陸上・駅伝

特集:第90回日本学生陸上競技対校選手権大会

東海大・飯澤千翔 1500mで負け、800mで勝ったインカレ「濃い3日間」

800m決勝で優勝し、ガッツポーズでゴールする飯澤(すべて撮影・藤井みさ)

第90回日本学生陸上競技対校選手権大会

9月17~19日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場

飯澤千翔(東海大学3年)
1500m決勝 12位 3:53.78
800m決勝 1位 1:50.47

東海大の飯澤千翔(3年、山梨学院)は日本インカレで1500mと800mのレースに出場し、800mで優勝をつかみとった。レース後はホッとした表情も見せつつ落ち着いて取材に答えた。

1500mで負けても、切り替えて800mに

1日目、1500mの予選1組を1着で通過した飯澤だったが、同日の決勝では2周目まで2番手につくも徐々に後退し、15人中12位に終わった。2日目の800m予選2組に登場すると、集団の3~4番手につけて様子をうかがい、徐々に前に出ると最後は根本大輝(順天堂大4年、佐野日大)の追い上げをかわし1着でゴール。3日目の準決勝1組でも、ラスト1周からギアを上げ、1着で決勝に進出した。3日目でインカレ5本目のレースとなった800m決勝には、この種目日本インカレ2連覇中の法政大学・松本純弥(3年、法政第二)、800m日本記録保持者である環太平洋大の源裕貴(4年、美祢青嶺)など実力者が並んだ。

「自分が思ってた通りに位置を取れたので、良かったかなと思います」。飯澤は決勝のレースを振り返って話す。予想では源が飛ばしたらその後ろにぴったりつき、「ラスト100でバシッといく」プランだった。しかし思った以上に源の走りが伸びていないように見えた。飯澤は先頭に出た松本をラスト200mで抜き、そのまま最後まで逃げ切ってゴールした。「みんな800の選手で、自分は1500の選手なのでおそらくその分スタミナがあると思うんですよ。あんま動いてないから早くいっちゃおうかなと思って、それがうまくハマって逃げ切れたって感じです」

予想よりスピードが出ていない。飯澤は自分の勝負勘を信じて仕掛け、逃げ切った

飯澤がインカレで800mを走るのはこれが初めて。「枠が余っていたので(笑)」と言いつつ、「チームのために1点でも多く稼ごうというつもりで走りました」。3日間で5本レースを走ったことで、体はだいぶ悲鳴をあげていた。「夏合宿が終わってから1週間で(インカレに)入ったんですけど、最後の方の練習はうまくいかないことがあって。それでも周りからの期待があって(1500mの)優勝を狙ってたところはあって。それでもダメだったけど、ダメなレースが続いてきた中では割と良くまとめられたというのがあったので、気持ち的にはなんとか前に進んでました」。1500mで勝てなかったことには「多少ちょっと落ち込みましたけど(笑)」と笑い、「切り替えてなんとか800で勝ってやろうって気持ちになれたので、それが多少なりとも優勝につながったのかなと思います」。前向きな気持を持てたからこその勝利だった。

スピードは充分、もっとスタミナを

飯澤はルーキーイヤーの2019年、関東インカレ1500mで先輩の館澤亨次(当時4年、現DeNAアスレティックスエリート)に0.01秒差で勝ち優勝し、鮮烈なデビューを飾った。その年の日本インカレ1500mでも、勢いそのままに優勝。しかし昨年はけがなどの影響もあり、日本インカレを欠場。今年も4月の兵庫リレーカーニバルでは優勝したが、5月の関東インカレ1500mではまさかの予選落ち。6月の日本選手権では決勝に進んだものの最下位と、不本意なレースが続いていた。そして今回も1500mでは勝てなかった。

1500mを1日に2本走るスタミナが不足している。飯澤からは何度も「スタミナ」の言葉が出た

「1500mを走るためのスタミナが不足していた」と自らを分析する飯澤。「800で勝てて思ったのは、スピード的な面は揃っているので、(1500mで)1日2本走れるスタミナをつけないと、日本記録の更新もちょっと難しいと思うので。全カレの3日間通して、明確な課題が見つかったので良かったと思います」。1500mでスタミナ不足だという課題を見つけ、800mでスピードという自分の長所を確認できた。「負けて勝った、すごい濃い3日間だったと思います」

強い後輩の存在も刺激に

思い返すと、1年の頃は夏合宿やアメリカ遠征で距離を踏んでいたのに対して、昨年はけがもあり走れず、今年の夏も距離が足りていないという自覚があった。「長く走りながらも質をしっかり上げていくのが、スタミナ強化には必要だと思います」。秋は5000mにシフトし、走り込みを伸ばしていくつもりだとも展望を語った。ちなみに800mで勝ったことで、この種目を専門にやらないのか? との質問には「やはり1500mで日本記録を更新するという目標があるので」。インカレなどではチームのために出場するかもしれないが、あくまで自分の主戦場は1500m、と飯澤は決めている。

800mには飯澤の1学年後輩の安倍優紀(2年、星陵情報)も出場しており、予選1組で最初から引っ張って1着、準決勝2組でもラストの直線で源に食らいついて2着だった。飯澤は安倍について「やっぱり後輩には負けたくないっていうのがあって、決勝はちょっと遠慮なく勝たせてもらいました」と笑う。飯澤は予選のとき、走り終わった安倍に「強いな!」と声をかけていた。そのことを聞いてみると「最初から引っ張って逃げる、あれをできるのって相当強くないとできないと思うんですよ。やっぱ強いんだなと思って。準決勝も源さんと一緒でしたけど、臆することなく積極的に走ってたので、決勝はいい戦いになりそうだなと思いながらも、しっかり勝てたので。本当にいいチームメートであり、ライバルだなという感じがします」。強い後輩の存在も、飯澤にとっていい刺激となっているようだ。

800m決勝のレース後、飯澤と安倍はお互いの健闘を称え合った

飯澤は日本インカレのすぐあと、23日に福島であったミドルディスタンスチャレンジ(MDC)の1500mに出場し、1000mまで小学生のペースメーカーが引くという変速レースながら勝ちきった。そのレースに出たあとは「ちょっと休んで、5000の方にシフトしていければなと思います」

秋の目標は5000mのベストである13分53秒33を更新することだが、今のままでは13分台も難しいと考えている。「まずは13分台でしっかり走ることが今の目標というか課題、そんな感じです」。自分の課題をしっかりと見つめられたインカレ。この経験を糧として今後の飛躍につなげられるか。

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