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特集:あの夏があったから2021~甲子園の記憶

八戸学院光星・近藤遼一 開幕戦、本塁打、ナイター、サヨナラ、すべて味わえた

101回大会3回戦、八戸学院光星九回1死満塁、下山の中前打でサヨナラの本塁を踏む近藤(撮影・朝日新聞社)

4試合で打率は.643。ベスト8入りした2019年夏の甲子園で、八戸学院光星(青森)の3番を打った近藤遼一(天理大学2年)が残した数字だ。2年連続の代表を決めた青森大会では6試合で実に6本塁打をマーク、甲子園でも2本のホームランを放った。

2つの黒星で危機感

2年前の八戸学院光星は強力打線が看板だった。ただ、順調に歩みを進めてきたわけではない。選抜大会では広陵(広島)の河野佳(大阪ガス)に3安打完封を喫し、0-2で初戦敗退。帰郷後、春の県大会では初戦で青森山田に5-7で敗れた。重なった2つの敗戦はチームに危機感を植えつけた。

90回選抜大会1回戦、一塁の守備でファウルフライを追う近藤。広陵に零封負けした(撮影・藤原伸雄)

「このままでは夏の甲子園には出られないと思いました。選抜では何もできなかったので、甲子園で味わった悔しさは甲子園でしか晴らせないとチームで言い合ってきました」

近藤は2年生からスタメンで出場することも多かったが、ここ1番の勝負強さに課題があった。仲井宗基監督は「気持ちの優しい子。2年夏は4番で起用したことがあったけれど、なかなか結果が出なかったんです。優しさが打撃に出てしまう。投手の心理が読めるし、一発もあるので、ずっと期待はしていました」と話す。

ノーシードで臨んだ夏の県大会では、3回戦で青森山田を4-1で下し、6試合のうち4試合は2ケタ得点で県のライバルたちを圧倒、近藤も決勝の弘前学院聖愛戦で2本塁打を放つなど3季連続の甲子園をつかんだ。

101回青森大会決勝、近藤は六回に2本目の本塁打を放ち一塁を回る(撮影・藤谷和広)

打って打って、勝ち進む

甲子園出場時は身長175cm、体重90kgと、どっしりとした体形。遠くに飛ばすために、強く振ることを心掛けてきた。「そこからいかに芯でしっかりとらえられるかを意識すれば、打球がさらに飛ぶようになりました。『飛ばす=芯に当てる』は大事だと思ってきました」

夏の甲子園の初戦は開幕戦だった。大会の開幕試合は初めてで、どのような心構えで挑めばいいのか正直、戸惑いはあった。
「開幕戦に決まった時は“うわー”って思いました。開会式が終わって、すぐにキャッチボールをして……急いで準備をしないといけないので、難しさはありました。でも開幕戦は大会に出ている学校のうち2校しか経験できないと思うようになりました。試合が近づくと“大会第一号は誰が打つんやろ”とかみんなで言っていました」

様々な心配をよそに、ふたを開けると誉(愛知)に9-0と快勝した。「自分たちは打つことに関してはどこにも負けられないと思ってきたので、打ち負けない自負はありました」。以降は打撃戦を制し、5年ぶりに準々決勝へ勝ち上がった。

下から湧き上がる大歓声

甲子園で最も忘れられないのが地響きのような歓声だ。2回戦で対戦した智辯学園は近畿勢。近藤が出身の奈良のチームでもあった。お盆ということもあり、スタンドは大観衆で膨れ上がっていた。一時は6点リードしていたが、六回に一気に7点を奪われ、一時逆転を許した。その時の球場の雰囲気が今も脳裏に焼きついている。1点差に迫られなお2死満塁で、打席には今夏も出場の当時1年生4番、前川右京が入った。

「(遊撃手の)武岡(龍世、東京ヤクルト)の前で跳ねた打球が逆転のタイムリーになったんですけれど、その時、上や周りから聞こえてくる歓声が下から湧き上がってくるように聞こえたんです。これが甲子園なんやなって。この試合は自分はホームランを打ったんですけれど、その感触より、その時に感じた歓声のすごさの方がずっと覚えています」

101回大会2回戦、智辯学園六回2死満塁、前川は2点適時二塁打を放ち一時逆転(撮影・前田充)
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八戸学院光星は智辯学園戦は18安打。3回戦の海星(長崎)戦も14安打を放って打ち勝った。ただ、準々決勝の明石商(兵庫)戦だけは今までの試合と違った。

「点を取られて追いついても勝ち越せなかったんです。1度も勝ち越せないまま負けてしまって……。でも、夏は甲子園の“すべて”を味わえたと思います。開幕戦、ナイター、サヨナラ勝ち……。最後に負けたのは悔しいですし、優勝できることが一番ですけれど、甲子園で終われなかった学校が多い中、ベスト8まで勝ち進めたことは良かったです」

101回大会準々決勝、八回に近藤は左越え二塁打を放つ(撮影・朝日新聞社)

天理大から再び目指す日本一

地元の奈良に戻り、昨春、天理大に入学した。1年生だった昨秋から中軸を任され先輩に振り負けないスイングの強さを見せる。「1年生で使ってもらっていることに感謝しないといけないし、同じポジションで試合に出られない先輩もいるので、先輩の分まで頑張らないといけないと思っています。1年生から出させてもらっていることがどれだけ特別なことなのかを感じながらプレーしていきたいです」

6月の全日本大学選手権では、初めて大学の全国の舞台を経験した。だが、甲子園のようにはいかないことを痛感した。

「甲子園は楽しめたらいいという思いでやった結果、自分の思うようなプレーができたけれど、大学は“やらなきゃいけない”と力んでしまいました。4番を打たせてもらったのに、チャンスではさっぱり。まだまだだと感じました。金属バットと木製バットの違いで、金属のように飛ばせないところもありますが……。でも、春のリーグ戦でホームランを2本打たせてもらったし、大学でも打つことでアピールしていきたいです」

大舞台で力を発揮する極意は「野球は楽しむのが一番」(撮影・沢井史)

ただ、高校の時からずっと心に宿していることがある。
「野球は楽しむのが一番。特に大会は緊張でガチガチになってしまうこともあるんですけれど、ガチガチになって力を出せないまま終わるくらいなら、結果どうこうよりその時の雰囲気を楽しんでプレーした方が絶対にいいです。普段立てない場所……甲子園にいた時は、余計にそう思いました。大学でもその気持ちを忘れないでいたいです」

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