多面的なSTEAM教育で大学部活動の活性化を、きっかけは早大ラグビー部での経験
教科横断型の教育手法「STEAM(スティーム)教育」で実績がある「STEAM Sports Laboratory」(SSL社)が大学体育会の部活動を活性化するプログラムを開発し、無償で提供する。「チームビルディング」や「動作解析」「身体づくり」など5つのテーマがあり、競技力だけでなく問題解決能力の向上などを目指す。「学生主体で取り組んでいるクラブに利用してもらえれば」と言う代表取締役の山羽教文(たかふみ)さん(49)に思いを聞いた。
STEAMは「科学」「技術」「工学」「芸術」「数学」の英語の頭文字を組み合わせた造語。異なる分野を複合的に学ぶことで、AI(人工知能)では対応できない複雑な問題を解決する創造性や思考力などを高める教育理念だ。SSL社は経済産業省の「未来の教室」実証事業でタグラグビーと算数、プログラミングを融合させる授業などスポーツを軸にしたSTEAM教育の構築に取り組んできた。
主将になって感じたこと
このプログラムを大学の体育会向けに応用しようと思ったのは、山羽さんが早稲田大学ラグビー部で主将を務め体験からだった。「(大学)3年生が終わって、『来年キャプテンをやってくれ』と言われた時、具体的にどんなことをしなければいけないのか、どうやってチーム作るのかわからなかった。その時思ったのは、伝統ある部でも、どうしてうまく継承されていないんだろうと。本来、ベースは体系化されていて、キャプテンの色をそこにのっければいい話だと僕は思っていた」
1994年度、山羽さんは早大の主将になると、91年ワールドカップ日本代表の監督を務めたOBの故・宿澤広朗さんに監督のお願いにいった。当時、銀行支店長で激務だった宿澤さんを口説き落とした逸話が残る。宿澤さんが早大の監督を務めたのは、この年限りで、チームは全国大学選手権ベスト4に終わった。山羽さんは「1年経った時に、もっとこうすればよかったみたいなことを思った。負けた時に、もう1年あったら、もっといいチームを作れた」と振り返る。
当時の思いもあり、小、中、高校向けに開発してきたSTEAM教材を、実践の場といえる大学の部活動に応用できたらと考えた。「体育会の学生の多くは、大半の時間を部活動に費やしている。なんとなく毎日、部活をして、何となく終わるというのはもったいない。これから求められる人材や能力を培うために部活が使えたら」と山羽さん。
プログラムを使うセミナーは、オンラインで実施する予定。各テーマの講師がまず、考え方などを伝え、大学生はそこで学んだことを2週間から1カ月の期間、実際に部活でやってみる。この後、フォローコーチングをオンラインで実施、さらに新たな考え方を加え一つの講座は3カ月ぐらいの期間という。「チームビルディング」では山羽さんも講師を務める。
コロナ禍でオンライン授業も珍しくなくなった。「毎回、現地に行ってやる方式では、コスト高でとてもできないという判断になっていたかも」と無償で提供するための追い風になった。
現役大学院生も開発
「動作解析」を担当する小松崇志さん(27)は鹿屋体育大学大学院博士課程で学んでいる。国内トップレベルの研究施設を誇る同大の前田明教授の下で学ぶ小松さんは、タブレットやスマートフォンに内蔵されているスロー映像の撮影機能を使って、動作解析を掘り下げるプログラムに携わった。「今までは自分の感覚でしかわからなかった体の動かし方やパフォーマンスについて、データを可視化できる」と自信を持つ。走り方や泳ぎ方に限らず、個人技能に関して応用でき、例えばサッカーであればシュート動作、野球では投球や打撃という個人のパフォーマンス改善の一助となる。
東京都出身の小松さんは鹿屋体大で水泳部に所属、目立った競技実績は残せなかったが、さらに学びたいと大学院へ進んだ。修士課程終了時に、一度は夢をあきらめ建築関係の会社に就職しようとしたが、SSL社を紹介されて、働きながら研究を続けている。
このプログラムは、指導体制などが整っている強豪クラブではなく、どちらかといえば自主的に活動する一般的な部活動の手助けを目指している。山羽さんは「勝ち負けも大事だが、最後、勝って終われるのは一握り。チームをどう作るのか。データを集めて戦略を考える。映像を撮ってパフォーマンスを分析する。こういうことは社会に出て仕事に置き換えられる。社会に出た時、力になる。大学体育会の現場をそういう形に改善できれば」と期待を込める。SSL社では5月17日午後5時から体育会に所属する大学生を対象にこのプログラムを紹介する無料セミナーを開催予定。申し込みは下記から。