに打診。その6区は当初、矢野が走る予定だった。最初で最後となる箱根駅伝に向けて矢野も調子を上げており、清水自身、矢野とそれほど大きな実力差を感じておらず、仮に出遅れたとしても自分だったら平地で巻き返せると考えていた。

清水は1年生の時から箱根駅伝を経験しているが、7区区間18位、6区区間15位、6区区間12位と、悔しい思いをしてきた。最後は平地で雪辱するという思いで、この1年走ってきた。何より、一緒に頑張ってきた矢野に走ってもらいたかった。しかし「チームとしては先手先手でいい位置につけたい」という長門監督の思いを受けて何度も話し合い、矢野からも後押しされ、最終的に清水は6区を走る決意をした。

直前の12月に入ってから、野口のけが、区間変更、矢野のメンバー漏れなど、心が乱されることが続いた。それでも箱根駅伝は迫っている。主将として、4年生として、そして最後の舞台に立てなかった4年生の分まで、全てを出し切って終わりたい。そんな清水のことを思い、箱根駅伝の前々日から部屋に矢野がきてくれ、自分の話し相手になってくれた。矢野と話す中で、少しずつ緊張がほぐれていった。

1~3年生の布陣で往路7位

迎えた箱根駅伝、順天堂大は1区の三浦が首位と31秒差での10位で襷(たすき)を野村優作(2年、田辺工) につないだ。1区は最初の1kmが3分30秒程度という超スローペースとなり、三浦は想定外の展開に困惑したという。打撲で練習できなかった期間はあったが、「ほかのメンバーより練習が少なかったかもしれないけど、自分としてはそこまで影響を感じていません。(ラスト3kmの)六郷橋のところでついていけずに一気に離されてしまい、自分の弱いところをつかれたレースになった」と言い、後半の切り替えに課題を感じた。

三浦(左)は初めての箱根駅伝に対し「スタートは独特な雰囲気。この舞台に立ったんだなと、ワクワクした気持ちがあったけど、プレッシャーが他の大会に比べて比較的大きかったのかなと思います」(撮影・北川直樹)

2区の野村で一度、11位とシード圏外になったが、3区の伊豫田(いよだ)達弥(2年、舟入)が区間5位の走りで7位に浮上し、4区の石井一希(1年、八千代松陰)と5区の津田将希(3年、福岡大大濠)もそのまま7位を守って往路を終えた。1~4区を1~2年生に任せる布陣となったが、「1区の三浦が想定よりも苦しい走りになりましたけど、それでもあの展開の中でよくやってくれましたし、2区以降もすごく頑張ってくれたので十分の結果だと思います」と長門監督は選手たちをたたえた。

きつくなるたびに矢野の顔を思い浮かべた

復路のスタートとなる6区は、清水が当日変更で配置された。最終学年にしてやっと箱根駅伝に調子を合わせられているという感覚があった。付き添いは矢野。「俺の分までかっこいい姿を見せてくれ」と声をかけられ、思いっきり背中をたたかれた。矢野の思いが伝わってきた。往路を頑張ってくれた後輩たちに報いるためにも、ひとつでも順位をあげてみせる。そう決意してスタートした。

矢野(左)は最後の最後まで、清水の側にいて支えてくれた(撮影・佐伯航平)

最初の5kmの上りでできるだけ稼ぎ、その勢いを続く下りで生かしたい。想定タイムは58分半、最低でも58分台と考えていた。最初の5kmを想定よりも20秒早く駆け上り、一気に下る。9km地点の小涌園前を想定よりも30~40秒早く通過。東京国際大学と並んでの5位に浮上し、「これはいけるぞ」と気持ちも上がっていた。きつくなるたびに矢野の顔を思い浮かべた。あいつの分まで走ると決めたんだ。そう心でつぶやき、また脚に力を込めた。最後は6位の神奈川大学に1分29秒差をつけて襷リレー。想定よりも速い58分2秒で区間2位。自分が持てる力、全てを出し切った。

レースを終えるとすぐにゴールの大手町に向かい、アンカーの原田宗広(4年、大牟田)を出迎えた。原田は前回の箱根駅伝で1区を走り、区間18位と苦しんだ。自分が流れをつくれなかった悔しさを抱えてきた原田は、最後の箱根駅伝にかけてきた。7区の小島優作(3年、仙台育英)で6位、8区の西澤侑真(2年、浜松日体)で6位、9区の鈴木尚輝(3年、浜松日体)で8位になり、原田へ襷が渡った。

6位の帝京大学とは17秒差、7位の早稲田大学とは14秒差。3校が競り合いながらレースを進める中、終盤には59秒差での8位から追い上げてきた國學院大學を交えた4校の争いとなり、原田は早稲田大と4秒差での7位でフィニッシュした。ゴール直後に原田は倒れ込み、清水が抱きかかえる。目の前にいた早稲田大を抜けなかった悔しさから涙する原田に対し、「十分よくやった」と清水は声をかけた。

アンカーの原田は競り合いながらレースを進め、8位から7位に追い上げてゴールした(撮影・藤井みさ)

今大会、出走できた4年生は清水と原田のふたりだけだった。この舞台に立てなかった4年生の思いも引き受け、最後の最後まで諦めない走りを見せた。そんな清水に対し、矢野は「本当にお前が走ってくれて良かった。自分が走れなかったことに後悔はない」と声をかけてくれた。自分の悔しい気持ちを見せることなく、最後まで笑顔で励ましたたえてくれた矢野の温かさに触れ、清水はうれし涙というものを身をもって知った。

「強い順天堂」を取り戻すために

今シーズンを振り返り、長門監督は全体的なチームの底上げができたことが全日本大学駅伝と箱根駅伝でともにシードを獲得できた結果につながったと考えている。戦力的には三浦や石井、内田征冶(開新)といった力のある1年生の加入も理由のひとつではあるが、それ以上に、前回の箱根駅伝に出られなかった2、3年生の努力がチームを押し上げたと長門監督は強調する。

昨年、主将を担った藤曲(ふじまがり)寛人(現・トヨタ自動車九州)は「マルサのプライド」をスローガンに掲げ、2007年を最後に途絶えている箱根駅伝総合優勝を目指すことで、かつての「強い順天堂」を取り戻すと言葉にしてきた。前回の箱根駅伝では1区で流れに乗れず総合14位で終え、藤曲たちの思いは後輩に託された。

清水が主将になって改めてチームを見返すと、全員が全員、箱根駅伝総合優勝を明確に見据えて取り組めているようには思えなかった。段階を踏んでいかないといけない。学年同士の横のつながりだけでなく1~4年生の縦のつながりも深めることで、互いの思いを伝え、互いの存在に刺激を受けられる環境づくりを心がけてきた。「後輩から刺激を受け、最上級生が背中を見せることで下級生の目指すものが見えるようになり、結果的に相乗効果でいいチームになっていったのかなと思います」と清水は振り返る。

清水(右)は原田(中央)に対し「(往路の)7位を守りきってくれ、同期として誇らしかったです」(撮影・藤井みさ)

箱根駅伝総合優勝を見据えたひとつの段階として、今シーズンは箱根駅伝総合5位以内を目標に掲げていた。「その目標には届きませんでしたけど、最終的には優勝するんだという意思は後輩たちももってくれていると思う。これが続けばおのずと目標が高くなっていくだろうし、本当に優勝につながるチームになってくれたらと」と清水は後輩に思いを託した。

先輩の思いを受け継ぎ、今度は後輩につなげていく。喜びが悔しさが涙が幾重にも積もっていき、また新たな伝統になる。

in Additionあわせて読みたい