パデル

特集:駆け抜けた4years.2021

慶應義塾大学の小澤琴巳、 スペイン生まれのパデルと医療で世界を目指して

スペイン生まれのパデルに魅せられた小澤琴巳(本人提供)

慶應義塾大学の看護医療学部で勉強しながらパデルのトッププレーヤーとして世界を目指す小澤琴巳(4年、西遠女子学園)。大学3年の6月から本格的にパデルに打ち込むようになり、わずか1年足らずで日本代表に選出された。現在、女子日本ランキング8位。2020年12月のGIARDINO OPEN大会では藤原利菜(29=日本ランキング5位)とのペアで準優勝した。大学卒業後は都内の病院で助産師として働きながら、パデルでも世界を目指す。

身長168cmの高さが強み

パデルとはテニスとスカッシュの要素を持ったスペイン生まれのラケットスポーツだ。ダブルスのみでプレーする。コートはテニスコートの半分くらいの広さで、周囲を強化ガラスと金網によって仕切られ、壁のバウンドを活用することができる。ポイントの数え方や試合進行はテニスと同じだ。

パデルコートは周囲をガラスと金網で囲まれ、壁のバウンドも使う(本人提供)

高校時代は硬式テニスに打ち込んでいた小澤がパデルに出会ったのは大学1年のときだった。一緒にテニスを楽しんでいた先輩に誘われプレーしてみたパデルの魅力にすっかりはまってしまったのだ。先輩たちが立ち上げたパデルのサークルに入部し、小澤はパデルにのめり込んでいった。

「テニスよりコートが小さくて、初心者でもなじみやすいスポーツです。(四方に)壁がある分、ラリーが長く続きますし。それでいて戦術や駆け引きなど奥が深い。ペアで息を合わせることも大事で、うまくいったときの達成感は大きいです」と小澤はパデルの魅力を説明する。

身長168cmの高さを生かした攻撃力が小澤の強みだ。パデルは相手に対してなるべく前の位置、攻撃的な位置を取ることが重要になる。高さのある小澤が前に出ると、相手はボールを上から抜くことが難しい。力強いスマッシュ、回転をかけた攻めるショットなど、上からのショットの打ち分けも得意としている。

ペアを組む藤原利菜(左)と。高い身長を生かした攻撃力がある(本人提供)

「前のポジションをしっかりキープすることが今の課題です。それと、まだ戦術面で迷ってしまってミスをすることが私は多いので、判断力も上げていきたいです」と小澤は現在の課題を挙げる。

医療従事者としての責任感

看護医療学部で学びながらトップ選手としてパデルをプレーしてきた。看護師を志した理由を小澤はこう話す。
「最初は漠然と医療職に就きたいという憧れみたいなものがありました。大学受験の際には医師や薬剤師など他の医療職も考え、ギリギリまで迷いましたが、対象者の一番近くに寄り添って全人的にサポートできる仕事なのが看護師の魅力だと思って、看護学部へ進むことを決めました」

昨年2月、小澤は日本代表に初選出され、11月にカタールで開催される予定だった世界大会「パデル・ワールドチャンピオンシップ2020」への出場を目指していた。ところが新型コロナウイルス感染拡大により、春から夏にかけて予定していた大会は次々中止になってしまう。パデルコートも緊急事態宣言下は閉鎖されるなど、世界中のアスリート同様、小澤も大きな影響を受けた。目指していた世界大会も、感染者の世界的な広がりから1年延期となってしまった。

試合中に思わずガッツポーズも(日本パデル協会提供)

「本当に苦しい1年でした。ただ、学生ではあっても、自分は医療従事者の一員ですから、その責任感を持って過ごしてきました。パデルをプレーすることができない時期もありましたが、もがきながらも1年間、やれることを頑張ってきました」と小澤はコロナ禍で苦しんだ大学4年のシーズンを振り返る。練習や大会、トレーニングの際には、感染予防に人一倍神経を使ってきた。

海外で働いてみたいという夢も

2月に大事な国家試験を受験し、卒業後は都内の病院で助産師として勤務することが決まっている。生命の誕生という神秘的なものを感じることから、看護師の中でも助産師を志すようになったという。

「出産というのは女性にとって一生に何回あるか分からない大きな経験だと思うんです。すべての妊婦褥婦(じょくふ)さまとご家族のみなさまにとって出産がよい経験になるように、“自分らしいお産”をサポートできる助産師になりたいです」

将来的には、発展途上国で医療従事者として働いてみたいという大きな夢もある。
「国際的に活動できる人材になりたいという思いを高校生のころから持っていました。発展途上国の医療に従事し、世界中の人が安心して子供を産める環境づくりに貢献したいという気持ちがあります。もちろん、まずは日本で助産師としてしっかり経験を積むことが大事。もし将来的に海外で働くことができたら、そこでの経験をまた日本に戻ってからの仕事に生かして、日本の女性の力、出産の前向きな支えとなるように、安心できる環境や関係を築くことができるよう励んでいきたいと思います」

充実したした4年間だった(撮影・小川誠志)

20代前半は、大きな選択をしなければいけないことが続く時期だ。自分の人生にとって、今、何を優先させるべきなのか。悩むこと、迷うことも少なくない。勉強に実習に就活、そしてパデルと、猛烈に忙しい4年間を過ごしてきた。悔し涙も流したが、それも自分を強くしてきた。「本当にあっという間の4年間でした。それだけ充実していたんだと思います」とすがすがしい表情で小澤は話す。

学生最後の大会で最高の結果を!

3月19~21日に千葉市・晴れのち晴れで行われる全日本選手権が、学生としては最後の大会になる。ここで好成績を残して秋の世界大会出場に向けての弾みにしたいところだ。昨年の全日本選手権ではベスト4で涙を飲んでいる。「全日本は、優勝を目指します!」。学生最後の舞台で最高の成績を狙う。

学生最後の大会を笑顔で締めくくれるか(本人提供)

日本でのパデル競技人口は現在1万5000人程度(日本パデル協会調べ)だが、スペインでは国内第2位の競技人口を誇るメジャースポーツだ。パデル国際連盟(FIP)は2028年ロサンゼルス・オリンピックでの正式競技としての採用を目指している。「実現したら、オリンピックに出場してみたいです」と小澤は7年後の大きな目標についても笑顔で語った。

in Additionあわせて読みたい