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特集:あの夏があったから2021~甲子園の記憶

日大山形・舟生大地 「もう1試合やりたかった」監督の教えも胸にラストシーズンへ

第99回全国高校野球選手権1回戦で明徳義塾の走者をタッチアウトにする日大山形の舟生(撮影・全て朝日新聞社)

最終学年で東京六大学野球デビューを果たした法政大学の舟生大地(ふにゅう・だいち)捕手(4年、日大山形)は春のリーグ戦後、地元に戻って母校の練習を手伝った。後輩たちは舟生が主将で引っ張った第99回大会以来、4年ぶりに夏の甲子園へ。米子東(鳥取)との開幕戦に臨むことになり、「ありきたりですけど、自分たちらしくやってほしい」とエールを送る。

兄を追い、主将で主砲

山形大会決勝の日(7月24日)は法大の練習があった。「気になりましたね。(日大山形で)一つ下の(学生コーチの近藤)皓介に経過を聞きながらやってました。めでたいです」。9-7で東海大山形に競り勝ち18回目の出場が決まった。

舟生の代も4年ぶりの甲子園だった。新チームになって秋、春と県大会では勝ち続け、夏も本命視された。「負ける気はしなかった。サカナン(酒田南)に勝てたから、だいぶ気持ちは楽でした」。山形大会準決勝では酒田南に先制された。4-1と一時逆転したが、六回に3点返され追いつかれる。九回に勝ち越し点を挙げ何とか逃げきった。決勝は山形中央に16-3と大勝した。八回に右打者の舟生が右中間へ放った満塁本塁打は地元で語り草になっている。山形大会では5試合で計3本塁打しチームに勢いをつけた。

山形大会決勝で右中間へ満塁本塁打を放つ舟生

10歳上の兄も日大山形で甲子園に出場した。第88回大会(2006年)では山形勢初の八強進出に貢献した。小学生だった舟生も甲子園まで応援に行った。兄に続いて代表を決め、「あそこで野球ができるんだ、という感じでした」と振り返る。

明徳義塾に雪辱許す

主将として初戦の相手に引き当てたのは明徳義塾(高知)だった。その4年前、日大山形が山形勢初のベスト4を決めた第95回大会(2013年)の準々決勝で破った相手でもあった。「嫌な感じはなかった。結局、どことやっても一緒みたいな感じでした」。大会2日目の第4試合で戦った。試合は延長戦にもつれたが、延長十二回の表に3点を許し6-3で敗れた。4番に座った舟生は4打数無安打に終わった。「やられました。インコース攻めされて、対応できなかった」。短すぎた夏に「もう1試合やりたかった」と悔いも残った。

舟生主将(左)のかけ声で甲子園練習を始める日大山形

後輩たちは2年ぶりに開かれる全国高校野球選手権で開幕戦に臨む。「お客さんが入れないので、ちょっと可哀想だなとも思います。本来なら、開会式で満席に埋まり、そのままの開幕ゲームなので、幸せなところでできる。開会式はすごく思い出に残っているし、感動しましたから」

6月に日大山形で練習を手伝った際、一緒に自主練習に励んだ中軸の佐藤拓斗主将や伊藤翔海らに期待をかける。「翔海はいろいろ聞いてきました。夏に向けてどうしていったらいいのか、心構えなどを」。主将として主砲としての経験を後輩に伝えた。「ずっと練習していたので、(入れ替わりで)学年はかぶってないですけど頑張ってほしい」

神宮初出場「ノーヒットワンラン」

高校3年夏の活躍で法大進学への道が開けた舟生だったが、入学後は壁にぶつかった。「先輩たちと比べてあきらかに力不足でした。だから、色々、練習はしました」。神宮球場でプレーするのも4年生になって初めてだった。「ようやく自分の野球が認められたのかなという感じでした」。4月、慶應義塾大学との春の開幕戦、先発を告げられたのは前日だった。「今までにないぐらい緊張しました。今後もあれだけ緊張することはないですね。OBの方たちも期待しているし、勝たなければ、と自分で思い込んでしまった」

主将でエースの三浦銀二(4年、福岡大大濠)の球を受けた。終わってみれば、東京六大学では62年ぶりの「ノーヒットワンラン」という珍記録を引き出し、2-1の勝利に貢献した。「最後のバッターを三振にとった時、一番、ほっとしました」

エース三浦をリードする法大の舟生(右)

春は6試合に出場した。13打数1安打。レギュラーをつかみきれたわけではない。「出だしはよかったですけど、バッティングもスローイングも課題ですね。盗塁を刺せなかったので。打撃は、うまいこといかないだろうと思っていたので、そんな深刻に受け止めてはいません」

「23」でラストシーズン

背番号は23。「高校の監督さんが社会人野球時代に23番で。あと、(元NBA選手の)マイケル・ジョーダンが好きなので」。日大山形の荒木準也監督からは多くのことを学んだ。「情に厚い監督で、めちゃくちゃ勉強させてもらいました」。高校時代、ベンチではなるべく隣に座り、監督の言葉に耳を傾けた。データより、打者の打席での気配などを感じ取ってリードに生かすのはその時からの財産だ。「チームとしてはリーグ戦で優勝して、明治神宮大会に出て日本一。個人の結果というより、チームのために、守備でもバッティングでも貢献していきたい」。自分たちに続いた後輩たちに刺激をもらい、大学最後のシーズンへ向かう。

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夏の全国高校野球選手権大会が2年ぶりに甲子園で開かれます。大学野球で活躍する選手に、甲子園とは何だったのか?高校生活のこと、あの夏のこと、そして後輩たちへの思いを聞きました。

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