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連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

1部復帰の青山学院大学、積み重ねて強度を増した「繋がり」

1部復帰の青山学院大学の開幕戦は延長十回、逆転サヨナラ勝ちだった(撮影・全て笠川真一朗)

4years.野球応援団長の笠川真一朗さんのコラムは、東都大学野球で2014年秋以来の1部復帰を果たした青山学院大学。開幕戦で東洋大学に逆転サヨナラ勝利を収めるなど、攻守にわたって粘り強い戦いを見せています。3戦を終えて2勝1敗。長らく2部で戦ってきましたが、1部に上がっても決して立ち遅れを感じさせない戦いぶりに心を打たれました。

前主将も見守る開幕戦で逆転サヨナラ

開幕戦(3月30日)の直前、見覚えのある選手が「おはようございます!」と球場で元気にあいさつをしてくれた。前年まで青学大の主将を務め、ハウスメーカーに就職し、この春から新社会人になった西川藍畝(らんせ、龍谷大平安)さんだ。神宮球場でプレーする後輩達の勇姿を見守るために、卒業式を終えた西川さんはそのまま東京に残っていたそうだ。「後輩達が神宮でプレーするのはまだ少し実感はありません。でもめちゃくちゃうれしいですし、どんな試合を見せてくれるのか楽しみです!」。いつも優しい表情や口調で話す印象を西川前主将に抱いていたが、この日だけは少し高揚しているように感じた。

2部優勝旗を返還した

昨秋のリーグ戦で西川前主将に「主将としてどのようなチーム作りをしてきたのか、どんなチームになったか」と聞いたことがある。「元気、活気があります。上級生も下級生も関係なく話せる組織に。人数が少ない分、結束して戦うことが大切です。それがこのチームの良い部分。絶対1部にいく。それしか考えていません。最後にそれだけはやり切りたい」。強い覚悟や責任感を感じる言葉だった。主将の経験がなかった西川さんは「何から始めればいいか」と手探りの状態でチーム作りに着手。自分自身の実力不足を含めた様々な悩みや葛藤を抱えながらも、「チームが勝てれば」と奮闘。上級生、下級生の壁を取っ払い、お互いに手を取り合って1部昇格にふさわしいチームを作り上げてきた。その中心に西川前主将がいた。

青学主将・西川藍畝 悲願の1部昇格に流した涙と、後輩に託した「日本一」の夢

安藤寧則(やすのり)監督は昨秋、1部昇格を決めた際に「4年生あってこそのチーム」と西川を中心とした4年生の存在を称えた。そして今回の開幕戦勝利を挙げた際も「卒業して社会人1年目になった選手たちのお陰です。今の4年生が力を発揮できたのも昨年の4年生がいたからこそ」と同じように昨年の4年生の存在へ敬意を示した。「藍畝は苦労しているんです。下の学年にはヤンチャな者もいますから、『小生意気なやつにイラっとすることないんか?』と聞くと、『本音としてはあります』と答えた。それを西川はグッとこらえて、そいつらを生かすためにうまくチームを束ねて。それは藍畝にしかできない」。安藤監督の西川前主将に対する信頼感はものすごく厚かった。

2年生の中島大輔に声をかける安藤寧則監督(左)

「6年間2部にいて、一歩一歩チームの成長を目にしています。『今のチームで勝ちたい』という気持ちでやってきた。その思い入れは年々、強くなっています。頑張ってる姿を見てきているので。この舞台で最高のパフォーマンスを発揮してくれる姿を願っていました」

試合後の安藤監督の言葉に「繫(つな)がりの力」を感じた。チームの力は1年、1年異なるが、変わらないことはある。変わってはいけないこともあれば、変わらないといけないこともある。その試行錯誤の中で積み上げてきたチームの歴史があるから、今の青学がある。日の当たらない時代もあった。それでもどの代も「勝ちたい、1部に行きたい、神宮で野球がしたい」。その思いは変わらない。きっと2部での6年間があったからこそ、今の粘り強さがあるのではないかと感じる。ここまでの2勝1敗という戦いの中で接戦をものにする力強い姿を見ていると、そう感じずにはいられない。

「自分たちのやることは変わらない」

現在、主将としてチームを牽引する泉口友汰(4年、大阪桐蔭)は「気負いはないです。どこでやろうが自分たちのやるべきことは変わりません。1部、2部に違いはない。前半厳しい展開の中で後半は粘れました。接戦をものにしたのは自信になります」と自身が放ったサヨナラ犠飛を打った直後の取材でも落ち着いていた。浮ついている様子を感じない。それは2部の厳しい戦いの中で積み上げてきた経験値があるからだ。細かい部分を徹底し、日頃の準備を積み重ねてきた。練習の中でも生活の中でも。

青学大の泉口友汰主将、神宮でプレーするために頑張ってきた
攻守でチームを引っ張る泉口友汰主将

西川さんも「主将の性格」と泉口の人間性を認める。西川さんと泉口は中学時代に和歌山日高ボーイズで共にプレーした旧知の仲だ。「家も近所で小学生の頃から知ってました。生意気ですよ、弟みたいな感じで仲良いです(笑)。でも頼もしい存在。人に対して物怖じせずに物事をガツガツ言えます」。西川さんは泉口のことをよく知っている。泉口が入寮してきた頃から同じ部屋で生活をしていた。最も長い時間を共にしたのが泉口だった。「前向きな男ですよ。ちょっと打てなくても気にしない」。人間的にも強くて実力も伴う主将がいて、昨年、一昨年から試合に出ている選手も多い青学のメンバー。経験は豊富だ。

だからこそ西川さんはこの試合を安心して見ていた。「序盤は送球のミスとかいつもあまり見ないプレーで空回りしてる感じはありましたけど、大丈夫です。変な硬さはないし、リラックスできています。最初はちょっと空回りするくらいで良いと思います。全力でプレーできてる証拠です。上を狙える能力は間違いなくあるので徐々に、徐々に。活気もあるし、このチームの良い部分がしっかり出てます」

開幕戦では序盤に1点を失い、九回裏に追い付くまでは我慢の展開が続いた。それでも決して崩れずに最後まで堂々と戦い切る。全員でピンチをしのぎ、全員でチャンスを作ってきた。そしてタイブレークに突入し、延長十回に1点を勝ち越されたが、その裏に追いついた後、泉口の一打で3-2のサヨナラ勝利。西川さんもこの勝利を心から喜んだ。

開幕戦を観戦した西川藍畝前主将、左は今春入部した弟の史礁(みしょう)

翌日の試合では1-2で惜敗するが、次のカードでは立正大学に4-3の勝利。どの試合も集中力を切らさず立派に戦い抜いている。そもそも「1部昇格」に目標を置いていたわけではない。あくまで目標はその更に向こう「日本一」だ。その大きな目標に向かって力になっているのは、1年、1年必死に積み重ねてきた「あと1勝をどう獲(と)るか」という強い執着心だ。

先輩の思いを背負い

泉口は言った。「今までの先輩が築いてくださって1部昇格できたと思っています。その先輩たちはここでプレーすることはできないんですけど、自分たちはその人たちの思いを背負ってしっかりとプレーします」。今の選手達にも先輩の思いや残してきたものはしっかりと繋がっている。

もう一度、本当に強い、青学へ。この春の戦いはずっと前から始まっていた。

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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