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連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

東海大学野球部、縦じまの誇りを胸に再出発の春 首都大学リーグ

東海大ー日体大2回戦。五回、東海大の小松勇輝は3点本塁打を放ち、笑顔で生還(撮影・全て笠川真一朗)

首都大学野球を引っ張ってきた東海大学の再起の戦いが始まった。開幕週(4月10、11日)で昨秋優勝の日本体育大学に連勝、2月に就任した井尻陽久監督の初陣を飾った。昨秋は最下位。複数の部員の大麻使用が確認されたとして活動を停止し、安藤強監督が辞任するなど苦しい状況から新チームはスタートした。主将を務める門馬大(4年、東海大相模)は「縦じまの誇りとプライドを持って戦っていこう」とチームを鼓舞。覚悟と野球ができる喜び、そして野球部の活動を支えてくれる多くの方々への感謝の気持ちを胸に春季リーグに臨んでいる。

初先発の斎藤礼、安里が好投

開幕カード2連勝。これ以上ない最高のスタートを切った。井尻監督は「主将を含めてみんなが頑張ってくれた。コロナの影響もあって子どもたちはかわいそうな思いをしている。学生は純粋。『うまくなりたい』『勝ちたい』という気持ちで野球に取り組んでいる」。開幕戦勝利の後、選手達の姿勢を称賛した。

開幕戦で完投勝利の斎藤礼(左)はウィニングボールを井尻監督に渡す

開幕戦の勝ち投手となった斎藤礼二(3年、東海大相模)、2試合目に勝ち投手になった安里海(4年、東海大相模)はともにリーグ戦初先発で初勝利を挙げた。例年とは少し違った重圧のかかる登板となったが、決して動じなかった。

斎藤礼は「特別な気持ちはありましたが、感じないように。いつも通りいこうと」。最速148kmの直球を力強く投げ込み、日体大打線相手に1失点の完投。入学後、肩を痛めた時期もあったという。それからトレーニングを重ねると徐々に球速がアップし、高校時代は最速143kmだった直球が今では150kmになった。ランニングを中心とした下半身のトレーニングが投球の進化に結びついた。

「開幕投手に選んでもらえた感謝の気持ちがありました。ひとつ恩返しができて良かったです。ストレートの質を上げて、もうちょっと楽に9回を投げ切れるようになりたい。大学では日本一をとりたいです」。今後の課題と目標を試合後に語った。マウンドでは表情を変えず、ピンチの場面も堂々と投げ切ったが、試合後の取材では柔らかい笑顔を見せた。

2戦目を任されたのは安里。「チームが初戦をしっかりとったので、とにかくチームの勝ちにつながる投球を。自分の調子がどうとか関係なく、とにかく勝つために」と、テンポ良く打ち取る投球で5回1失点と試合を作った。本人はこの日の投球に納得いかなかった。「全然ダメでした」と振り返る。それでも、工夫をした安里は崩れない。「調子が悪いなと思ったら、小さくまとめにいかずに逆に大胆に腕を振ります。ど真ん中めがけて投げたら良い感じに散らばってくれました。よかったです」。笑顔を見せながら振り返った。

2試合目に先発し5回1失点の安里

試合では全く緊張しないという安里は打者に対して強気な心情を貫いている。「『打てんの?』くらいの上からの気持ちを持って投げてます。走者が出ても逆にギアが上がって抑えようと燃えますね」。ピンチの場面でも決して焦らず、自分のペースで。安里の投球が攻撃に良いリズムをもたらした。

「開幕から日体と試合ということで、みんなに火が付きました。それが大きかったです。でも個人としては悔しいんで次はもっとビシビシいきます。1本も打たせたくない。先発を任されている以上は期待に応えたいです。『自分がやらないと』っていう気持ちは持ってます」。さらに気持ちを引き締めて次の試合に挑む。

「自分のできることを」門馬主将

主将の門馬は試合には出場していないが、存在や姿勢で組織を束ねる。「チームの先頭に立って勝たせられるような存在に。自分のできることを精いっぱいやります。リーグ戦優勝、日本一しか見てません」。堂々と話す姿に力強さを感じた。父が監督も務める母校の東海大相模高の選抜高校野球大会優勝も刺激になっている。弟の功外野手も甲子園で活躍した。「東海大も続きたい」と意気込んだ。

東海大は門馬主将(中央)を中心に日本一を目指す

昨年の問題をきっかけに「外から見られる目」も変わり、冷たい風に吹かれることもあっただろう。不安や苦労もあったはずだ。何も関与していない選手からしたらとばっちりで、背負いたくないものを背負わされることになった。ただ、問題が起こったことによって、立派に戦うことで違った姿を見せられる、という心境も生まれたはずだ。

勝つことがすべてではないが、勝つことだけでしか報われないこと、勝つことでしか認められないこともある。何としてもこの開幕は勝たないといけなかった。選手達からはすがすがしさを感じた。リーグ戦を、野球を、心から楽しんでいるように見えた。きっとこの日を待ちわびていたのだろう。もちろんプレー中は必死だ。浮つかずに堂々とプレーしている。硬さはない。雰囲気の良さは試合や試合前のアップを見て感じ取れた。元気で明るいアグレッシブな姿を見ていると、勝手に心配していた「東海、大丈夫なんかな?」という心配は完全に消え去った。

厳しい冬を乗り越えてつかんだ開幕2連勝。始まったばかりだが、真っ直ぐな気持ちで野球を楽しむ東海大に期待したい。

「原のおやじならどう考える」再起を託された東海大監督

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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