フィギュアスケート

特集:駆け抜けた4years.2021

いつかアイスショーの世界へ 大矢里佳が明治大学卒業後に描く夢の続き

明治大学卒業後も現役続行を決めた大矢里佳(すべて撮影・浅野有美)

2021年3月、明治大学商学部を卒業したフィギュアスケート選手の大矢里佳(中京大中京)は現役続行を決めた。地元・名古屋に拠点を移し、年末の全日本選手権出場を目指す。納得して競技生活を終えた先にかなえたい夢もある。大好きなスケート、大学時代の思い出、今後の目標について語った。

母校のスター・宇野昌磨 

大矢は名古屋市出身。スケートを始めたのは小学2年生の頃、2010年バンクーバーオリンピック銀メダルの浅田真央さんを見て、家族でスケートリンクに行ったのがきっかけだ。名古屋スポーツセンターのポラリス中部フィギュアスケートクラブに所属し、技を習得した。

同じリンクには2018年平昌オリンピック銀メダルの宇野昌磨(トヨタ自動車)がいた。実は中学も高校も同じ。「宇野選手は学校で有名人。いつも表彰されていました。リンクではすごく練習していて、泣きながらも続けて、どんどんうまくなって、いまでは雲の上の存在です」。地元にいたトップ選手の活躍が励みになり、大矢も全日本ジュニア選手権、全日本選手権に出場してきた。

「変わりたい」名古屋から上京

中京大中京高校から中京大学に進学する選手が多い中、大矢は明治大学を選んだ。「高校3年間、思うような成績が残せていなくて、何かきっかけがないと(自分は)変われないと思いました。環境が180度変われば何か見つけられるものがあるのでは、と東京に来ました」

自分を変えるために名古屋から上京。その選択は正解だった。

一番成長したのは精神面。「気持ちに余裕がなくて試合で失敗して自分を追い詰めてしまうので試合があまり好きではありませんでした。東京に来て考えが変わり、試合を楽しもうと考えるようになると余裕がでてきて、いまはスケートが大好きだなと強く感じています」

名古屋から上京、アットホームなスケート部で4年間を過ごした

指導を仰いだのは中田誠人コーチ。ダイドードリンコアイスアリーナ(東京都西東京市)を拠点に4年間の大半を過ごした。

コーチとの思い出で印象に残っているのが大学3年のとき。ひざを故障し、練習ができないまま東京選手権を迎えた。悔しさと焦りで気持ちの整理がつかないでいた大矢に対し、中田コーチは無理にジャンプを跳ばず大会通過を第一に考えるようにアドバイスした。「自分がすごく焦っていたのを先生はわかっていて、(全日本選手権進出がかかる)東日本選手権が一番頑張るところだからと言ってもらえて、そうだなと思いました」。やるべきことに集中した結果、ブロック大会を勝ち抜き、全日本選手権に進むことができた。

「本当にスケートを楽しいと思わせてくれる先生でした」と感謝する。

スケート部フィギュア部門も居心地がよかった。全日本選手権経験者がそろい、切磋琢磨(たくま)しながらも雰囲気はアットホーム。「先輩も後輩も本当に頑張って結果を残していて毎試合刺激をもらえました。団体で競うインカレも素敵な場でした」と振り返る。

卒業生の演技会、引退は宣言せず

大矢は最終学年でスケート部の主将を任された。「4年生のみんなで協力し、支えられた」と感じつつも心残りがあった。「新型コロナで昨年4~6月は滑れない状況が続いて。全員で集まることができず、インカレもなくなって。昨年1年は何もできずに終わってしまった。やりきった感覚がなくなった年だった」と語る。

就職活動もしたが引退を決断できなかった。今年3月、なんとか開催にこぎつけた卒業生たちの演技会「明治×法政ON ICE」で卒業生が就職やコーチになる夢を語る中、大矢は引退について明言を避けた。

3月に開かれた「明治×法政 ON ICE」では卒業後について明言しなかった

大矢にはひそかに抱いていた思いがあった。「叶(かな)うかわからないので」と周りには伝えられずにいた。

納得いく形で競技生活を終えたら世界を旅しながらアイスショーに出演する。それが大矢の夢だ。その選択肢を教えてくれたのも中田コーチだった。

全日本でショートとフリーをそろえる

3月に地元の名古屋に戻り、元世界女王の安藤美姫さんらを育てた門奈裕子コーチに師事している。ジャンプ指導に定評があるコーチのもとで基礎から跳び方を見直した。「私は跳ぶタイミングが遅くパンクしやすいので、早く思い切り踏み切るように意識しています」と、少しずつ成長を感じている。同じリンクで練習する社会人スケーター大庭雅(みやび、2018年中京大学卒)の存在も心強いという。

昨年の全日本選手権はフリーに進めなかった。「SP(ショートプログラム)とフリーをそろえてリベンジしたいという思いが一番大きいです」と目標は明確だ。

その全日本選手権をやりきった先に夢の続きがある。「本当にスケートが大好き。好きなものだからこそ達成したい。最後の全日本選手権は自分が納得して終わりたいと思います。そして好きなものを続けるためにアイスショーのメンバーに入りたいと思っています」

リンクで一緒に練習する大庭雅(左)と(本人提供)

アイスショーを手がける会社にプロモーションビデオを作って応募した。コロナ禍の影響もあって返事はまだ来ていない。それでもいつか夢の扉が開くことを願い、今日もリンクに向かっている。

学生主催エキシビション「明治×法政 ON ICE」 コロナ禍、感謝のスケート
【写真】大矢里佳のスケート、「明治×法政 ON ICE」で華麗に

in Additionあわせて読みたい